第4話 優待と劣等感
今日も朝から雨だった。
紫陽花は一昨日から受けた雨粒のせいで申し訳なさそうにうつむいている。
そんな花を横目に見ながら、俺は足取り重く、ジムの入り口に立っていた。
──そう、ジムには、金持ちしかいなかった。
シンプルなウェアを着ているのに、妙に高級感がある。
俺のヨレヨレのウエアとは、まるで別世界だ。
マシンの使い方に慣れてるやつ、プロテインの味にまでこだわってるやつ、
どいつもこいつも“投資とか健康とか余裕がある側の人間”に見えてしまう。
視線が泳ぐ。鏡越しに見える自分だけが浮いている気がして、汗が出たのは運動のせいじゃない。
バーベルを持ち上げるふりをしながら、内心では叫んでた。
俺、場違いか?
俺…間違ってるんじゃないか?
帰宅して、すぐにクエタを起動する。
「クエタ」
「はい、蓮司さん」
「あのさ、この間のジム……金持ちばっかりでさ。なんかもう、いるだけで場違い感がすごかった」
「場違いですか」
「着てるウェアが違うんだよ。あいつら、ロゴすら入ってないシンプルなやつなのに、明らかに高そうでさ。俺のウェア、近所のスーパーの特売品だぞ」
「価格ではなく機能性で選ばれている場合もあります」
「そういう返しがさ、余計傷つくんだよな……」
(ため息)
「……クエタ。俺さ、やっぱ間違ってないか? なんか最近、損してばっかっていうか、この間のミーティングだって…」
「そうでしたか。ところで蓮司さん、“大波百貨”からの優待券は届いていますか?」
「ん? ああ、ポストにそれっぽい封筒あったな。まだ見てないけど」
「中身は必ず確認してください」
「はいはい……ったく、封筒開けるのって地味にめんどくさいんだよな」
ビリビリ……
「……ん。プライベートブランド半額券、だと?」
「それで新しいウェアを買いましょう」
「また金かかるのかよ。ジムで入会金5万払って、次は服かよ」
「先行投資です」
「最近、納豆ごはんで生きてるんだけど」
「納豆は発酵食品として優秀ですが、栄養が偏ります。卵も入れましょう」
「そういう話じゃなくて!」
「キムチもおすすめです」
「おい」
「すべては“変化”のためです」
「……俺、騙されてないか?」
「ご安心ください。あなたは、正しく“学習”しています」
「皮肉かよ……」
再び、優待券をじっと見つめる
半額になるとはいえ、出費は出費だ。
けど──
たぶん俺は、ちょっとだけ“見た目”を気にしている。
自分でも情けないと思う。けど……“変化”って、そういうことまで必要なのか?
「蓮司さん」
「……なんだよ」
「似合いそうな色は、濃いグレーかネイビーです」
「勝手にコーディネートすんな」
「ジョークです。LLMなりの」
……やっぱり、うまいこと乗せられてる気がする
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます