価値

 月曜日の昼休み、純太は1人の男子に絡まれていた。


「なあ、園田くん。俺らってさ友達だよな?」


 話しかけてきたのはこの前晃大とカラオケに行った時にいた男子の1人だった。

 1度も会話を交わしたこともないし、カラオケでも何となく避けられているような気がした。そんな人を友達と呼ぶのはいささかどうかと思うが、友達を増やそうと思っていた俺からすると願ったりだったのでそういうことにしておくことにした。


「なんの用?」


「お前ってさ、渡辺さんと仲良かったよな?」


「まあ、そうだけど。」


 相手は俺に耳を貸すように促す。


「今度渡辺さんに俺を紹介してくれよ。」


 ……そういう事か、要するに自分が友達になってやる代わりに渡辺さんを紹介しろと、こいつはそれが対等な取引だと思っているらしい。確かに、俺は今友達が欲しいわけだが、しかし取引というのは平等な相互関係がないと成立しない。

 俺はあまり人に価値はつけたくないが、こいつはその交渉材料としてはあまりに低すぎる。俺に渡辺さんを紹介しろというのなら豪邸のひとつでも用意しないと頷けない。人が人につける価値は人それぞれ違う。あくまで俺の中での話だが、それだけの価値が彼女にはあった。つまるところ、それだけ大切な友達。と言うだけだ。


「悪いな、俺そこまで仲良い訳じゃないんだ。」


 そういうとそいつの態度は一気に変わった。舌打ち混じりに


「えー、なんだよ使えねえな。紛らわしく仲良いみたいにしてるじゃねえよ。」


 と言い残しその場を離れていった。一難去った。純太はため息をついて自分の机にもたれる。仲良いわけじゃないと言ったのには理由がある。ただ単純に嫌だなんて言ったらああいうやからは喧嘩を売られたとでも勘違いするだろう。その結果、問題を起こすなんてことにはしたくはなかった。そんなに仲良くない。なんて言うのには少し抵抗があったが……

 日曜日に清さんは月曜日、つまり今日来ると言う旨の連絡があったから、今日問題を起こして結末を見ることが出来ないなんてことは避けたかった。


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 聞いてしまった。別に聞き耳を立てようとしていた訳では無い。廊下から教室に戻ろうとした時、園田くんの声が聞こえた。


「なんの用?」


 その時点ではなんの問題もなかった。ただ聞き流す予定だったのだが、


「お前ってさ、渡辺さんと仲良かったよな?」


 自分の名前が出て来て思わずびっくりして教室の扉に隠れる。

 仲良かったよな。か、園田くんは自分のことを友達と呼んでくれた。私の中では誰よりも仲がいい、なんて思っていただけに次の園田くんの言葉はかなり心に来た。


「悪いな、俺そこまで仲良い訳じゃないんだ。」


 友達に伝えるような口調であっさりと、そんなことを言われてしまった。実際に直接言われた訳では無いが間接的に知ってしまったのだ。「そこまで仲良いわけじゃない。」どうやら自分は少し思い違いをしていたらしい。かなりショックだったのでその後も園田くんと話していた人が何か言っていたが聞こえなかった。


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 渡辺さんの様子がおかしい。なんというか、妙によそよそしいのだ。授業が終わり、打ち合わせした通り校門で清さんを待っているのだが、一向に口を開こうとしない。いつもなら、どうしてそんなに話題が出てくるのかと不思議に思うほど話していたが、今日は違う。何故かずっと黙っている。俺からの会話には応じてくれるが向こうから話しかけてくることは無い。

 いったいどうしたというのだろうか。


「調子でも悪いか?」


「別に、なんで?」


「いやなんかいつもと様子が違うような気がしてさ。」

 

「気のせいだよ。」


 こんなに冷たい渡辺さんは初めてだ。かなり恐ろしい。しかし俺もここで引く訳にはいかない。


「俺、なんかしたかな?」


「………」


「なんかしちゃったなら謝るよ。」


「……別に、なんもしてないよ。」


 取り付く島もないというのはこのことだろう。こんな会話をしているうちに清さんがやってくるのが見えた。


「あ、清おじさん!」


 渡辺はそちらの方へ歩いていく。

 一体全体なんだと言うのだ。思い当たる節がないか考える。しかし、何も浮かばない。

 純太は再びため息をつき、渡辺のあとについて歩いた。

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