友達
翌日、昼休みでのこと。唯が自分の席に座っていると、鈴木とほか何人かが話しかけてきた。
「ねえ、唯ちゃん。ちょっと来てくれるー?」
「え、何?何か用?」
唯が動こうとしなくて痺れを切らしたのか、鈴木が唯の腕を掴んで強引に引っ張りながら言った。
「はぁー。もういいからー早く来いよ。」
「ちょ、ちょっと!」
人が少ない廊下まで半ば強引に連れてこられた。正直、今までは無視されていたと言うだけで、こういう直接的なことをされたことは無かった。だから唯は強い態度こそ取っているが内心ビビっていた。
「さのさぁー、唯ちゃん。唯ちゃんって最近園田くんと仲いいよねぇ?」
「そうだけど、それが?」
鈴木はまた大袈裟にため息をつく。
「園田くんって髪切っていきなりかっこよくなったよね?」
図書館に行くついでに美容室にも行ったことを思い出した。
「正直、邪魔なわけ。ていうかさー唯ちゃんは園田くんとどういう関係なわけー?」
「どうって別に……」
友達、と言おうとして言葉につまる。自分は園田と友達だということでいいのだろうか?友達を名乗ることを許されるのだろうか?
「何黙ってんだよ?」
鈴木とその取り巻きは唯のことを囲むように立っていた。
「はぁ、せっかく目障りだから実行委員にしてやったのにさー、園田くんと一緒になるとかムカつくんだけどー。」
「もうさー、園田くんとは関わらないでくれない?」
「……………」
「おい。なんか言えよ。」
園田にとっては唯は友達ですらないのかもしれない。でも、唯にとっては大切な人だ。
気がついたら唯は口を開いていた。
「無利。」
「あぁ?」
「絶対に、無理。」
「あのさー、立場わかってる?」
鈴木は今すぐにでも掴みかかって来そうだ。
あまりの剣幕にギュッと目をつぶる。その時、
「あ!いたいた。渡辺さん!仕事のことでちょっと話があってさ!」
いきなりその場から手を引かれて脱出に成功した。そこから少し離れたあたりでチッという鈴木の舌打ちが聞こえる。閉じていた目を恐る恐る開けると、そこには先程まで鈴木との話題に挙がっていた男の子がいた。
「ふふ、園田くん。いきなり腕を掴むなんて、随分と強引だね。」
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昼休みでのことである。何やら、渡辺に鈴木が話しかけているのを目撃した。どういうことがと気になり、純太は横目でそっちの方を見る。
しばらくすると、なんと鈴木が強引に渡辺を廊下へ連れていくところを見てしまった。昨日のこともあり、少し心配だった純太はこっそり後をつけることにした。鈴木は人気が少ない廊下まで渡辺を連れていくと、取り巻きたちと渡辺を囲った。
何やら話をしていたようだが、純太には聞こえなかった。
しかし最後に鈴木が発した大きな声だけは純太の耳へと届いた。
「立場わかってる?!」
あまりの剣幕で今にも渡辺に掴みかかりそうであった。
その時、純太の体はかってに動いていた。純太の存在に気がついた鈴木たちはかなり驚いた顔をして固まっていた。
「仕事のことでちょっと話があってさ。」
なんて適当な言い訳をして、その場から渡辺を引っ張り出した。
鈴木のチッという舌打ちが聞こえて我に返る。もしかして俺、余計なことしたか?
渡辺の方を恐る恐る見る。だが、渡辺はとても嬉しそうな顔で
「ふふ、園田くん。いきなり腕を掴むなんて、随分と強引だね。」
といった。
「強引って、」
「冗談冗談。助けてくれてありがとう。」
どうやら、余計なお世話ではなかったらしい。
「気にすんなよ、友達だろ。」
そう言うと、渡辺はびっくりしたような顔をした。自分の中ではもう友達と呼んでもいいと思っていたが、向こうはそうじゃなかったかもしれない。
渡辺は下を向いたまま
「友達、友達……」
と呟いている。そう呼ばれるのが嫌だったのかもしれない。しかし、そんな純太の心配とは裏腹に、渡辺は
「そうだね、友達。だもんね。」
なんて笑いながら言った。
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