10、家族の愛

 シップは、ソニヤが指差していた少し大きめの宇宙船にゆっくりと近づき、その宇宙船の上部の平らな所にドッキングした。ドッキングするとシップのハッチが開き宇宙船の中に入ることができた。


 「広くて素敵な宇宙船ですね」由香里が宇宙船に入るなり驚いた。

 その宇宙船の中はとても広くて、壁はガラス張りで外の雄大な景色が一望できた。

 「実を言いますと、この宇宙船は私の家で、隣に見えるのがアロンの家です」


 よく見ると、少し離れた場所に同じような宇宙船が空に浮かんでいた。

 「この宇宙船が家なんですか」雄介が驚いた。

 「そうなんです。アンドロメダ星では全人口の約半分の人は、このホーム船と言って、空に浮かぶ家で暮らしています。残りの半分の人々は地上の家で生活しているのです。どちらで生活するかは個人の自由になっています」


 「空に浮かぶ家での生活なんて凄いですね」良太が感心している。

 「このホーム船は地上に降りることはできませんが、自由に行きたい場所の上空に行けます。そして地上に降りたい時は、小型の宇宙船で地上に降りて、ショッピングしたり食事に行ったりすることができます」

 「家ごと星中を旅することができるんですね。驚きです」雄介も感心している。


 「さあ皆さんこちらへどうぞ。両親を紹介しますね」ソニヤが先に立ち皆を案内した。エントランスの中央に有る、緩やかにカーブした広めの階段を下りると、そこはリビングのようだった。

 リビングの壁もガラス張りで、見事な景色が広がっていた。そのリビングの窓際に60代位の夫婦と思われるカップルが二組、ゆったりとした大きめのソファーに腰かけて楽しそうに会話をしていた。


 「お父様、お母様、只今帰りました」ソニヤが声を掛けた。

 「お帰りソニヤ。それにアロンお帰り。今日はお友達も一緒なんだね。いらっしゃい」

 「お父様、紹介しますね。こちらは地球からいらした雄介さんと良太さん、それに由香里さんです」


 「皆さん。始めまして私はソニヤの父親です。皆さんのことは何時もソニヤとアロンから聞いていますよ。お会いできて嬉しいです」

 「ありがとうございます。私達も素晴らしいお二人のご両親にお会いできて光栄です」雄介が挨拶した。


 「ソニヤの両親と僕の両親はとても仲が良くて、以前から隣同士で生活しているんだ。だから僕とソニヤは、幼い時から兄妹のように育ってきたんだよ」

 「そうなんだ、だから何時も一緒にいるんだね」

 「皆さん、アンドロメダ星はどうですか」アロンの父親が聞いた。


 「とても近代的な星ですし、それに全ての人々が幸せに暮らしているそうで、素晴らしい星だと思いました」由香里が答えた。

 「ありがとうございます。アンドロメダ星は以前大変なことが有りましたが、それを糧にしてここまで幸せな星になったのですよ」アロンの母親が優しい笑顔で言った。


 「そうですね。大変なことが有ったんですね。でもそれを乗り越えてこられたアンドロメダ星の人々を尊敬致します」良太が話した。

 「立ち話も何ですから、さあおかけください。いまお飲み物をお持ちしますね」ソニヤの母親が優しい笑顔で言った。


 「ところでアロン。あのことは皆さんに話したのかい。まだだったらここでお話ししたらどうだい」アロンの父親がアロンに聞いた。

 「あのことですね。そうですね。じゃあここで話しますね。皆さん、実は僕達結婚するんだ」


 「え、いま何て言った」雄介がアロンに聞き直した。

 「だから、僕とソニヤは結婚をすることにしたんだ」

 「それは驚いたな」雄介が思わず大きな声で言った。

 「雄介君、そこで言うのは『驚いた』じゃあなくて『おめでとう』でしょう」由香里が冷静に言った。


 「そうか、そうだね。おめでとう」

 「でも何でまた結婚するんですか」今度は、良太が失礼なことを言った。

 「だから良太君も失礼な人ね」由香里があきれている。


 「ごめん、でも僕もちょっと驚いたものだから」良太が少し慌てている。

 「アロンさん、ソニヤさん、おめでとうございます。それで結婚式は何時なんですか」由香里が聞いた。

 「特に式を挙げる予定は無いの。私とアロンは付き合いも長いし、何か変化が有るとすれば一緒に生活を始めるぐらいかな」

 「二人の結婚は、私達が勧めたのよ」アロンの母親が嬉しそうな笑顔をしている。


 「私達四人は、ずっと以前からとても仲の良い友人なんだ。私達がそれぞれ結婚してアロンとソニヤがそれぞれの家庭に産まれてからも、ずっと仲良くしてきたんだ。私達は以前から二人を結婚させようと考えていたんだが、当の本人達は兄妹のように育ってきたものだから、全然その気が無くて困っていたんだよ。でも最近になってやっと家族や一族の結束の重要性が二人にも分ってきたようで、やっと結婚してくれることになったんだ」アロンの父親が言った。


 「家族や一族の結束」雄介は、結束と言う言葉に不思議に思った。

 「そうだよ、このアンドロメダ星をより幸せな星にしていく為にも、私達家族や一族の結束が大切なんだ」ソニヤの父親が真剣な顔をしている。


 「二人が結婚しないと私達の家族は、ただの友人でしかない。しかし二人が結婚すると私達家族は一族となれる。家族の結束も大事だが一族が結束することで、より強固なエネルギーが生まれるんだ」アロンの父親が言った。


 「幸いにもアロンとソニヤは、このアンドロメダ星の幸せを守っていく仕事をしている。その二人が結婚し二人の心がぴったり一致して、そして私達も一族となり私達の心も一致することで、全てのことが上手くいくんだ。二人が行っている仕事も今以上にスムーズに、より飛躍して発展していくことができるんだ」ソニヤの父親が言った。


 「それは、素晴らしいですね。そんなことがアンドロメダ星には有るんですね」雄介が感心している。

 「これはアンドロメダ星だけのことではありませんよ。家族や一族の心がぴったり一致すれば、全てのことが上手くいくのは、この宇宙のどこの星でも言えることなのですよ」アロンの母親が言った。


 「どの星でも。なら地球にも言えることなのですか」由香里が驚いて聞いた。

 「そうですよ。どこの惑星でも一代で財を成すような人は、その人を心から支える家族が必ず居ます。一族の心が一致して結集していれば、それはより強固な物に成るのです。この法則はこの宇宙どこの星でも言えることですよ」ソニヤの母親が笑顔で話した。


 「そう言えは、日本でも昔、財閥と言われた人は一族で結集して事業を行っていた話を聞いたことがあるよ」良太が感心している。

 「そうなんですね。それでアロンとソニヤさんは結婚して心を一つにし、それで一族が結束してアンドロメダ星の幸せをより強固な物にしていくんだね」雄介がうなずいた。


 「しかし、夫婦や家族は心を一つにすることが難しいものなのです。近くに居れば居るほど我が出てしまいますからね。そこを相手に望むのではなく自分が身近に居る人の心を酌んで、相手が何を望んでいるのかを感じ、相手を喜ばし心を一つにできたら得られる物は大きいのです」アロンの母親が話した。


 「それに家族の中でも夫婦が基本中の基本です。親子がいくら仲が良くても、夫婦仲が悪ければ決してその家庭は幸福にはなれない。逆に言えば夫婦仲が最高に良ければ、子供はほっておいても健康で優秀で立派な人間に育つのです」アロンの父親が説明した。


 「その星の幸せの根本は、その星に住んでいる家族です。全ての家族が幸せならその星は幸せな星に成れるのです。それは地球も例外ではありません。本当の幸せは遠くに有るのではない。一番身近に一番大切な幸せが有るのですよ」ソニヤの父親が言った。


 「皆さんは、家族を心から大切にしていますか。地球からこの遠いアンドロメダ星に来て、ご家族に心配を掛けていませんか。家族の心は、どんなに遠くに離れていても繋がっています。たとえ地球とアンドロメダ星がどんなに離れていても一瞬にして家族の心は通じるのですよ。家族を愛し、家族を安心させてあげて下さい。すると必ず未来が開けてきます」ソニヤの母親が笑顔で話した。


 「そうですね。私達は最近ずっと親元を離れて生活をしています。しばらく地球に居る家族には連絡していないですね。心配しているかも知れませんね」良太が家族のことを思い出した。

 

 「今回アンドロメダに来られて本当に良かったです。家族の心が一つになって結束することで、素晴らしい力が得られるんですね。このことが地球が幸せの星に成れる、ヒントのような気がします。この家族の心を一つにすることを地球の人々にも伝えてアンドロメダ星のように幸せの星にする為に頑張っていきます」雄介の心がワクワクしてきた。


 「それは良かった。私達が地球の幸せの為にお役に立てたのならとても嬉しいです」アロンの父親が言った。

 「アロン、ありがとう。僕達をこんなに素晴らしいアンドロメダ星に、そして最高に素晴らしいご両親に会わせてくれて、心から感謝です。必ず僕達は、地球や他の惑星もアンドロメダ星のように幸せの星にするよ」


 「良かったよ、雄介が喜んでくれて僕も嬉しいよ」

 「ソニヤさんもありがとうございました。アロンと心を一つにして素敵な家庭を築いて下さいね」

 「ありがとう。雄介さん」ソニヤが優しく微笑んだ。


 「それはそうと、由香里さん。あなたはこんなに素敵な男性二人と一緒にいて、どちらの人を結婚相手に選ぶの」ソニヤの母親が由香里に聞いた。

 「それは、全く考えて無いです」由香里が大きく手を左右に振って答えた。


 「雄介さんと良太さんはどうなんですか。こんなに素敵な由香里さんと何時も一緒に居て、結婚は考えていないの」今度はアロンの母親が二人に聞いた。

 「ごめんなさい。僕達も全くそんなことは今まで思ったことが無かったです」雄介と良太が顔を見合わせうなずいた。

 「ちょっと、あなた達。本当に失礼な人達ね」その場にいた全員が笑った。

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