7,アンドロメダ星(1)

  雄介達は次の日、地球に向けて帰ることにした。リンリンが雄介に挨拶にやって来た。

 「天野様、ありがとうございました。天野様には色々とご尽力頂きましてゾイバー星の全ての者を代表してお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」


 「リンリンさん、これからはこのゾイバー星を大切にして下さい。また何か有りましたらご連絡下さい」

 「ありがとうございます。そうそう私から天野様にプレゼントが有るんです。私が飼っていた天野様に似た魚をプレゼントさせて下さい。これです」


 するとリンリンの後ろにいたブルドックに似たゾイバー星人が、体長20センチ程の魚が10匹入った水槽を、台車に乗せて雄介の前に持って来た。その魚を見ると体は普通の魚のようだか顔が人の顔で、どことなく雄介に似ていた。


 「ほんとだ。顔が僕に似ていますね。こんな魚を見たのは初めてです」

 「もう少し大きくなったら煮付けとか塩焼きにして食べて下さい。とっても美味しいですから」

 「食べるんですか」


 「はい、これは食用です。ゾイバー星では高級食材ですよ」

 「魚は好きですが自分に似た魚を食べるのは、ちょっと抵抗があります。リンリンさん、お気持ちだけ頂いておきますので、この魚はお返し致します」

 「そうですか。とっても美味しいのに残念です」


 「自分に似た魚を見ることができただけでも良かったです。ありがとうございました。では私達はこれで失礼いたします。リンリンさん、ゾイバー星の為に頑張って下さい」

 「ありがとうございます。天野様もお体には気を付けて下さい」

 「ありがとうございます」


 雄介達は、ゾイバー星を後にして地球を目指して出発した。雄介と良太、由香里が地球に帰る途中に、今回の出来事を話している。

 「雄介、今回のゾイバー星の件も大変だったけど、無事に全てが上手くいって良かったな」

 「そうだね、一時はどうなることかと思ったよ」


 「でもリンリンさんがあんなにも変わるなんて、思ってもみなかったわ」

 「流石雄介だよ。雄介の心が変わったからリンリンさんの心も変わって、事態が変化したんだね」

 「でもそうなのかな。僕には良く分らないよ」

 「雄介は自分の心が変わったかどうか実感が無いの」


 「そうなんだ。確かにリンリンさんは驚く程に変化してくれて僕もびっくりしたけど、僕自身の心もそんなに変化したんだろうか。またマザーさんに僕の心の状態を尋ねてみるよ。マザーさんなら僕の心の状態がどうなのか分かると思うからね」

 「そうだね。それがいいよ」


 そして雄介は、その日の夜ワーマ星のマザーにテレパシーを送った。

 『マザーさん、マザーさん。地球の天野です。聞こえますか』

 『はい、天野さん。聞こえますよ』

 『マザーさんには色々とアドバイス頂きまして、ありがとうございました』

 『天野さん。あなたの心は今回のことで一つ成長できたようですね』


 『ありがとうございます。なんだか自分の心の奥底に有った物が一つ整理できたような気が致します』

 『天野さん、心の力は偉大です。心の使い方一つで幸せにもなれれば、不幸にもなります。そして人々を幸せに導くこともでき、この宇宙全体も平和にすることもできるのです』


 『そうですね。今回のことで心の重要性を学ぶことができました』

 『天野さん、全ての人々の心が偉大な存在です。その心の使い方を決して間違ってはいけないのです。あなたはその心の大切さを全ての人に伝えていって下さい。それがあなたの人生の使命なのです。それにあなたは今回のことで、この宇宙の仕組みも知りましたね』


 『この宇宙の仕組みですか。僕にはよく分かりませんが宇宙の仕組みを知ることができたのでしょうか』

 『この宇宙の真の仕組みを理解するには、心の我欲を捨てることが肝心なのです。あなたは今回、自分の幸せより他人の幸せを願い、そして行動を起こしたから人々の心を変えることができて、人を救い幸せに導くことができたのです』


 『我欲を捨てるですか』

 『そうです、自分の長寿や健康、そして幸福さえも我欲をだして望めば得ることはできない、我欲で望めば望むほど遠ざかっていくのです。我欲を捨てて人の幸せを願って行動することで、初めて自分の長寿や健康、幸福も手にすることができるのです。それがこの宇宙の仕組みなのです』


 『僕は今回、自分が気が付かないうちに我欲を捨てて、無欲になってゾイバー星の人々を救おうと思ったから、人々を幸せにすることができたのですね。そしてそれが結局、自分の長寿や健康、幸福にもつながっているのですね。素晴らしい宇宙の仕組みなのですね』


 『よいですか天野さん、あなたは更に魂を磨き、そしてこの宇宙に存在する全ての星や、その星に住む全ての人々を幸せに導いて下さい。それがあなたにはできます』

『マザーさん、分かりました。ありがとうございます。更に精進して、この世の中の全ての人々の幸せの為に頑張っていきます。マザーさん、最後に一つお尋ねしても宜しいですか』


 『はい、いいですよ』

 『心とこの宇宙の仕組みを理解し、そして魂が成長していくとマザーさんのように魂からオーラが出ると以前伺いましたが、私の魂は、まだそのレベルには達していないのでしょうか』


 『天野さん、幸せに上限が無いのと同じで、心や魂のレベルにも上限がありません。あなたの心を更に素晴らしい物にしていって下さい。すると自然と魂からオーラが出だします。そしてそれは、自分でも感じることができます。更に成長したあなたの魂に会えるのを楽しみにしております』


 『そうですか、私の心や魂はまだまだ成長させなければならないと言うことですね。分かりました。また色々とご指導ください。ありがとうございました。それでは失礼いたします』雄介はマザーとのテレパシーを終了した。


 次の日、雄介達が地球に向けて帰っているとき、アロンから連絡が入った。

 「雄介、アロンです。君達はまだ地球に向かって帰っている途中だね」

 「そうだけど、どうしたんだい」


 「雄介、申し訳ないんだけど、急いでアンドロメダ星まで来て欲しんだ。詳しいことは君達がアンドロメダ星に着いてから説明するけど、長老が雄介に早急に頼みたいことがあるそうだ」

 「長老が僕に、分かったよ。直ぐにそちらに向かいます」


 そして雄介達三人は、地球に帰るのを止めて、急遽アンドロメダ星を目指すことにしたのだ。それから雄介達は、3日程でアンドロメダ星に到着した。

 「雄介様、アンドロメダ星に到着です」

 「シップありがとう。あれがアンドロメダ星なんだね。なんて綺麗な星なんだ」


 シップの窓から見えるアンドロメダ星は、透き通るようなピンク色をした星だった。それは三人が今まで見たことの無いような星だ。

 「雄介、アンドロメダ星は、なんとも言えない実に美しい星だね」

 「そうだね、アンドロメダ星は全ての人が幸せに暮らす幸せの星と言われるだけあって、星全体が幸せ色みたいだ。どんな星なのか楽しみだね。シップ、アロンが居る所が分かるかい」

 「はい、長老のお住まいにいらっしゃるようですので、そちらに向かいます」


 シップは、ゆっくりとアンドロメダ星に近づき、長老の家を目指した。するとシップは、とても広い公園のような場所に近づいて行った。そこは花や木が植えてあり、とても綺麗に整備されていた。その公園のような場所の中央に2階建ての美術館のような建物があった。


 「シップ、あの建物が長老の家なのかい。公園のような庭には人が何人か居るようだけど」

 「はい、長老のお宅の庭は公園として開放されています。多くの人たちが憩いの場所としてお使いになっています」

 シップは、2階建ての建物の前に着陸した。そこにはアロンとソニヤが出迎えに来ていた。シップがステップを下ろし、雄介達がシップから降りると二人が近づいて来た。


 「皆さん、ようこそアンドロメダ星へ」

 「アロン出迎えてくれてありがとう」

 「皆さん、お久しぶりです。お元気そうで良かったわ」ソニヤがそう言って三人にハグした。


 「雄介、早速だけど長老が君を待っているから案内するよ」

 雄介達三人は、アロンとソニヤの後に付いて建物の中に入って行った。その建物の中に入ると、エントランスは2階まで吹き抜けになっていて、雄介達は立派な建物に驚いた。エントランスの奥には大きな階段があり、それを登って2階に上がった。そして大きな扉の前に皆が立つと左右の扉は自然と奥に開いた。


 「さあ皆さん、中へどうぞ」

 部屋の中は天井が高く、大広間のような所だった。アロンが部屋の中央にある肘掛けの付いた立派な椅子に皆を案内した。椅子は横一列に置かれていて、右端にソニヤ、その隣にアロン、そして雄介、良太、由香里の順番で座った。


 皆の正面には、一段高くなった所に皆の方を向いて椅子が一脚置かれていた。すると部屋の奥から100歳は超えているように見える年配の男性が現れた。その男性は白人で背は高く立派な体格をしていた。髪は無く10センチ程の白い髭を伸ばしていた。服装は、シルバーのスペーススーツの上にゆったりとしたグレーの上着を着ていた。


 「皆さん、長老です」アロンがそう言って立ち上がり頭を下げたので、皆も立ち上がりお辞儀をした。

 「皆さん、お掛け下さい」長老がゆっくりとした口調で優しく言った。そして皆は椅子に座った。


 「天野雄介さん、それにお友達の方、アンドロメダ星へよく来て下さいました。私がアロンの前にギャラクシーユニオンの総理事長を務めておりました。マゼンドリーと申します。私は現在、第一線を退いておりますが皆は私を長老と呼んでおります」長老は、優しい笑みを浮かべ話した。長老は続けた。


 「天野さん、あなたにわざわざここに来て頂いたのは、この宇宙の異変をあなたに救って頂く為です」

 「宇宙の異変を私に。そうなんですか」雄介は、長老の言葉に驚いた。長老は宇宙の異変について説明を始めた。


 「この宇宙は、宇宙が誕生したときから、物凄い勢いで膨張を続けてきました。しかし数年前からその膨張のスピードが衰え始めたのです。それと同時にこの宇宙の中に存在する恒星が、突然異変を起こし大爆発する現象が始まったのです」


 「それは地球が回る太陽にも同じ現象がありました」雄介が言った。

 「そうです。地球が回る太陽も、地球に住む人々の多くが争い、幸せの星では無かった為に滅びる運命だったのです。それを天野さんが救ったのです。しかし惑星に住む人々の心が悪く、この宇宙に必要無いと判断された惑星は、その惑星が回る恒星が爆発を起こしこの宇宙から消滅しています」


 「なぜそのようなことが起きているのですか」雄介が長老に聞いた。

 「この宇宙を創造し膨張させ、新しい星を作って来たのは宇宙波動エネルギーです。その反対に、この宇宙の中に必要で無い物を消滅させているのがダークパワーと言う力なのです。


 宇宙の膨張スビートが遅くなっていると言うことは、何らかの原因で宇宙波動エネルギーの力が減少し、その代わりにダークパワーの力が強くなってきているのかも知れない。宇宙波動エネルギーとダークパワーは、この宇宙の中でバランスを保っているのです」


 雄介は、長老の言葉に動揺が隠せなかった。

 「なぜダークパワーは、そのようなことをしているのでしょうか」

 「それはこの宇宙の定めなのかも知れない。しかし完全にこの宇宙の膨張が止まってしまえば、この宇宙にどんな恐ろしいことが起こるのか分からない。天野さん、あなたはこの宇宙の膨張が止まってしまう前に、この宇宙を救わなければならないのです」


 「私がこの宇宙を救うのですか」

 「そうです、この宇宙を救うことができるのは、この広い宇宙の中であなただけなのです」

 「そうなんですか。私がやらなければならないことなのですね。分かりました。それでどのようにすればこの宇宙を救うことができるのでしょうか」


 「それには、あなたの魂を更に向上させる必要があります。そしてあなたの魂から強いオーラの力が出せなければなりません」

 「やはりオーラの力が必要なのですね。私は以前魂から出るオーラのことを聞いてから、何時かは私もオーラを出してみたいと思って来ましたが、一向に出すことができていません。こんな私でも大丈夫なのでしょうか」


 「天野さん。この宇宙の中で魂から強いオーラが出せる可能性を持っているのは、あなたしかいないのです」

 「私が以前出会ったワーマ星のマザーさんも強いオーラを出せる方だと思いますが、マザーさんではダメなのですか」


 「私もマザーさんのことを聞き宇宙波動エネルギーに尋ねたが、この宇宙の異変を救う為には彼女が出すオーラの何十倍も強いオーラが必要だと答えがでた。彼女のオーラはあれが限界の様です」

 「そうなんですね。マザーさんの何十倍ものオーラが必要なのですか」雄介は、長老の言葉を聞いて自分にできるのだろうかと思った。


 「天野さん。心配しなくても大丈夫です。宇宙波動エネルギーがあなたならできると言っていますから心配は無用です」

 「そうですか、ありがとうございます。それでもし私に強いオーラを出すことができだしたとして、何をしていけば良いのですか」


 「この宇宙を救う方法は、二つあると思います。まず一つ目は、天野さんの強いオーラで、いま力が弱まってきている宇宙波動エネルギーの力を復活させることです。宇宙波動エネルギーさえ強い力を維持し、この宇宙を膨張させていればダークパワーの力は自然と弱まり、文明の遅れた惑星が淘汰されることは無くなってくるでしょう」


 「それは、この宇宙全体を司る宇宙波動エネルギーにオーラのエネルギーを注入するような感じなのですか」

 「そうです、この宇宙の膨張が停止してしまう前に天野さんのオーラの力で宇宙波動エネルギーを復活させるのです」


 雄介は、宇宙波動エネルギーを復活させる程のオーラの力が、どのような物なのか想像ができなかった。

 「そして、もう一つの方法としては、宇宙の膨張が停止してしまう前に、この宇宙の中に存在する全ての文明を持った惑星を、幸せの星に変えることです」


 「全ての惑星を幸せに変えると、どうなるのですか」

 「惑星に住む人々の心が愛と感謝と平和で満たされ、幸せに暮らしていれば、たとえ宇宙の膨張が止まったとしても、惑星が回る恒星は爆発を起こすことはない。そして幸せな生活を永遠に続けていくことができるのです。しかし宇宙の膨張が停止したときに原始的な人々が住む、犯罪や争いの絶えない惑星は全てがダークパワーに淘汰されるのだと思います」


 「そうですか。しかし、そんなことができる魂のオーラの力をどの様にしていけば得られるのでしょうか」

 「天野さん、あなたの魂は強いオーラが出せる可能性を秘めている。あなたはアロンと出会い色々なことを学んだ。そしてあなたは魂を向上させ、色々な星を救うことで大切な心も知った。そしてあなたの心の奥底に隠れていた悪い心も滅することができた。あと少しであなたは更なる魂の向上に目覚めるはずだ。それができれば可能なのです」


 雄介は身震いしてきた。自分がこの宇宙の全ての人々を滅亡の危機から救わなければならないのだと感じていた。

 「天野さん、このアンドロメダ星であなたの魂を更に向上させ、あなたの魂からオーラ出すヒントを掴みなさい。あなたの魂はもう更に向上する準備ができている」


 「そうですか、分かりました長老、僕にどこまでできるのか分かりませんが、更に魂を向上させ、僕の魂からオーラが出せるよう頑張ります」雄介は、長老の言葉に自分の魂を向上させることを決意した。

「それで長老、この宇宙が膨張を止めてしまうのは、あとどのくらい先のことなのでしょうか」


 「それは早くて2、3年、遅くてもあと5年後には膨張が完全に止まるかも知れない」

 「そうなんですね、それならなるべく早くしないといけませんね」

 「天野さん、この宇宙の全ての人々の為に宜しくお願いします」長老は、雄介に向かって頭を下げた。


 「アロン、ソニヤ、皆さんにアンドロメダ星をご案内して、ゆっくり過ごして頂きなない」

 「承知いたしました」

 長老は、立ち上がり奥の部屋に入って行った。皆も立ち上がり頭を下げ長老を見送った。


 「雄介、君には何だか凄い使命があるね」良太が真剣に雄介を見た。

 「でも雄介君には、それを成し遂げられる力があるのよね。頑張ってね」由香里も雄介の秘めたる力に感心している。

 「僕にはよく分からないけど頑張るよ」


 「雄介、長老がお話しだったようにこのアンドロメダ星で何かを掴んでくれ。僕とソニヤで色々案内するよ」

 「アロン宜しくお願いします」

 そして皆は、建物の外に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る