2,ムーンコロニー

 次の日、学校から帰って来た雄介が、自分の部屋に入るとアロンが見当たらない。すると、押し入れのふすまが開いてアロンが押し入れから出てきた。

 「雄介、お帰り」

 「アロン、また押し入れに入っていたの。ほんとドラえもんみたいだな」


 「なに言ってるの、この押し入れが僕の宇宙船に繋がっているの」

 「凄いな。どこでもドアみたいだ」

 雄介は、未来の技術に触れているようで益々宇宙に興味が湧いてきた。

 「アロン、こんど宇宙船に乗せてくれよ」

 「ああ、そのうちにね」


 「ところでアロン、色々考えているんだけど、世界を平和にしていくにはどのようにしていくのがいいのかな。いい方法があるのかな」

 「雄介、僕も地球に来てから、地球や日本の歴史を調べたんだけど、日本も昔、戦国時代は国の中で争ってきたよね。それが日本の外に色々な国があることを知ると、段々と国同士の争いになってきたね。よその国も同じようなことが起きていただろ。今の地球人は、他の星に自分たちより優れた文明を持った星が有ることを知らない。だから地球の中で争いが絶えないんだ」


 「そうだよね。今の地球人は、自分たちが一番優れていると思っているよね」雄介は腕組みをして納得した。

 「雄介、君が地球代表としてギャラクシーユニオンに交渉できる人間に成長できたら、僕がアンドロメダから宇宙船団を連れて地球にやって来るよ。その宇宙船団を見たら地球人は、自分たちの文明の低さが認識できて、地球の中で争っている場合じゃあないことが分るよ。そうすれば地球全体がまとまっていかないと、他の星と競争できないことに気付くはずさ。そのタイミングで雄介が世界平和を地球全体に語り掛け、そして地球人代表者になるんだ。いいね」


 雄介は、アロンの計画を聞いて身震いしてきた。

 「雄介、頑張れよ。必ず僕が協力するから安心してくれ。僕の星の宇宙船団を見て地球人が驚く顔を早く見てみたいよ。そのためには勉強が苦手だとか言っている場合じゃないよ。優れた人物になるためには、学校の勉強ぐらい最低限知っておかないとダメだよ」

 「分かったよアロン。僕頑張るよ」


 雄介は、それから人が変わったように勉強に頑張り出した。苦手な先生にも質問をしたり話をしたりして頑張った。その甲斐があって成績も徐々に上がりだした。両親への取り組みも頑張った。母親の言うことを聞いて家の手伝いをしたり、父親の肩もみもしたり靴磨きをしたりして両親へ素直になった。そうすると両親も雄介を認めて褒めるようになり、雄介はとても喜んで更に勉強にも頑張りだした。


 そしてある日のこと。

 「ただいまアロン。今日この前のテストが返ってきたんだ。見て100点だよ。最近僕も頑張って勉強しているんだ」雄介は、誇らしげに100点のテストをアロンの目の前に広げて見せた。


 「凄いじゃないか雄介」

 「だろ、僕だってやればできるんだ」

 「雄介、頑張って勉強するのは偉いね。でも、うぬぼれてはだめだよ。常にまだまだ上を目指すつもりで頑張るんだ。宇宙法則第七条に『向上心を持て』とある」


 「そうなの。でも大丈夫。勉強のやり方が分かったんだ。もう任せておいて」

 「雄介、それがうぬぼれなんだよ。うぬぼれてしまったら落ちるのは早い。あっという間に元の木阿弥だよ。第七条の『向上心を持て』とは、うぬぼれるなと言うことだよ。人は、うぬぼれてしまったら努力しなくなる。努力しなかったら落ちていくだけだ。


 現状維持か今以上に良くなりたければ、常に努力が必要なんだ。それに前にも話したけど、努力したからと言ってすぐに結果が表れてくる訳ではないから、決して諦めず楽しんで努力することが大切なんだ。苦しいだけだと続けるのは難しいからね、楽しいことは続けられる。勉強も成績が上がってくると楽しいだろ、何事も楽しさを見つけて楽しみながら努力することだね。この世には勉強することは限なくある。この地球上のことや、限りない宇宙のことまで勉強しようと思えば、地球人の一生では時間が短すぎるね」

 雄介は、アロンの言葉になんとなく納得した。


 「雄介、最低限学校で教えてもらえることは勉強しておかないとね。学校で勉強したことが君の土台となるんだ。そして学生の時に勉強を頑張れば、社会人になってから楽に生活ができるんだ。人生は学生の時は短いから、あっという間に大人になってしまう。大人になってからの人生の方がずっと長いからね」


 雄介はアロンの言葉に納得した。大学を卒業するのはだいたい22歳のころだから、それから平均寿命の81歳まで生きたとすると、学校を卒業してから60年位あると思った。

 「学生時代に怠けて勉強しないでいると、社会人になってからできる仕事も限られる。そうすると後の六十年間はずっと苦労するよ。でも学生の時に一生懸命に勉強を頑張ると、有利に就職もできるし、仕事も自由に選べられる。後の人生が楽なんだ」


 「分かったよアロン。少し勉強ができだしたからと言ってうぬぼれないで、まだまだ頑張るよ」雄介は、少し反省した。

 「それはそうと雄介、最近学校でいじめられなくなったかい」

 「そうだな、まだ時々いじめられるかな」

 「そうなんだ。それは辛いな。雄介、君はそのいじめっ子のことをどんな風に思っているんだい」


 「それは嫌いに決まっているだろ。いじめる奴のことを好きな訳がないよ」

 「それは残念だな。人を嫌うと必ず人からも嫌われるんだ。気持ちは必ず通じるものだからね。君が嫌っている間はいじめっ子もいじめてくるかもしれないね」

 「じゃあアロンは、いじめっ子のことを好きになれと言うの」


 「別に好きにならなくてもいいから、気にしない位になれたらいいね。人を変えることはできないけど、自分が変わることはできる。自分が変われば相手は必ず変わるんだよ。宇宙法則第八条は『全て己にあり』だよ」

 雄介は、納得がいかなかった。いじめられるのは自分が嫌っているのが原因だと言われても、いじめっ子のことは何となく気になるし、無視していても相手が近寄って来ていじめられていたからだ。


 「雄介、人の悪い所が気になる時は、自分のことは棚に上げて人を責めているからだよ。人を責めるのではなく人から学ぶんだ。どんな人でも必ず良い所はあるんだ。それに人のことが気になる時は、自分のやるべきことに集中できていないんだ。もっと自分の大切なことに集中するんだ。」

 「そうなんだ。でも・・」


 「雄介、君には大きな夢がある。地球の代表になって地球を救うんだろ。些細なことにこだわっていては前に進めないぞ。雄介は変わるんだ。人生を変えるんだ。君が変われば君の周りにいる人は必ず変わる、地球の未来も君の力で変えられるんだ」

 「そうだね。僕がやらないとダメだね。もっと先の目標に目をやって頑張らないといけないね」


 「その通りだ雄介凄いぞ。あ!雄介、この前僕の宇宙船に乗りたいって言っていたよね。雄介がテストで100点取ったし、やる気になったからご褒美に宇宙船に乗せてあげるよ。これからコンビニに買い物に行こうと思うんだけど、一緒に宇宙船で行こう」


 「アロン、冗談はやめてくれよ。宇宙船でコンビニに行ったらパニックになるよ」

 「違うよ。地球のコンビニじゃなくて、月に有るコスモコンビニだよ」

 「なんで月にコンビニが有るの?」雄介は、アロンの言葉に耳を疑った。


 「以前の月は自転と公転の周期にズレが有って、地球に向いている面が一定ではなかったんだ。でも、僕達アンドロメダ星の先祖が、月の自転と公転の周期を一定にして同じ面が地球に向くようにしたんだ。そしてそのとき月の真裏に地下に入る入口を作って、地下に地球を監視するステーションを作ったんだ。今では月の地下には様々な星のステーションができていて、大勢の宇宙人が生活しているよ。そこはムーンコロニーと言って、そこにコスモコンビニがあるんだ。よし、今から行こう」アロンがそう言って立ち上がった。


 「え、今から。時間はどのくらい掛かるんだい。帰って来られなくなることはないよね」雄介は、急に不安になった。

 「なに言ってるの。月は直ぐそこじゃないか。月は地球からあんなに近くに見えているだろ。目と鼻の先と言うより、目とコンタクトレンズぐらい近いよ」

 「わ、分かったよ」


 「さあ、押し入れの前に来て」

 アロンが手招きした。雄介が恐る恐る押し入れの前に立つと、アロンが押し入れを開けた。雄介が押し入れの中を見ると中は真っ暗だった。

 「なにビビってんだよ。さあ押し入れに入って」アロンがそう言って雄介の背中を押した。


 「わー」雄介は思わず悲鳴を上げた。すると一瞬にして雄介は、アロンの宇宙船の中に居た。宇宙船の中は6畳程の広さがあってそこがコックピットのようだった。

 「凄い。これが宇宙船か」雄介は、初めて見る宇宙船の中を見渡した。アロンの宇宙船の中は、天井はドーム型でガラス張りになっていて、周りにはスイッチ類がキラキラと、色々な色で光っていた。


 「アロン、ここがコックピットなのハンドルみたいな物は無いみたいだけど」

 「全て自動運転だからハンドルなんか無いよ。行き先を宇宙船に言えばいいんだよ」

 「他にも部屋があるのかい」

 「コックピットの下にダイニングやバスルーム、寝室が何部屋かあるんだ」


 「そうなんだ。凄いな。ところでアロン、この宇宙船はどこに停めているの」

 「ここは、雄介が住んでいる街の裏山の頂上だよ」

 「そうだよね。この宇宙船の窓から見える景色は見覚えがあるよ。でも、こんな所に宇宙船を停めていて誰かに見つからないの」


 「大丈夫。外からは宇宙船は見えないようにシールドされているからね」

 「そうなんだ。でも凄いなこれが宇宙船なんだ」雄介は初めて入った宇宙船に興奮していた。

 「じゃあそろそろ行こうか。シップ調子はどうだい」アロンが宇宙船のシップに話し掛けた。


 「アロン様こんにちは、調子は良好です。今日は、どちらへ参りますか」

 「ムーンコロニーへ行ってくれ。その前に地球を一周してから行こう」

 「かしこまりました」

 「雄介、そこに座って」アロンが、コックピットの中央にあるシートを指差して言った。雄介がシートに座るとアロンも隣のシートに座った。


 「アロン、シートベルトはどこに有るの」

 「アッハッハ。そんな物は必要ないよ。体が浮いたり、飛び出したりしないから安心していいよ。それにこの宇宙船は宇宙一安全な乗り物だからね。なあシップそうだろ」

 「そうですとも雄介様。どうぞご安心ください」


 「さあ、出発だ」アロンがそう言うと、ゆっくりシップは浮かび上がった。そして次の瞬間シップが眩しい光に包まれたかと思うと、一瞬で雄介の目の前に地球が姿を現した。地球は、銀河のまたたく星々の中に浮かび、地球を包む透き通った大気が太陽の眩しい光を反射して、限りなく透明に近い青色をしていた。それは雄介が今まで想像もしていなかった地球だった。


 「ワー、凄い」雄介は、思わず立ち上がって宇宙船の窓に近づき、実際に見る宇宙空間の地球に感動した。

 「雄介どうだい。宇宙から見る君の住んでいる地球は」アロンも立ち上がって雄介の肩に手を置いた。


 「アロン凄いよ。なんて地球は青いんだ。今まで画像でしか見たことが無かったけど、こんなにも地球が透き通った青い星だなんて想像もしなかったよ」

 「そうだろ雄介。本当に地球は綺麗な星だ。僕も色々な星を見てきたけど地球を始めて見たときは感動したよ」


 「アロン、ありがとう。僕にこんなにも素晴らしい地球を見せてくれて。感動で体の震えが止まらないよ。アロン、こんなに綺麗な地球を滅ぼすわけにはいかないね」

 「そうだよ、雄介。君がこの地球を守るんだ。いいね」

 「分かったよ、アロンありがとう」


 二人はしばらく地球に見とれていた。

 「ところでアロン、一瞬でこんな遠くまで来られるなんて、今のはどの位のスピードだったの」

 「今のは、まだ1光速で光と同じスピードだよ」

 雄介はアロンの言葉に驚き尋ねた。

 「まだ光と同じスピードって、もっと早く進むこともできるの」

 「当たり前だろ。1光速のノロノロだったらアンドロメダから地球まで、いつまで経っても着かないよ」


 「そうだけど、アロンはアンドロメダ星から何日で地球に来たの」

 「地球時間の日数で言うと、今回は母船で来たから25日位で来たかな」

 雄介は、アロンの言葉にまた驚いた。25日でアンドロメダ星から来られると言うことは、アンドロメダ銀河と地球はたしか250万光年離れている、光の速さで進んでも250万年掛かるのにどうやって25日で来られるんだろう。


 「長い距離を移動する時は異次元空間の中を移動するんだ。異次元の空間を移動すれば、光の何倍もの速さで移動できるんだ。地球はまだ3次元が主だね、時間の概念を加えても精々4次元止まりだよね。異次元空間移動は今の宇宙技術では当たり前だよ」

 「なんて地球人は遅れているんだ。宇宙の技術はそこまで進んでいるんだ。凄すぎるよ」雄介はあらためて進んだ宇宙技術に感心した。


 「雄介、そろそろ地球を一周したから、月のコスモコンビニに行こう」

 「アロン、コスモコンビニで何を買うんだい」

 「僕の食事とおやつさ。それと雄介にプレゼントを買ってあげるよ」


 シップは月の裏側に回り、ゆっくりとクレーターの一つに近づいて行った。

 「雄介、あのクレーターの真ん中がムーンコロニーの入口さ。近づくとハッチが開くよ」

 シップが月面に近づくとハッチが開き、そこにシップはゆっくりと入って行った。月の地下は、ものすごく広くて地下のような感覚がない。シップはゆっくりとプラットフォームに着陸した。


 「さあ着いたぞ。降りよう」

 「アロン、宇宙服なんかはいらないの」

 「大丈夫だよ。ちゃんと空気はあるし、放射線なんかブロックされている。重力も地球と同じにしてあるから心配いらないよ」

 するとシップのハッチが開いて二人はシップを降りた。


 「アロン。ここは本当に月の地下なのかい。僕は夢を見ているのかな。青空が見えるし、太陽だってあるじゃないか」雄介は辺りを見渡しながら、ほぼ地球上と変わらない風景に驚いた。

 「あれは人工的に作った空と太陽だよ。気温はいつも一定だし、雨は降らない。今は夜も無いからずっと昼間だよ。でも将来地球人がここに住むようになったら、地球の一日の周期に合わせて太陽を動かして夜も作るみたいだ」

 「地球人が、ここに住むことができるの」


 「それは地球が、ギャラクシーユニオンに加入できたらの話みたいだ」

 「アロン、ここは何時からこんな風に作ってあるんだい」

 「アンドロメダ星人が初めて地球に来たのは、地球時間で言うと今から5,000年前くらいらしいよ。エジプト文明が発展してピラミットが作れたのも、僕達アンドロメダ星人が技術を教えたからだよ。そのころに月の自転と公転周期を合わせて、ここを作ったんだ」


 「そんな前から君たちの星には、こんなにも優れた技術があるんだ。アロン凄すぎるよ」

 「それからここは、君たちの地球を見守るステーションとして、様々な星人が集まって来たんだ。今ここには100に近い星から星人が来ているよ。雄介、後で僕の友達を紹介するよ。ソニヤって言うんだ。彼女とっても可愛いよ。一緒にアンドロメダから来たんだ。雄介、あのタクシーに乗ろう」アロンはそう言って、ちょうど車位な大きさの透明な卵が横になったような物を指さした。その卵のような物に近づくと、真ん中から前後にスライドして中のシートが現れた。


 「さあ、乗って」

 「中はシートだけなんだね。運転手はどこにいるの」

 「運転手なんかいないよ。これも全て自動運転だよ」

 「いらっしゃいませ。どちらに行かれますか」タクシーから声がした。

 「コスモコンビニまでお願いします」

 「かしこまりました」

 するとタクシーは、前後に開いていた車体がゆっくりと閉まり、音もたてずに垂直に上昇した。


 「アロン、ここは本当に月の地下なのかい。まるで未来都市じゃないか」

 雄介がタクシーの窓ら景色を見ると、木のような植物も見えるが高層ビルのような建物が立ち並び、その間や上を卵型タクシーや様々な形をした小型の宇宙船が飛び回っている。雄介は月の地下にこんな都市が有ることに驚いた。そして二人が乗ったタクシーは大きな建物の前にゆっくりと着陸した。


 「お待たせ致しました。コスモコンビニでございます」

 「アロン、これがコンビニなの。こんなにでかい建物見たことないよ。百貨店より大きいじゃやないか」

 二人は、天まで届くような建物の入り口に立ち建物を見上げた。

 「まあこんなもんだよ。ここは各星の全ての物がだいたい揃うようになっているからね。これだけの広さは必要なんだろうね。でも大丈夫。欲しい物はすぐに見つけられるようになっているからね。雄介こっちだ」


 中に入ると色々な宇宙人が買い物に来ている。爬虫のような顔をした者や、頭が三つある者、魚のような顔をした者や様々だ。

 「アロン、色んな宇宙人がいるね。なんだか怖いよ」

 「大丈夫だよ。危害を加えるような星人は一人もいないし、みんな友好的だよ」

 「そうだろうけど、ほんとに夢を見ているようだ」雄介は、初めて見る宇宙人に驚きが隠せない。


 「雄介着いたよ。ここがアンドロメダ星のブースだ」

 そこのカウンターには、アロンに似たようなアンドロメダ星人が何人か買い物に来ていた。その人達は、アロンを見ると軽く会釈をしている。

  「アロン、知り合いの人達なの」

  「一緒にアンドロメダから来た人だからね」


 「ここで食事とおやつを買うの」

 「そうだよ。食事を100食と、おやつを30食買って行こう。でも、もう注文はしておいたから受け取るだけだよ」

 「アロンそんなに買ったら持てないよ」

 「心配いらないよ」


 するとカウンターの中に居た女性が、アロンを見つけて声を掛けてきた。

 「アロン様、お待ちしておりました。わざわざお越し頂きましてありがとうございます。ご注文頂いた品物はご用意しております。アロン様、お届け先をお教えて頂けましたらこちらからお届けに伺いますのに」その女性はアロンに丁寧に言った。

 「いいえ大丈夫です。ありがとう」


 「品物は、こちらでございます」女性はティッシュ1箱位の箱と、スイッチが沢山付いた筒のような物を取り出してアロンに渡した。

 「ありがとう。ではまた参ります」

 「ありがとうございました」女性は、アロンに深々と頭を下げた。アロンが品物を受け取り、その場を離れると雄介が尋ねた。


 「アロン、食事を100食受け取るんじゃなかったの」

 「そうだよ。これだよ」アロンがさっき受け取ったティッシュ一箱位の箱を見せた。

 「この中に全部入っているの」

 「そうさ全部圧縮されているんだ。今回は地球の和食とフランス料理、中華料理を頼んだんだ。地球の料理は美味しいからね。帰って食べるのが楽しみだよ。それとこれは雄介にプレゼントだよ」アロンは、スイッチが沢山付いた十センチ程の筒を渡した。


 「何だいこれは?」

 「これは僕と同じ最新のスペーススーツだよ」アロンは左腕を差し出して見せた。アロンがプレゼントしてくれた筒は、アロンが左腕に付けている物と同じだった。

 「これがスペーススーツなの」


 「そう、これが最新の宇宙服だよ。この月に来る位なら良いけど、雄介はこれからどんどん宇宙に出て行く機会が増えると思うからね。そうなるとこのスペーススーツは必須だよ。そんなダサい服はもうやめて僕と同じスペーススーツに着替えろよ。カッコイイだろ」

 「う、うん。アロンはその水色のスーツが良く似合っているけど、僕には似合わない気がするよ」雄介は、アロンが着ている薄いウエットスーツのような服は、恥ずかしくて着たくなかった。


 「雄介、このスーツは凄いんだぞ。まず裸になって左腕にこれを付ける。次にこの赤いスイッチを押すと一瞬で体全体をスーツが包むんだ。色や柄も色々有って自由に選べられる。体感温度も調節できるし自分の体形だって調節できるんだよ。たとえば脚を長く見せることもできるし、太って見せたり痩せて見せたりもできる。もし何かがぶつかって来て体に強い衝撃が有ると、一瞬でスーツが固まって体を守る機能も付いているから安心だ。それに操作は大体が音声で操作できるから簡単だよ」


 「そうなんだ。分かったよアロンありがとう。しかしあそこに居た人は皆、君に丁寧に挨拶していたけどアロンは有名人なの」

 「そんなことないよ。アンドロメダ星人は皆あんな感じなんだよ」アロンは少し慌てた感じで言った。

 「雄介、そろそろソニヤに会いに行こう。もう連絡しておいたからここに来ているはずだ」


 「アロン~」

 「アロン、あそこの可愛い女の子が、君を呼んでいるよ」

 「ソニヤだ。ソニヤー」アロンが女の子に手を振った。女の子も手を振りながら小  走りに近づいて来た。


 「ソニヤ久しぶり。会いたかったよ」

 「私もよ」二人は、親しそうにハグした。

 「アロン、あなた地球に行ったきりで、中々帰って来ないんだから心配していたのよ。あら、こちらの方はどなたなの」


 「天野雄介君で地球人なんだ。僕達友達になったんだ」

 「そうなの。初めまして雄介さん。私はソニヤと言います。アロンの幼なじみよ。よろしくね」

 「ソニヤさん、よろしく。天野雄介と言います」雄介は、ソニヤがあまりに可愛くて少しドキドキした。ソニヤの髪は緑色で、肌は透き通るほどに白かった。ソニヤもピンク色のスペーススーツを着ていてセクシーに見えた。それにソニヤのしぐさもとても女性らしく雄介は一目でソニヤのことが気に入った。


 「アロン、ちょっと来て」

 雄介をその場に残したまま、ソニヤがアロンの腕を引っ張って店の隅に連れて行った。

 「何だい、ソニヤ」

 「アロン、あの子に地球人代表のプレゼンテーションをさせるの。大丈夫あの子。なんだかたよりなさそうな感じじゃないの。地球滅亡まであまり時間が無いのよ」


 「ソニヤ、大丈夫だよ。見た目は、ぱっとしないけどあれで中々の頑張り屋だよ。それに彼は宇宙波動エネルギーから選ばれた人間だからね」

 「それならいいけど。アロン頑張ってよ。地球を救う人材教育の大役をあなたが担うのだからね。もし彼の教育を失敗して、地球がギャラクシーユニオンに加入できなければ、一つの人類が滅亡してしまうんだからね。そんなことになったらあなたの責任に成るのよ」


 「分っているよソニヤ。心配してくれてありがとう。彼なら大丈夫だよ」心配するソニヤをよそに、アロンは雄介の所に戻って行った。

 「お待たせ雄介、どうだいコスモコンビニは」

 「アロン、さっきワニのような大きな口をした宇宙人に話しかけられて怖かったよ。食べられるのかと思ったよ」

 「ワッハッハー。大丈夫だよ。ああ見えてあの星人はとっても優しんだよ」


 「雄介さん、ゆっくりムーンコロニーを楽しんでいってね」

 「ありがとうソニヤさん。会えて嬉しかったです。またお会いしましょう」

 「そうね、また会えると思うわよ。じゃあね」

 「ソニヤありがとう。また連絡するよ」

 「じゃあねアロン頑張ってね。バイバイ」ソニヤは、二人を置いて行ってしまった。


 「アロン、ソニヤさんて本当に可愛いいね。びっくりしたよ。君の彼女なのかい」

 「幼なじみの友達だよ。雄介そろそろ地球に帰ろうか」

 「うん分かった。でもまたここに連れて来てくれないか。ソニヤさんにも会いたいし」

 「分かったよ、雄介」

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