【パート5】ひとつだけテストをしよう。

「──ひとつだけテストをしよう。」


かなめ 浩介こうすけは、腕を組みながら言った。


目の前の少年、早音女さおとめ 颯汰はやたは、少し警戒した顔をしている。


「テストって……?」


「別に難しいことはないさ。」


ポケットに手を突っ込みながら、要は廊下の窓を指差した。


「この建物の外に出ろ。俺はここから喋る。お前は、何を言ったか当ててみな。」


「──わかった。」


颯汰は、まだ不安げな表情を残しながらも、すっと立ち上がった。


タッ、タッ。軽いスニーカーの音が廊下に響く。


要はその後ろ姿を見送りながら、ふっと小さく笑った。


「まさか、だったりしてな。」





3階の窓から顔を出すと、颯汰が署の前に立っているのが見えた。


不思議なことに、さっきまでは手放さなかったヘッドホンを、今は外している。


──よし、見えてないな。


窓枠に隠れるようにして、要は口をすぼめる。


そして、小声で──


「……ズボンのチャック開いてるぞ。」


普通なら絶対に聞こえるはずのない、力の抜けた囁き。





タッッ、タッ、タッ。1段飛ばしで階段を駆け上がる音が響く。


3階に戻ってきた颯汰は、すでにヘッドホンを着け直し、ムスッとした表情を浮かべていた。


「開いてないっすよ! なんなんすか!」


その瞬間──


要の表情がわずかに揺れた。

まさか、異動初日で出会うことになるとは──


目を見開き、握りしめた拳にぐっと力がこもる。


(──ほんとに、あいつと同じかよ。)


口の端を持ち上げると、再びいつもの調子で言葉を返す。


「よし、付き合え。」


要は、パイプ椅子から立ち上がり、颯汰に軽く顎で合図した。


夜の歌舞伎町へ──。

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