Day 6 砂嵐の魔人
ヴィクトリアさんの話を聞きながら道を進んで行くと、向こうに普通では無い物が見えた。
巨大な砂嵐だ。
買っておいたゴーグルとマスクをヴィクトリアさんに渡し、使い方を教えておく。
しかしあの規模は知らないぞ、これまで見た中で一番の規模だ。
「砂嵐が発生するのはもう少し先だと聞いていました」
ナナシムが間違えるなんて珍しい。
だが砂嵐なんて自然現象だ、どこで発生してもおかしくはない。
「ナナシム、一応聞くけどあれをやりすごす方法か、迂回して進む道を知らないか?」
ナナシムが指を使って小さなバツを作り、首を振る。
わかってはいたが、困るとすぐに彼女を頼ってしまうのは俺の悪い所だと反省しつつも、俺も困っていた。
次の街までまだかなりある。
砂嵐の中を突っ切るつもりで装備品を買い揃えたが、それらは事前情報で街まであと少しの所で砂嵐が発生すると聞いていたから買い揃えた物だ。
砂嵐に飲み込まれた際に過ぎ去るのを待つのではなく、街に入って避難できるように、進めるようにと考えたから持っている物なんだ。
あんな大きな砂嵐に入って、いつ終わるのか分からない砂嵐の中道を進む事は想定外で、そこまで性能が良い物を買った訳では無いので不安でたまらない。
「ですが、一つだけ方法かが」
「あの砂嵐の中で何かが移動してる」
言葉が被ってしまった事を謝罪した後、ヴィクトリアさんが指差した先は……ただの砂嵐にしか見えない。
だが、嘘を言っているようには感じないが。
「……あの中に生命体が一体動いているのは事実です、ですがよくわかりましたね」
「私にもわかりません、でも、そんな気がして」
ヴィクトリアさんの頭を撫でるナナシム。
二人の表情はまったく逆で、少し怖かった。
あとナナシムが羨ましい。
しかし、砂嵐の中に人がいるのなんて珍しい事じゃない。
飲み込まれたのか、自ら入ったかのどっちかだ。
「あの人が動くと砂嵐も一緒に移動してる」
そんな俺の考えはヴィクトリアさんのそんな発言で崩壊した。
人が動くのに連動している。
中には男が一人、ここまではギリギリ偶然の一致で済ませられる。
「ナナシム、魔法の反応はあるか」
「……非常に強力な物が一つ、おそらくは」
言わなくても伝ったよ。
あの男だ。
あの馬鹿みたいな砂嵐はあの男が魔法で発生させ、操っているんだ。
さて、なら……。
あの男が大人しく俺達を通してくれるかどうかが問題になってくるな。
魔法に自信のある奴の中にはあんな風にわざと問題を起こし、"君たちを助ける"とか言って見返りを求めたりするのもいる。
逆を言えば見返りがあれば安全に通る事ができる。
「進もう」
金は正直な話渡したくは無い。
だが、通らない事には本当に先に進まない。
だったら、やるべき事は一つだ。
「まずはあの男に砂嵐を止めるように、もしくは通してもらえるようにお願いでもして、無理なら交渉をする、それで払える額なら払おう」
「魔法……あんな事まで出来るんだ」
驚くヴィクトリアさんも魅力的だ。
表情がコロコロ変わる彼女の側にいて退屈する事は無いと言っても間違いではないだろう。
「それで、敵対してきたらどうしますか?」
「あわわ……あんな魔法使いに勝てる気がしませ
ん」
ヴィクトリアさんはともかく、ナナシムは分かっているだろうに。
「倒すだけだ、言っとくけど敵対しなくても金を渡して砂嵐を解除したら拘束して金を奪い返して……いや、身ぐるみ剥いでやる」
「了解しました」
こっちには魔法が一切通じないナナシムがいる。
魔法以外の戦闘ならヴィクトリアさんもいるし、俺だって二人の足は引っ張らないつもりだ。
「ど、どっちが悪者かわかんないね……」
ヴィクトリアさんが輝く剣の柄を取り出し、右手に握る。
そしてもう一つ、彼女の左手には身長の半分はあるであろう銃が握られている。
「それ、どこから……」
収納系の魔法が使えるのか!?
いやでも魔法が無い時代の人だし……えーっと。
「これ!」
彼女は手首のブレスレットを見せつけてきた。
そのブレスレットの中に剣や銃が分解された形で入っていて、必要な時に取り出せるのだと。
まるで魔法だな。
「それにしても大きな銃ですね、失礼かもしれませんがヴィクトリアさんには扱いにくいのではありませんか?」
そんなナナシムに対して、彼女はウインクをして。
「任せて」
そう言った。
こうして軽くではあるが作戦が立てられた。
まず俺とナナシムがあの男に近づく。
そして話をする、ここで相手がどのような人物かを見極め、倒せると判断したならナナシムが男に頭を下げる事になった。
コレが、ヴィクトリアさんへの男を撃ての合図となる。
「魔法使いが銃一撃で倒れるとは考えにくい、俺達が倒さないとな」
離れた位置にいるヴィクトリアさんに聞こえないよように、ナナシムにそう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます