Day 5 涙の刻 ヴィクトリア
「起きて下さい」
ナナシムに起こされ、緊急事態だと判断して武器を握る。
しかし、彼女は座っていて敵らしき姿は見えない。
もしかしたらやはり追手が来ていて、遠くに見えたとかだろうか。
暗闇でもナナシムならばそれぐらい簡単だろう。
それても魔法で攻撃される可能性や、ナナシムを超える実力者に襲われる可能性だって……あんまり考えられないけれど、無いわけじゃ無い。
「フランソワーズさん……やめて……」
ヴィクトリアさんの声がした。
振り返ると彼女はぐっすり眠りながら、寝言を言っているようだ。
「何で起こした、まさか寝言の為か?」
「はい、彼女の寝言は自分でも思い出せない事を口にしています。それに先程まで聞いていた話の続きのような気がしたので、一人で聞くのはどうかと」
人の寝言の為に起こす。
こんな機械人形がいていいのだろうか。
「お前もヴィクトリアさんの話、楽しみにしてたんだな」
「……はい」
何故か反応が遅れたが、ナナシムは笑って見せた。
彼女は機械人形で、ヴィクトリアさんの話は機械人形と戦争をした話。
あまりいい気がしないと仮定すると、何故俺の質問に"はい"と答えたんだろう。
「私と……三人でくいとめ……だから行って下さい」
「漣しゃん」
ガバッと飛び起きたヴィクトリアさんは涙を流していて、周囲をキョロキョロと見てから俺と目を合わせた。
涙を拭うと、ペコリと頭を下げ。
「起こしちゃいましたか、すいません」
そう言った。
気にしないで欲しいと、寝言を言っていたのをナナシムが確認して俺を起こしたので、悪いのはナナシムだと説明して頭を上げてもらった。
ナナシムはムッとしているが、これは事実を事実のまま話しただけだ。
「それで、その、私は何を言っていましたか?」
「先程は……」
俺が聞いていなかった部分もナナシムが説明してくれた。
多分だが、浮遊要塞に乗り込んでからの事を言っていたらしいと。
「フランソワーズと呼ばれた方にやめてと言って、それから三人で食い止めるから行って下さい、漣さんとも」
「そうですか、聞かれたのなら話しますけど……クロ君にはつらい話かもしれません」
俺にとってつらい話。
一体何だ、何か困るような話なのだろうか。
まさかヴィクトリアさんにはもう心に決めた人が……。
「あの時は仲間の一人が裏切って、機械人形から星を守っていた部隊を殺し、防壁を破壊して招き入れたんです。その人の名前がフランソワーズです」
フランソワーズ、さっき出てきた名前だ。
だから止めてと言っていたのか。
「知り合いだったのですか?」
「私のチームではありませんでしたが、友達のチームの一人でした。とてもキレイで、射撃の得意な人で、ユーモアもあって素敵な人でした」
珍しくナナシムが質問をしている。
本当に興味を持っていたのか。
「私達はファスタロッテ様に命じられて浮遊要塞を攻略し、フランソワーズさんを捕まえる、もしくは殺すように命じられていました。ですが中には機械人形がたくさんいて……それでもなんとかたどり着いたんです」
「それで、どうなったのですか?」
「私の友達、漣さんが浮遊要塞の制御室にいたフランソワーズさんを殺しました、チームメイトだったけど止められなかったと言っていて……泣いてました」
さっき言っていた友達と同一人物だろう。
チームメイト、仲間が裏切って襲ってくる。
もし、ナナシムが、ヴィクトリアさんが襲ってきたら俺はどうするだろうか。
裏切ったらどうするだろうか。
「それは、つらいな」
考えても答えが出ない。
正解の分からない、いや無い問題ほどしんどい物は無い。
「その時、私は制御室にいる二人の邪魔をさせまいと、制御室の周りで戦ってました。私と……あと二人いましたけど、ごめんなさい、思い出せません」
「大丈夫だけど、一つ聞きたい。俺にとってつらい話ってのは一体……」
ヴィクトリアさんは目をパチクリさせ、あたふたしている。
「だ、だって私達の中で裏切りがあって、そのせいで戦争に負けたのかもしれませんよ!? その、私は生き残りましたけど、不自由を受けているのは私達より後の世代のみんなです……だから」
「前にも言ったけど、気にしないで。俺にはこれが普通なんだから」
「でも……でも……」
泣く彼女に涙を拭く為の布を渡すと、ごめんねと返ってきた。
「今のはごめんじゃなくて、ありがとうが嬉しかったな」
「……うん、ありがとうっ!」
俺がこんなにも不自由なのは戦争で負けたからだ。
だからと言って、目の前の人を責めるような事は絶対にしない。
責めてどうにかなる訳じゃない。
「クロ君、今のは狙いすぎです」
布を渡し、自分の寝袋に戻った際にナナシムから耳を引っ張られてそう言われた。
……うるさい、カッコつけさせろ。
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