リリィ・アーリア・ダークスカイ。彼女は、名ばかりの「魔王令嬢」だ。豪華な城に住み、強大な魔力を持っているものの、実はそれを使いこなせず、常に周囲から注目の的となることを嫌っていた。だが、それでも彼女の心はどこか寂しく、満たされない思いを抱えていた。

「ふわあ。どうして、私だけがこんなに…普通の子みたいになっちゃうの？」

城の一室で、リリィは窓の外を見つめながら欠伸（あくび）をして、呟いた。外は、濃い紫色の空が広がり、異世界特有の不思議な景色が広がっている。そんな中、突然、リリィの体に強烈な光が差し込み、彼女の目の前に見知らぬ扉が現れた。

「…これは？」

戸惑うリリィが扉に手を伸ばすと、その瞬間、何かに引き寄せられるように扉を通り抜けてしまう。

そして、目を開けると…そこは、見たこともない異世界の景色だった。

「ここは…どこ？」

目の前に広がるのは、青空が広がり、そびえ立つ山々、豊かな森、そして、いくつかの街が見える風景だった。異世界に来たという実感が一気に湧き上がる中、リリィは呆然と立ち尽くす。

その時、後ろから一人の青年が現れた。

「おっと、驚かせてしまったか？」

彼は、リリィの顔を見て、どこか緊張しながらもにっこりと微笑んだ。

「君が魔王令嬢リリィか？」

「え？ あ、はい…私がリリィですけど…」

リリィは彼を見つめ、思わずその言葉を呟く。彼は青い髪と瞳を持ち、鋭い印象を与えるが、どこか優しさを感じる顔立ちをしていた。

「私はユウキ。君を召喚する役目を担っている者だ。」

リリィは驚いた。召喚？ ということは、この異世界に来た理由があるということだ。

「私を召喚したんですか？」

「その通り。ただし、君には覚悟してほしいことがある。」

ユウキは真剣な表情で言った。

「君がこの世界に来た理由、それは…世界を守るためだ。」

リリィは一瞬、息を呑んだ。世界を守る？ そんな大役を…？

「私、そんなことできるわけないじゃない！」

リリィは思わず叫んだ。彼女には強力な魔力があると言われてはいたが、魔王としての力をどう使うべきかも分からず、どうしてそんな責任を負わなければならないのか、全く理解できなかった。

ユウキは優しく彼女の肩に手を置いた。

「君にはできる。信じているからこそ、君を選んだんだ。」

その言葉に、リリィは少しだけ胸が温かくなるのを感じた。しかし、それでも恐怖と不安が心に広がる。

「でも、私は…ただの女の子なのに…」

「その”ただの女の子”が、この世界を変える力を持っているんだよ。君はそれを持っている。」

ユウキはリリィの目を見つめ、その言葉を強く伝えた。その真摯な眼差しに、リリィは少しだけ心を動かされる。

「でも、どうして私を？」

リリィはまだ戸惑っていた。しかしユウキは微笑んで言った。

「それが、私の秘密だよ。でも今は、君に頼みたいことがある。」

リリィはその言葉に不安を感じながらも、彼を見つめ返した。

「何ですか？」

「君に、最初の一歩を踏み出してほしい。世界を守るために、君の力を使ってほしい。」

その言葉を聞いたリリィは、心の中で何かが芽生えた。最初は不安と恐怖に押し潰されそうだったが、ユウキの真剣な表情に、彼女は何かを感じ取った。

「分かりました。私、頑張ります。」

リリィは覚悟を決め、その一歩を踏み出すことを誓った。世界を守るため、そして自分を変えるために。