悪女は息子を幸せにするため、ループする運命を変えることにした
@toukouyou
プロローグ バッドエンド
≫≫ BADEND ≫≫
――最愛の息子、ヴィーが死んだ。
邸の一室でひとり、僅か四歳でこの世を去った養子のヴィーを抱きしめて、私は虚ろな目で虚空を見上げていた。
その亡骸をいい加減に埋葬しろと夫やその家族からせっつかれたが、頑なに手放さない私に面倒になったのだろう。メイドたちすら、この部屋に入って来ない。
初めはただ、推しだったから好きになった。でも、あなたに『お母さん』と初めて呼んでもらえた瞬間、愛おしさが溢れた。
家族とも離れ離れになり、ひとりぼっちになった私がこの世界で生きてこられたのは、あなたがいたからなのに……。
運命を変えられると思ってた。でも、変えられたと思ったシナリオは軌道修正され、ヴィーは――毒殺された。
「ねえ、どうせどこかで見てるんでしょう?」
神様気取りで、高みの見物をしている元凶に話しかける。
ヴィーが死んですぐ、目の前に現れたのだ。
『バグ……ヲカンチ。セイキルート…キドウシュウセイ…………【CLEAR】』
私にだけ見える少女の影が人工で作られたような声でそう言った。
恐らく私がゲームのシナリオを変えると、バグとして認識されて、彼女が修正する。そういうシステムなのだと思う。
ヴィーが毒殺されるのは確かに正規ルートだ。そしてこのあと私も、ヒロインと攻略キャラクターのハッピーエンドを盛り上げるための悪役として断罪されるのだろう。
なんで、私たちがこの物語のために犠牲にならなければならないの? 私たちは幸せになってはいけないの?
「こんなの……認めない」
私は懐から短剣を取り出して、切っ先を首に突きつける。
「私が死ぬのはもっと先、クライマックスよね。なら、ここでラスボスが死んだら、この物語はどうやって軌道修正するのかしら?」
これは賭けだ。
柄を強く握り絞め、力の限り短剣で喉を突き刺す。
──プツンッ。
すると、電源が切れたかのように目の前が真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます