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「邪馬台国は群馬に、ってか、ここにあったの!」
「金印」らしきものを片手に、ミュウが高らかに宣言する。
古びたティーテーブルを囲んで紅茶をたしなむ、クラブの面々。
高校二年生、少女たちの日常はかしましい。
「やれやれ。ずいぶんと調子に乗ったものですね、おバカさんが」
レオナが静かに批判するが、おもしろいことが好きなマコトと、単純に知的好奇心に駆られるチエは、ミュウがやりたいようにやらせてやっている。
なにしろ彼女はお金をもっているので、勝手に業者を呼びつけて大規模に発掘するという豪快なことが、平気でできるのだ。
「なんだよ、外に業者を呼んであったのか。だったらおもしろいもんが見れたかもしれないし、わたしも行くんだったかな」
安直なマコトの感想に、チエは短く嘆息して首を振りながら応じる。
「勝手に掘ったら怒られるに決まってるでしょ。業者さんも、さすがに重機を入れるのは無理と断ってたけど、ミュウの言う場所を手掘りで掘り進んではくれたわ。で、出てきたのがこの金印……」
「その後、遺跡は大爆発して崩れたの! ミュウたちの過激な大脱走の顛末を、3週間かけて語り聞かせてあげたいの!」
オーバーリアクションで、その場の劇的展開を誇張表現しようとしているが、いまいち成功とは言い難い。
同じ時間をミュウとともに過ごしたチエは、冷静な口調で、
「……ちょっと崩れただけよ。業者さん、ものすごく謝ってたわ。気の毒にね」
ため息交じりにつぶやいた。
と、そのときミュウの天パに目を止めたマコトは、
「ん? ミュウ、なんだこれ」
髪の毛に引っかかっていた焦げ茶色の楕円形のものを、ぶちぶちっ、と無遠慮にむしりとる。
悲鳴をあげて飛び上がるミュウ。
「ぎにゃあ! ちょっとマコりん、なんてことすんの!」
「ゴミをとってやっただけだろ」
「やり方ってもんがあるでしょうが!? ……ゴミ? ミュウの辞書にはそんな言葉、載ってないの」
「ゴミがゴミを引っ付けたあげくに自己否定か?」
手厳しいマコトとミュウのバトルをしり目に、チエの目がキラリと光る。
天才であり写真記憶をもつ彼女は、どこかで見たことがある物体を目にした場合、鋭敏に反応する仕組みになっている。
マコトの手から茶色のそれを受け取り、
──遮光器土偶の取れた足。
だとしたら、ひどく象徴的だ。
「思い当たることが?」
レオナの問いは、それを持ち帰ったミュウより、調べるチエに向かう。
ミュウと会話したくないからでもあるが、低偏差値の直観的な言葉より、高偏差値による論理的分析のほうが千倍わかりやすいからだ。
「……昔、このあたりには縄文人が住んでいて、いろんな土偶をつくっていたんだって。そこへ西から弥生人がやってきて、既存の生産設備を転用して量産したのが埴輪、なのかもしれないわね」
新旧の交代、あるいは混淆。
チエが示唆したい歴史的事柄について、最高レベルの理解を示すのがレオナであり、まったく理解しようともしていないのが他の二名だ。
「やーい、ひっつき虫、やーい」
「マコりんのばかー!」
アホな同級生の雑音に、つとめて背を向ける知性派ふたり。
チエは心の底から、その土偶の足らしきものに興味を惹かれている。
いっぽうレオナは、さすがにミュウが手にしている金印のほうに興味があるようで、
「それにしても、まさかほんとうに見つかるとは思いませんでしたね。金印……?」
「ああ、それね。……ミュウ?」
チエがふりかえったところ、すでにミュウの姿はなかった。
開けっ放しになっているドアを背に、マコトが軽く肩をすくめて言う。
「歴史部の顧問のセンセみつけて、金印ぶんまわしながら追っかけてったぞ」
それを聞いたチエは、深く嘆息して大仰に首を振る。
「業者のひとが、これをあげたら喜んでもらえるんじゃありませんかね、って。九州旅行のおみやげに買ってきた
「さーて、帰ろうぜ。レオナ、電車の時間だ」
「そうですね。まいりましょう」
薄い鞄を背に立ち上がるマコトと、高級ブランドのバッグを手にするレオナ。
全寮制だった箱入り娘学校セント・エリーは、いまや新幹線による通学が可能となっており、現在、半数の生徒が入寮、残り半数が新幹線通学という案配になっている。
「いいわね。ふたりは帰るところがあって」
入寮生のチエが、とくに感情も交えずに言った。
いつもの放課後が、終わろうとしている。
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