ポワッ、と薄い光を帯びた丸いものが、視界にうつる。


「……埴輪はにわ?」


 天才チエは、稠密ちゅうみつをきわめる脳内の情報網に問い合わせる。古墳時代の教科書情報については、短期記憶に詰め込んできた。

 データベース『日本書紀』──垂仁天皇28年条、垂仁天皇の弟ヤマトヒコが亡くなった際、殉死の禁止令を出した。その4年後、皇后のヒバスヒメが亡くなった際、殉葬の代わりに埴輪が考案された。


 国宝・国指定重要文化財に指定されている埴輪のうち、40%が群馬県から出土。

 ただし群馬県地域の埴輪は、6世紀の中頃からのものが多く、奈良県を中心とする初期古墳時代より全体的に新しい。

 チエは暗闇に目を細めつつ、


「ここ、6世紀ごろの遺構って言ってたよね?」


「学校は嘘ついてるの! ここは卑弥呼の時代に決まってるの!」


 ミュウは叫びながら、遺構に走る影を空恐ろしげに眺めている。

 ──だとしたら3世紀だ。

 ふと、視界の横を馬が駆け抜けていくのが見える……気がする。正しくは馬形埴輪うまがたはにわで、群馬県は全国的に見ても非常に豊富な出土数を誇る。


「はにゃー!」


 変な声が聞こえた気がしたが、幻聴だろうと自分に言い聞かせるチエ。

 ミュウはぶるぶるとふるえて、声も出ない。


「……たしかにここは、ね」


 科学的思考の持ち主、チエは認める。

 見たもの以外は信じない、スナフキンふう懐疑主義者。しかし現にそれが以上、なにがしかの真実は認めよう。


 ──古墳時代を中心に、現在の関東地方で栄えた文化を「東国文化」という。当時の群馬は、経済的にも文化的にも東日本をリードする先進的な地域だった。

 近隣にある簗瀬二子塚古墳は国の史跡に指定された前方後円墳で、6世紀初頭のものとされる。


 周辺に多数ポイントされている古墳についても、ほとんどが卑弥呼より新しい時代のはずだが、その下層からより古い遺構が見つかってもおかしくはない。

 なんなら「旧石器時代」に属する、岩宿遺跡があるのも群馬県なのだ。


 ふと、光るものが視界の端にうつる。

 隣を見ると、ミュウが目を輝かせてそちらを注視している。


「見つけたの。あれ、金印なの。夢に見たとおりなの」


 ……群馬に邪馬台国があった。卑弥呼の墓が、証拠の金印とともに埋められている。

 寝言は寝て言え、と思っていたが、どうも検証の余地はあるらしい。


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