I
凍りついたアトモス。汗をかいたオールドファッションド。薄まった琥珀にリビングが
空調の冷気が湿った項に触れる。右の眉の上に留まった汗が不快だ。ざらっとした綿越しに、太腿の熱が右手に伝わる。
ソファの滑らかな背張がシルクのシャツを蒸らし、真新しい革のしっとりとした香りが鼻腔にこもる。
乾いた口の中には潮の香りと微かな甘味がこびりつき乾きをより強調している。
見るともなく見る景色。ノイズの様に細かなビジョンが溶け込んでくる。淡く赤や黄色が瞬き、囁く様な不明瞭な声や音、汗ばんだ肌に僅かな熱や冷気が通り過ぎ、小さな気流が鼻腔をくすぐる。
薄い濃淡だった色が時折、集積し映像として走り抜ける。聞き取れない程のか細い声が少しずつ言葉を紡ぎ、手触りや香りを伴って断片的な情景を描き出していく。
めまぐるしく駆け巡るヴィジョンの中に見覚えのある形を見付ける。優しい笑顔、名を呼ぶ声や甘い香り。
頭を過るそれを捉えようと試みる。
夏の日差し、砂埃、赤いすべり台、遠くに聞こえるサイレン、仄かな
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