とあるがん患者のログ

[log] 1971/05/06 08:12:00

誕生。東京都板橋区。

生まれた時、父は出張中。

「小さな声で泣いた」と母がよく笑った。


> assign.name: 非公開(希望により)

> status: healthy


[log] 1987/03/10 14:40:00

高校卒業。

進学も就職もせず、半年だけ何もしない時間を選んだ。

「何者にもならなくても、朝は来る」と思った春。


> life.plan: undefined

> self.view: unfolding


[log] 1998/10/25 11:07:00

結婚。

「わたしでいいのか」と問いながら、

「あなたでよかった」と答えてもらった。


> partner: confirmed

> joy.level: steady


[log] 2005/07/02 06:33:00

子どもが生まれる。

はじめて、“自分の命の外側に希望”を感じた瞬間。

眠れない夜が、幸せだった。


> role: parent

> identity: shifted


[log] 2021/12/03 13:10:00

胃の不調→検査→告知。

ステージIV、転移あり。

「治療というより、延命です」

その言葉を聞いて、コップの水が少しだけ溢れた。


> diagnosis: advanced

> silence: prolonged


[log] 2022/01/15 09:45:00

化学療法、開始。

副作用、脱毛、味覚障害。

「こんなことで死にたくない」と思った。

でも「これで生きたくない」とも、思った。


> fight: active

> hope: fluctuating


[log] 2023/04/04 10:00:00

治療中止。

終末医療へ。

「まだ死にたくはない。でも、死ぬ準備はしたい」

そう口に出してから、周りの声が静かになった。


> palliative.care: enabled

> peace: partial


[log] 2023/08/17 19:20:00

ホスピスのベッド。

カーテン越しの夕焼け。

点滴の音。

家族の足音。

痛み止めが効いている時間だけ、心が残っていた。


> alertness: low

> pain: controlled


[log] 2023/08/18 02:11:00

まぶたが重い。

呼吸が浅い。

耳元で「ありがとう」と言われた気がした。

でも、返す声はもう出なかった。


> vision: fading

> internal: quiet


[log] 最終出力:

「がんに勝ったことはない。

 でも、逃げずに終われた。

 それで、もう十分だった。」


> power.off

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