ちいちゃん

[log] 2022/11/10 04:31:22

着床確認。

画面に小さな点。

母が「会えるかな」と呟いた瞬間、ログが始まった。


> assign.id: fetus_2022_11_A

> heartbeat: not yet

> hope: full


[log] 2022/11/28 09:05:10

初めての心音確認。

「トクン、トクン」

父が笑った。母が泣いた。

“生きてる”という事実が、家族になった。


> heartbeat.detected

> nickname.temp =「ちいちゃん」


[log] 2023/01/17 13:44:03

母が不安を口にするようになる。

つわり、微熱、眠れぬ夜。

でも、お腹に手を当てて「大丈夫だよ」と話しかけてくれた。


> connection: deepening

> outside.voice = comfort


[log] 2023/03/05 17:12:44

定期健診。

ドクターの眉が少しだけ動いた。

エコーの画面が、前より静かだった。


> movement: undetectable

> warning.flag = raised


[log] 2023/03/08 08:01:01

「心拍が、止まっています」

その言葉が母の中で何度も再生された。

父は手を握って泣いた。


> heartbeat: lost

> presence: still


[log] 2023/03/10 06:30:00

母の体から、そっと出ていく。

まだ名前はなかった。

でも、ちゃんと見送られた。


> existence.window = 121 days

> life.certificate = none

> memory.certificate = eternal


[log] 2023/03/10 14:55:00

火葬。骨も残らないくらい小さな身体。

両親が手紙を添えた。

「生まれてくれて、ありがとう」

「会いたかった。愛してるよ」


> power.off

> final_output: silent


[log] 最終記録:

生まれることはできなかった。

でも、**愛されていたというログだけが、確かに残った。**


> archive: /memory/fetus_2022_11_A.log

> name: なし(でも、家族だった)

> power.off

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