第7話 未来の話をしよう
高校生活にも慣れてきた頃、小春がいつになく真剣な顔で言った。
「ねえ、将来のこと.......ちょっと、話してもいい?」
夕飯の後、食器を片づけ終えたタイミングだった。
テレビの音を消して、小春の向かいに座る。
彼女は湯呑みを両手で包んで、少しだけ視線を伏せた。
「私ね、子どもに関わる仕事がしたいなって思ってる」
「子どもに?」
「うん。まだ、保育士か、児童福祉士か、はっきりはしてないんだけど......。でも、誰かの"居場所”みたいな存在になれたらいいなって」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。
かって、居場所を失いかけていたあの小さな背中が、今では誰かのために居場所を作りたいと思っている。
そんなふうに成長してくれたことが、たまらなく嬉しかった。
「そっか。それ、いい夢だな」
僕がそう答えると、小春は照れくさそうに笑った。
「.....私、お父さんが引き取ってくれて、本当
に良かったって思ってるよ」
.....おいおい、やめろよ。泣かせにきてん
のか?」
「ふふ、言ってみたかっただけ」
そう言って、お茶をすすりながら、彼女は少しだけ涙ぐんだ。
僕も言葉に詰まる。
この十年、正解なんてわからなかった。
迷って、失敗して、何度も立ち止まった。
けれど、それでも一緒にここまで歩いてきたからこそ、今の小春がいる。
「お父さんは、これからもずっとここにいるよ。お前が何を選んでも、ちゃんと応援する。
俺たちは、もう "親子”だろ?」
「うん。......うん」
言葉にするたび、絆は深くなっていく。血の繋がりよりも、長い時間をかけて紡がれた想いの方が、ずっと強いのかもしれない。
ふと、僕は聞いた。
「それにしても、大学どうするんだ?東京行くとか言い出したら、お父さん泣くぞ?」
「うーん、どうしようかなあ。離れても、ちゃんと連絡するよ。うざいくらいに」
「じゃあ許す」
そんな他愛ないやり取りが、今はただ嬉しい。
春が過ぎ、夏が来て、小春は少しずつ未来へ向けて歩き出している。
僕の役目は、もう”手を引くこと”じゃない。
1背中を見守るこど”に変わってきている。
それでもいい。むしろ、そうあるべきなんだと思う。
やがて、彼女が自分の道を見つけて、どこかで誰かを支える人になるのなら、僕は胸を張って「この子は、僕の娘です」と言えるだろう。
未来のことは、わからない。
だけど、きっと大丈夫だ。
この十年を共に歩いてきた僕たちなら、これからもきっと、どんな春を迎えても、乗り越えていける。
さあ、未来の話をしよう。
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