第3話 合同条件


「たとえば、映画は好き?」


 採子がふいに聞く。


 計典君も、私も、少し間をおいて、うなずく。


「うん。アクションとか。」


「私は恋愛映画……かな。」


「じゃあさ、お供には?」


「……キャラメルポップコーン」

「……キャラメルポップコーン」


 採子はパチンと手を鳴らした。

 顔は完全にドヤ顔界の覇者。


「はい、出ました。同じ円周角。」


 ∠ABD=∠ACD(弧 AD の円周角)・・・①

 ∠ADB=∠BCE(弧 AB の円周角)・・・②


「は?」


「つまり、この角とこの角は、同じ弧の円周角だから、同じってこと。

 珠奈も、計典君も、『キャラメルポップコーンという共通の弧』に対して、等しい角度で反応してるの。

 ほら、共通点見つかったわね。細かいとこまで。」


「なんで数学に例えるの……」


 私は呆れながら笑った。


「いいじゃん、今は宿題やってるのよ。恋の証明ってやつ。」



 でもその横で、公則君は静かに思ってた。


(それなら、俺と採子は……何の弧でつながってるんだ?)

(どこかにあるのかな。俺たちだけの、“同じ角”。)


 採子には、わかっていたみたい。けどそっちには触れなかった。

 彼の方を見ずに、ひたすら珠奈と計典の角度だけをそろえようとしてた。


 採子の例え話に、みんながフフッと笑ったあと。


 計典君が、ぽつりと呟いた。


「でも、それだとまだ≡条件を満たしていないよね。」


 △ACD≡△BCEを証明せよ


 一瞬、空気が止まった。


「……え?」

 私はきょとんとした。


 計典君は真面目にノートに図を書きながら言った。


「この三角形、ほら、二等辺三角形だから。

 底角が一緒だって言わないと、≡(合同)にはならない。

 長さが合ってて、角度も合ってて、最後に“対応するもの同士”で一致しないと成立しないんだよ。」



 静かになった教室で、ペンの音だけが聞こえる。


 採子がふっと笑った。


「……つまり、どれかが欠けてたら、ただ“似てる”だけ、勘違いってこと?」


 △ACD と△BCE において


 計典君は頷く。


「うん、≒(ほぼ等しい)でもダメなんだ。

“完全に一致”しないと、≡とは言えない。」


 私がこっそり採子に、


「……じゃあ、私たちって、まだ≡じゃないんだね。」


「でも、二等辺ならチャンスあるよ。」


 計典君が少しだけ照れたように言った。


 △ABD は AB=AD より2辺が等しいので二等辺三角形である。

 よって∠ABD=∠ADB(二等辺三角形の底角)・・・③


「なにそれ、計算高い……」


 採子が苦笑いしながら目を伏せた。


 公則君が、珍しく真面目にボソッと言った。


「結局、4人は似た者同士ってことで。」


「そうかもね。」


 採子の声は、どこか遠くを見ていた。


「どこかが足りなくて、

 でも、それでも誰かとつながりたいと思ってる点たち。

 円の上にいて、交わったり、すれ違ったりする。

 ただの点。けど、それが何かを作るって、ちょっと素敵じゃない?」

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る