第30話 科学なき宗教は盲目である

「随分と余裕だな。お仲間全員伸びてるけど、大丈夫か?」


「そちらこそ自分達だけは大丈夫なようだが、彼らのお仲間じゃないのかね。もう少し心配してあげたらどうだい?

 それとも、考え直して入信してみるかい?言ってなかったが私はソレなりの立場があってね。君たちならそれなりの待遇も約束するよ。そうだ、名前を聞いてなかったな、教えてくれよ。因みに私は浅井という」


「冗談っ!」


取り敢えず石でも喰らっとけ。返答は決まってんだろ?せめてお前らの言う神ってのがアレじゃなきゃな。いやそれでもだが。


嫌がらせにしかならないだろうが今は機会を待つしかない。こっちの勝ち筋はあのローブを剥ぐこと。それで力が通るなら重力でなんとかできるだろ。もっとも、近づくことが厳しいんだが。


先ほど奪った杖は適当に風よ!みたいに思って振ったら本当に風が吹いて驚いたが。それでもコントロールとか色々練習しないと使い物にならなそうだしな。


と、向こうが思っているうちに決着をつけたい。


あとはあの炎と風のコンボをどうにかしていく手段。風だけでも脅威だったのに炎はキツイ。


それにさっきの攻撃で友軍の意識を刈り取ったののがなんなのかってことだ。


「雅人さん、多分、酸欠です。熱による被害はそこまで酷いものではありませんでした。あの炎、魔法っぽいけど燃焼してるのかも」


「そりゃ君、火なんだから当然だろう」


言うと浅井は両手を広げ俺と海斗、遥香と雫と2か所に分かれた俺たちの両方に向けて炎の渦を放ってくる。


まじかよ、そんな器用なことも出来んのか?だが!


「いったん距離を取るぞ! こっちだ!」


炎の渦を伸ばしてくるがその分、先ほどの暴風はない。動きが制限されなければ。多少の火傷は治療前提で動く。


「杖の風で押し返せるか試します。海斗君はアレを」


「っ!? 分かった! 多分いけると思う」


距離を取りつつも海斗がある建物に向かう。目標は防火シャッター。今の海斗は重機並みのパワーだぜ?対炎の盾が得られれば少しは耐えれるかもしれん。それと、相手の攻撃がどれほど続くかだが。


「厳しいわね。ほとんど魔力の減少を感じないわ。さっきから炎を使ってるけど、あれなら何時間でも続くかもね」


「体力と集中力は分からんがな。魔力的には問題はないと」


炎の渦は速度はそこまで出ないらしく距離を取ることも出来たし盾の準備も海斗がシャッターをはがし終わったところ。問題は接近できるかだが、果たして。


「逃げているだけではどうにもならないのでは?威勢は良かったが何も出来ないようだね?」


挑発は向こうも近づいてきて欲しい証。無理に近づいてもそれこそ何も出来ない。


しかし近づかなければローブは剥がせない。投石も効果はなし。久し振りに手詰まりだな。


「ここが東京で、市街地ということを忘れていないかい? 私の武器はそこら中にあるのだよ? 出来れば殺したくない。独力でそこまで戦える力を得た君たちの秘密も知りたかったが、死なないでくれよ?」


炎の渦が俺たちに向かっていたのがその方向を変えて回り込むように迫る。だがそれはこちらも向きを変えれば……


違うっ!アイツの狙いは!


「伏せろっ!」


2本の炎の渦のうち1本はシャッターに阻まれているがもう一本。回り込むように迫ってくると思われたもう一本は。


俺たちから多少離れている場所にあった打ち捨てられている車へと向かい、まだ残っていたガソリンに引火し、爆発。


爆発の衝撃以上に飛び散って来る破片がヤバい、シャッター、持ってくれ!


乗用車の爆発程度ではそこまで大きな衝撃はなかったか。取り敢えずは助かったが。


それでもソレなりに衝撃はあったしシャッターも凹んでるのが怖い。トラックとかが爆発するとどうなるんだ?


今のところ向こうがこっちを殺さないようにしているのが救いとは悲しいが。2台目、まだ大丈夫。


3台目。くっそ、延々守勢ってのは苦しい。が何とか耐えれている。


「最上さん。ヤバいかも。段々爆発が強くなってない? たまたまって感じじゃないよこれ?」


「爆発の規模を操れる? 待て、何故あいつはわざわざ車まで炎を伸ばした? 常に風の杖を使用している?」


「何かわかったんですか? 今はまだ大丈夫ですけど、さっきの治療もあってこのままだと私もどこまで持つかわからないです。突破口があるなら、試しましょう」


どうしても魔法的なイメージだったが本当にそうか?炎を操る能力じゃない?


燃焼。可燃物と支燃物、熱と化学反応。酸素は大気中のものを使用している、のだろう。熱と可燃物は?


アイツは自分の手元近くからしか炎を発生させていなかった?そして延焼の形を取っていたはず。なら。


「海斗、逆のことをやってやれ」


「逆?どういうことです?」


「あいつがしていることをそのままやり返すんだよ。あそこの車がまだ無事だから、あいつに向けて放り投げてくれ」


まだ爆発させられていない車を海斗が投擲。これでどう動くか?


「ふん、無駄ですよ。力を増して、投げつけたとしてもその速度では避けられない方がおかしい。おとなしく投降したらどうですか?」


避けたな。炎の渦の射線からも。爆発はさせたくないわけだ。今度ははっきり見えたぜ。


「遥香。いけそうか?」


「練習したいところだけど一発勝負ね。いくわ。ちゃんと見えているから」


これで決める。勝ち筋は、これだ。


遥香が構えるのは友軍が数丁だけ所有していたクロスボウ。そして向こうからは見えていない。


俺だって向こうは見えていないが、遥香には射線さえ通れば視線が通る必要はない。


海斗によりシンクロした俺と遥香の感覚。まずは浅井に隙を作ってもらおう。


未だに俺たちに迫ろうとする炎の渦の周囲の酸素を重くする。大気中でありながら酸素は不自然な質量を与えられ一瞬だが炎の周辺が無酸素になる。


たったこれだけで。これまで苦しめられてきた炎は消失し、同時にここまで余裕を崩さなかった浅井の表情が歪む。


「なにを――?」


浅井の驚愕を余所にバシュッ!という音とともにボルトが高速で射出。投擲の比じゃないぜ?時速で200㎞以上は出てるはずだ。


そしてボルトは一直線に浅井へ向かい。直前で質量を巨大な鉄球のように増し。


その衝撃は爆発こそ起こらないもののちょっとした爆弾ほどはあるだろう。肩口に命中したがそれは肩から腕をもぎ取る形となり貫通。


後方のビルに命中するとその衝撃をすべて伝えたのかビルが崩れていくほどの威力を発揮した。


貫通してなければ浅井が爆散してたかもしれん。が、決着だろう。ここまで重力操作と思わせたからな。質量操作なんだ。


そして浅井の能力は。恐らく可燃物の生成と操作。酸素がある場所で、最初に着火させれば延々と燃料を湧き出させることで延焼を継続。


こんなところだろう。だからこそ風の杖を使用していたのだろうし、速度が出せなかった。燃料を出せても延焼の化学反応が追いつかなかったのだ。


そして車の爆発規模をコントロール出来たのもこの力でガソリン的な燃料を増したのだろうと思う。


確かに、油断というか殺しに来てたらもっとやりようはあったのだろう。苦戦、というか命の危機もあったと思う。


だが、対人戦。特にこうした一騎討みたいなケースでは。手札を晒せば晒すほど不利になるんだぜ?


こっちは隠し通せたようで良かった。海斗の接近戦も可能なら良かったが。友軍が装備していたクロスボウを見た時から切り札はこれだった。


スリング以上、なんならそこらの拳銃以上の初速を誇るクロスボウだ。そしてボルトの質量は増やせる。ならばその破壊力は銃の範疇すら超える。


大砲や爆撃クラスまで上げることが出来る。ドラゴンだって倒せそうな気がするぜ。


貫通力の高さが逆に威力を対象に伝えきれないという問題はあるが、対人なら一撃必殺級の威力だ。


そこに遥香の高精度の目。目標の補足は勿論、風やその他あらゆる環境要素を見切り必中の射線が遥香には見える。


操作は初めてだが完璧なエイムは見事命中という結果を出すことが出来たのだ。この合わせ技は協力だ。


俺たちはチームで戦うからな。そこがお前との違いだったみたいだな、浅井よ。


腕がもげるほどの衝撃だ。死んでいるかもしれないがもし生きていれば捕縛しておきたい。それなりの立場ってことはいろいろ情報も引き出せるだろ。


赤反応の秘密も出来れば知りたい。身包みはいどきゃ危険もないと思われるが―


「ぐっ……ごふぉっ…………」


立ち上がった!?息があるならまだしも死んでもおかしくないと思われるほどのダメージだったはずだ。血だって凄いことになってるし、腕周りだけじゃなく周囲の骨だってイカれてるはずと思うが。


浅井は、立ち上がり、何かを呟いている―


「か……かご……あい……こ………なか…」


ふらつき、焦点のあっていない目。血の気の引いた顔。どこからどう見ても死にかけの人間だが、その傷口は徐々に黒く染まり。


「うそ? 魔力が増えて、いる? この反応は。落ち武者の時より、ずっと……あり得ない、わ」


「何か、不味いぞ!? 分からんが、とにかく危険な―」


「最上さん、フォローお願いっ!」


遥香が何かを感じ取り。それを聞くまでもなく全員が不吉な何かを感じ、そして俺が支持を出すより早く海斗が浅井に駆け寄り。


海斗の振り下ろすこん棒の質量を最大限に増す。考えるより先に動いていた。


そして海斗の振るったこん棒はその魔力と質量、海斗の全力の振り下ろしの速度。あらゆる要素を内包したそれは打ちおろした地面を陥没させ。


周囲に石象の地震を思わせる揺れを齎した。その揺れが収まった俺たちが見たのは跡形もなく消え地面にシミを残すのみとなった浅井であった残骸。


そして、まるでここがダンジョンで、浅井がボスであったかのように。ドロップ品が落ちていた。


明らかに今までで一番の脅威が訪れるところだったのだろう。それは、脱した。咄嗟の海斗の判断に感謝だ。


しかし、謎は深まるばかり。教団は、考えていたよりもはるかにヤバい。市ヶ谷へ向かう足は自然と速くなり。


そこで得た情報は、更に困惑を誘うのだった――

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