第6話 僕系爽やか脳筋後輩

「海斗!居てくれると信じてたぜ。助けるもなにもこっちから助けてくれって頼みに行くとこだったんだぜ?取り敢えずこっち来いよ。まずは情報交換だ」


「はーい、いきますねー」


高杉海斗、24歳。めちゃくちゃ爽やかな顔の新社会人である。言動も実に素直でいい子である。


ただし身体はマッチョ。海斗は草野球やってるんだがアメフトやった方がいいんじゃね?っていう体格。顔と身体のアンバランスさよ。


いや別にいいんだけどね。特にこんな世界においてはこれほど頼もしいやつもいない。筋肉はいつだって正義だというわけだ。


「もしかして今って結構ヤバい状況なんですか?僕、昨日から家を出てないんでよく分からないんですよね。でも人通りは少ないしなーんかいつもと違うなぁって。なので情報交換といっても僕からはなんにもないですよ?」


家から出てないヤツの所感を聞くのはそれはそれで役に立つかもなんだぜ海斗?


なにもすぐに役に立つ情報だけが重要なんじゃない。寧ろ俺と遥香だけで考えた結果なんて追い詰められてまともな思考かどうか分からないから不安なんだ。お前の意見はこれかの行動の指針を決めるには不可欠なんだぜ。


それに、報酬はちゃんと用意してあるぜ?


そして良くウチにきていた海斗は慣れた感じで家に上がっていく。改めて4人で情報のすり合わせ、今後の相談だな。


――――――――◇◇―――――――――――――――――


「えー、そんなことになってるんですか?僕も雫さんと同じであのへんな放送は悪戯かと思ってました。なんなら敵国の電波攻撃の一環?とか思ってました。技術的なことは全然分かんないですけど、相手の国民混乱させられたらそれなりに効果あるんじゃないかなって。

 それと僕は朝から最上さんの帰り待つのに外を眺めてましたけど化け物は一匹も見てませんよ?避難していく人はたまに見ましたけど」


「なるほど、その可能性は全く考えてなかったな。ただ流石に技術的に無理じゃないかな。それにこの辺には化け物は出現していない、と。住民は少数だったか。大半は夜のうちに避難したのか?放送に合わせて避難した人も多いのかもな。その辺どうだ?遥香」


「私の力が思った通りだったらこの辺には人も化け物も反応はなさそうね。青も赤も黄色もなし。ま、たまたま病院で3体遭遇したけどその後はそこまで赤い反応もなかったから。実は街中はそこまで危険じゃないのかもしれないわね。と言っても多少は化け物がいそうなポイントはあったわけだし一人で出歩くのはごめんだけど」


遥香のマッピングの精度を確認しておいた方が良かったか?化け物のいそうなポイントを覗くくらいは……いや、無しだな。


こうして自宅にまでたどり着けたわけだし海斗とも合流できた。ならまずは安全マージンを出来る限り積み上げるのが先だ。検証はその先だろう。


「海斗、信じられないかもしれないが俺たちは今までの常識の通用しない世界を生きている可能性がある。治ってるから証明しようがないが俺なんて死にかけたんだぜ?

昨日まではここにいる誰一人、自分が死ぬかもなんて考えてなかったはずだ。戦争が始まって生活の不安はあったかもだが、自分が死ぬかも?とは思わなかったんじゃないか?」


周囲を見回すと3人とも俺の意見に同意している様子だ。昨日は戦争を他人事のように感じていた俺だったが、現代の日本人にとって実際に開戦となってもそこまで身近には感じないのがマジョリティのようだ。


ま、4人だけなんでマジョリティも何もないんだが。それでも、恐らくは避難しているであろう多くの人達も大体同じなんじゃないだろうか?


「そんでもって死にたくないってのも皆同じ気持ちだと思う。……4人でこの家に籠るとしても一カ月は十分に喰っていくだけの物資はあるはずだ。だからまずは一週間。諸々とに充てたい。時に女性二人に聞きたいんだが裁縫は出来たりするかい?」


「裁縫?ボタン付けるくらいなら出来るけど?どうしてよ」


「私はソコソコ得意ですよ。ちょっとした小物くらいなら作れますけど、ソーイングセットは持ち歩いてないので何があるかによります」


「そこまで難しいことを頼む気はないから安心してくれ。裾上げとかサイズ調整とか?すまん、裁縫は詳しく無いからよくわからないけど、頼みたいことがあってな。

海斗。お前んちには色々とあるだろ?スポーツ用品と作業用具諸々、持ってきてくれ。裁縫道具は、多分最低限のものはウチにあると思う。確認してくれ」


まずは装備の更新だ。ゲームじゃないけど、装備は大事だろ?


海斗と雫は普通の私服だし、俺と遥香はスーツだし。俺に至ってはボロボロで血まみれだし。あ、そっか。腕は治ってるけど子お血まみれの服見れば海斗だって異常事態に気付くわな。


自宅に帰って気が緩んでるのかもしれん。引締めよう。油断は死を招きかねないのだから。


それに準備諸々も必要だ。俺は各人に説明をし、それぞれの得意不得意に合わせて仕事を割り振っていくのだった―


――――――――◇◇―――――――――――――――――


あれから二日。変異からは三日。今日から遥香は仕事量を減らして周囲の観察に集中して貰うことになった。


そしてそれぞれの格好も変わっている。


海斗がガテン系だったのはめちゃくちゃ大きなアドバンテージだった。俺もソコソコDIYなら得意だが海斗は本職だ。


まだ若いとはいえ俺よりそう言うのは得意だしなによりアイテムが豊富だ。そして作業着もありがたかった。一般に流通している衣服では作業時はかなり丈夫な部類だろう。多少の対刃性も期待できる。


そしてスポーツ用品も非常に助かる。審判もやってるようなやつだったからな。プロテクターなんてものもあった。


海斗の持っていた作業着を雫が各人に合わせてリサイズしてくれたので全員基本は作業着を着ている。


海斗がいなきゃジーンズが候補だったが。そっちは重ね着で下に着こんでいる。


比較的丈夫と思われる衣類をさらに重ね着すれば、初日から比べれば大分マシになったんじゃないだろうか?


靴も俺と海斗は安全靴装備。黒狼より小型なら踏みつけでもダメージ与えられるんじゃないか?試したくはないけど。


女性陣は流石にサイズが合わな過ぎて動きが悪くなるので動きやすい靴だけど。


雫は元々病院に来た時の靴をそのまま。遥香もニューヨークスタイルかヒールとスニーカーの両方持ちだったのでそこは問題なかった。


その上に俺と海斗はX線防護衣と安全靴を装着。審判用プロテクターは女性陣が装備している。


海斗は大胸筋が非常に発達しているので雫でもその部分が問題なかったのは良かった。遥香は全く問題なそうだし。


「今一瞬だけど家の中に黄色の反応があった気がするんだけど気のせいかしら?私の敵が近くにいる訳、ないわよね?」


「集中しすぎて過敏になるのも良くないぞ遥香?それに索敵は外を中心に行ってくれ」


あぶねぇな遥香の能力。え?そんな些細なことでも反応するの?いや、俺は変なことなど考えていなかった、はずだ。そう思おう。


……ごまかせたよな?俺は普通に対応できたはずだ。


「ま、気にしないどいてあげるわ。っ!黄色!?」


「おい、いい加減に…………外か?」


「100mくらい先かしら?黄色の反応、3人?青じゃないのは、あなたの嫌な予測が当たったのかしら?違うことを祈るけど」


特に絶対の根拠があったわけじゃないが今日は昨日までより危険かもしれないと思っていたんだ。化け物じゃなくて人間の方が。大きなトラブルにならなければいいが……ま、海斗にも期待かな?


100mならすぐかもしれないし、周辺の家を漁りながらなら多少は余裕があるかもしれない。


まずは遥香と雫には奥に隠れて貰って俺は玄関先にて来客を待ち受けることにした。来なきゃ来ないでいいんだがな。


が、こんな時の予想は大体悪い方に当たる。パンを床に落とした時にバターを塗った面が下になるのと同じだな。


「おお?おっさん避難してねえのかよ。雨戸閉め切ってる陰気な家と思ったら避難しないで籠ってたのかよ。なぁなぁおじさん。なんか今は非常事態なんだろ?そんで俺たちこんななりだから避難所もいい顔してくれなくてさ。だから、その、分かるだろ?なんか恵んでくれよ?痛い目にあいたくはないだろ?」


3名の若い男のグループがにやつきながら俺に話しかけてくる。


本当にイヤではあるが、来客対応のお時間――だ


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

本日はもう1話投稿いたします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る