第3話 神の試練

電気が無くなった世界。まぁまだ完全にそうとは言い切れないのだが。それでも昨日から電化製品は全く使えないし明かりも灯らない。なんなら電池で作動するはずの懐中電灯だって点かなかった。電池を新しくしても、だ。


その元凶とも思える白い影、神のような存在といってが俺は認めんぞ。お前はどこまで行っても白い影だ。


その白い影が砂嵐どころか全く反応を示さないはずのテレビの画面に映っている。自然と顔をしかめちまうってもんよ。


「一晩経ったわけだが人類諸君。どうかね?生き延びているかね?もっとも生き延びてないとこの姿を見ることも叶いわけだが。

 あぁそうだ、伝えておこう。この映像は全ての人類に伝わるようになっているのだ。日本なら一晩明けたと言っているだろうし、アメリカなら夜を迎えたわけだが、と言っているだろうね。君たちに分かりやすく言えば全世界同時翻訳放送!といったところかな?

 さて本題に入ろう。まずは昨日から今日にかけての君たち人類の動向についてだね。残念なことに一晩にして80億人だった世界人口は半分の40億人になってしまった。死因は自殺を含めて人類によるものがほとんどだね。折角敵を用意したというのに君たちはまだ人類同士の争いを続けているのだから困ったものだ。

 もっとも戦争自体は継続不可となっているね。兵器は動かないはずだ。通信が出来ないから前線では無益な争いが続いているようだがね。そう言えば私が大半を止めたミサイルだが一部は効果を発揮したようだね。国によっては全滅の憂き目とは悲しいことだね。それも君たち人類が自ら撒いた種なんだから諦めてくれたまえ。

 しかし思いのほか君たちは弱い。文明の利器が無いとこんなにももろいとは思わなかったよ。なので電気の代わりを上げようと思ってね。


そうだな。電気の替わりに魔力をあげよう。使い道?得意の科学で解明したまえ。


文明の利器の代わりにアイテムを授けてあげよう。それを使いなさい。入手方法?ダンジョンでも攻略したまえ。


私を信仰をする代わりに祝福を授けよう。意志の力を具現化できるようにしよう。


 ただし!君たち人類は制限を設けないと際限なく欲望を満たそうして世界を破滅させることが分かった。破壊の力に制限を設けよう。移動にも制限を設けよう。なにも世界中で競い合う必要はないじゃないか?海も山も谷も越えなくて良かったんだよ。

 これで少しは人間らしい生活に戻れるのではないかね?繰り返すがこれは罰ではない。救済だよ。私が介入し仲れば核の炎で君たちは絶滅していたのだから。

 まあ……電気を失くしたからね。飛行機などで移動中だった皆様は不幸かもしれないが必要な犠牲と割り切ってくれたまえ。どうせ、どこにいても死の危険はあるのだから。立場や収入に関係なくね。ほら、多くの人が望んでいた『平等な世界』の誕生だ。喜びたまえ。

 改めてようこそ!神話の世界へ!おっと、久し振りの介入に私としたことが興奮してしまったね。それでは諸君、また会おう。生き延びてくれたまえよ?」



――ふざけるなっ!


人間らしい生活なら電気を返せばいいじゃないか?核が悪いのならそれだけ奪えばいいだろう?遊んでんのか?コイツは。それに意志の力?よく分からんもんを授ける必要なんてないぞ。元の生活を返せってんだ。


……いや、返せとかコイツに頼る気持ちすら抱きたくないな。今まで生きてきて、こんな感情は初めてだ。心の底からの怒りってのはこういうもんだったのか?


「ふざけてるわね。殺したいくらいに憎いって言葉を心から理解したわ。40億人が死んだ?何の感情もなくそれを言えるコイツは神なんかじゃない。悪魔だわ」


「全く同感だ遥香。なんとかして殺したいと思ったのは俺も人生で初めてだ。なにが生き延びてくれだ。あいつが殺したようなものじゃないか!?」


……いやいや待て待て。40億人が死んだってのもアイツが言っているだけだ。なんで信じた?やっぱり危険だ。あいつの言葉は何かおかしい。胸中に浮かんだ疑問を遥香に告げようとして言葉を飲む。


外から声が聞こえたからだ。


「ちょっとー!なんですかこれは!?病院にこんなことして何考えてるんですか!!」


病院関係者か?あの白い影の話を聞いてないのか?それに外だってひどい状況だったじゃないか!


まさか、今まで夢でも見てたのか?そうか、その可能性もあるよな。いやでも遥香のことはどう説明する?


あぁ!!くそっ!昨日から頭が混乱しっぱなしだぜ、しかも寝てないもんだから余計に頭が回らん。


あっ!?まずい??


―その先は考えるより先に身体が動いていた。バリケードを乗り越えてドアのカギを開け無理やりに自動ドアを開けようと力を籠める。


自動ドアったって手動でも動く。動くがスライドさせるのは面倒だ、だがそんなことは言ってられない!


ようやく一人が通れそうな隙間が出来たところで今しがた声を掛けて来た女性の手を掴み中に引き込む。


ドアを閉める。カギを掛ける。女性を抱えてバリケードを戻る。


緊急時だ。了解取ってる暇なんてねぇっ!すまないな。あとで謝るから……勝手にバリケード作ったことも。


――ドアに衝撃!大型犬ほどの大きさの犬よりも狂暴な顔をした何かがドアにぶつかる。


危なかった。なんだよあの牙。昔動物園で見た狼はもっと可愛かったぞ!?漆黒の身体に真っ赤な目、牙はサーベルタイガーかってほどにデカい。


あんな生物は知らんぞ!?信じたくなかったが魔物なのか?神話の世界ってよりファンタジーかパニック映画の世界だろコレ!


「遥香っ!得体のしれない生物がいる!恐らく魔物ってやつだ。昨日の駅にいたやつと同じか分かるか?」


「わかんないわっ!昨日は暗かったし輪郭くらいしか……ただ、それくらいのサイズだったかも!?って言うか大丈夫なの!?」


「わからんっ!だがさっきはそこの女性に飛びかかろうとしてドアにぶつかったんだろう、今度はしっかりとドアを破ろうとしてるみたいだ!やりたくはないが叩くしかないかもしれないっ」


仮称「黒狼」は一度ドアから離れてくれたがその目線はこちらを見据えている――


来るか!?ガラスっても相当に丈夫なはずだが相手の強さが分からん以上は破られた時のことも考えないといけないが……


自動ドアをぶち破る化け物の突進なんて受けたくないぞ!?持ってくれ防護衣!


そうは言っても話は通じそうにない。俺は覚悟を決めて手製の点滴槍を構える。槍なんて使ったことないぜ?見様見真似だ。


狼の癖に映像でしか見たことがない闘牛のように後ろ足を蹴りつつこちらを見据える黒狼。


そしてついにこちらに向かって突っ込んでくる。俺はバリケートの後ろから槍を構えバリケードの前に切っ先を突き出す。


「ウォォォォーン!!」黒狼は鳴き声を上げつつドアに向かって走る。衝撃!突き破って来る黒狼。


その突っ込んでくる黒狼の頭を目掛けて槍に渾身の力を込めて前に突き出す!



ゴキンッ!!という嫌な音とともに力なく崩れ落ちる黒狼。



……やった、のか?


バリケードからそっとのぞき込むと前足が動いたのが見える――


「おおぉぉぉぉぉ!!!」


その先は必死だった。効いてるのかどうかなんてわからない。必要だったのかすらわからない。


俺は狂ったように黒狼を滅多打ちに打ち据え、刃を突き刺し、バリケードを崩しながら暴れまわり――


「もう大丈夫っ!そいつ、動いてない!!雅人、止まって!」


遥香の悲痛な叫びでようやく我に返った俺は目の前に横たわる黒狼だった残骸に目をやり、その場にへたり込んでしまう。


「待って!死体を外にっ!呼び寄せちゃうかもしれないでしょ!?それにコッチ、こっち来て!バリケードの中にっ!へたり込むのはちょっと早いわ!!」


もう考えるだけの余裕は無かった。言われるがまま死体を外に放り出しバリケードを再び乗り越え、崩した分を急いで積み上げる。


遥香も手伝ってくれているが始めて見るぞ?泣き顔。そうだよなぁ、怖いよなぁ。


俺も必死だったがこの子だって必死に色々我慢してたんだよな。サバサバしてんなぁとは思ったけど、やっぱり怖かったんだよな。


だが黒狼は倒すことは出来た。見た目は恐ろしくいかにも魔物って感じだったが、手製の槍でも戦えた。ドアを突き破った勢いはとんでもないと思うが。


だがずっとこんな化け物の襲撃に怯えながらの生活なんて耐えられるのか?現代人たる俺たちに。


初戦闘には勝利した。しかし、不安は増すばかりだ。先ほどの白いヤツの言葉だって整理すらできてない。


「あのー、一体これはどういうことです?まさか、本当にあの放送は……悪戯みたいなものじゃ、ないんです、か……」


あー、そっか。この人のこともあった。恐らくは病院関係者。悪いことをしてる自覚はあるが状況が状況なんだ。許してくれ。とは言え説明は必要だよな。


俺は初めての人類共通の敵との勝利の余韻に浸ることも出来ずに――


改めてこの女性への説明をはるかにお願いするのだった。いや、同性の方がいいだろ?それに少し、休みたいんだ。


全身を襲う疲労感と虚脱感に、俺は再びその場にへたり込んでしまうのだった……

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