第8話
ネイピアスが会場となる大広間に入ると、既に多数の貴族で埋め尽くされていた。
あんな大騒ぎがあったが、社交会は開催するらしい。
それにしても...いやはや、厳重な警備だこと...。
会場入りしたオイラー子爵家に対し、次第に視線が集まる。
真っ先にスリム兄さんとアグレスお姉さまに、憧れや熱い眼差しが多数降り注ぐ。
その後、我らが父母に視線が...向くことはなく、なぜか僕が注目を集めていた。
悪い意味で。
(そんなに黒髪ってマイナスイメージなのかぁ...。なんかショックだな。)
元日本人として黒髪が普通の環境で過ごし、漆黒の髪色に多少愛着を抱いていただけにカルチャーショックは大きかった。
「...ネイ、大丈夫?」
「あ、どうも。大丈夫だよ、お姉さま。」
若干落ち込んだ空気を察したのか、あるいは軽蔑の視線を向けられた弟を思ってか手を差し伸べてくれた女神アグレスお姉さま。
お姉さまと手をつなぎながら、まずはこの社交会の主賓であるハイペリオン国王陛下に拝謁を賜りに参る。
「お世話になっております、陛下。オイラー子爵家当主、ハゲナイ・オイラーにございます。」
「久しいの、ハゲナイよ。息災であったか。」
「王国の皆様のおかげで、つつがなく毎日を送っております。」
「それなは何より。...して、そちらが?」
「左様にございます。...ネイ、ご挨拶を。」
僕が挨拶をする番らしい。
先に挨拶をしていた同年代くらいの子供を見ていたから、この年頃の子供の挨拶は既にシミュレーション済みだ。
「は、はは初めましてぇ!オイラーし、しし子爵が次男、ネイピアス・オイラーですっ!」
「...面を上げよ。」
声を震わせ、若干上ずった声での挨拶だ。
先ほどの子とまさに瓜二つ...完璧だ。
そう思って顔を上げたネイピアスが見たのは、面白そうなものを見る国王だった。
(あれ?思ってた反応と違う?)
元修士課程2年の優秀な頭脳でもって行われた脳内シミュレーションでは、ネイピアスに興味をもつものは誰もいないという結果だった。
たしかに、興味を示している者は誰一人いない。
...国王陛下を除いて。
(マズい...!!今の僕の強さはまだ不十分だ!!目立つわけにはいかない!!)
国王と目線があったまま、余計なことを言わないようにとの気持ちを必死にアイコンタクトで伝える。
...しばらく見つめ合った後、国王が微笑を浮かべて目線を下げた。
「そうか、お主が...。我が娘と同い年だそうだな。これからよろしく頼む。」
「は、はいぃ!!ししし至極光栄に存じますぅ!!」
(よかった...。理解の早い王で助かった。)
そうして、初めての謁見を無事に(?)こなしたのだった。
◇ ◇
(あの少年...なかなか面白い子だった。)
しばらく挨拶が続いた後で、国王ハイペリオンは先ほどのオイラー子爵家次男の黒髪の少年を思い出していた。
オイラー子爵の長男・長女はとても優秀で見目麗しく、あの両親からなぜこれほどの子供たちが生まれたのか、「
しかし、その次に生まれた末っ子は何の才能もない平凡な子であり、「蛙の子は蛙だ」と今度はまったく逆の話題が広まった。
そんなことだから、実際に会ってみて事前のイメージとの違いに驚いた。
言葉では緊張した雰囲気をつくってはいたが、纏う空気は自然体そのものだった。
さらに、自分と目を合わせても全く怯まず、それどころか決意に満ちたような眼を向けてきたのだ。
そこにはハイペリオン自身への敬意が一切なく、「国に忠誠などなくただひたすらに己が道を貫く」...まさにそんな決意の眼であった。
(こんなに熱意のある子供が夢をかなえられる、そんな場所を提供できる国であろう。)
ハイペリオンは彼の決意を感じ取り、自身も改めて決意したのだった。
黒髪である以上、魔力技術が障害となって彼の前に立ちはだかるだろう。
だが、人生は魔力技術だけで決まるわけではない。
彼の熱意があれば、どれほどの逆境でもはね返せるだろう。
願わくはその決意が折れることのないまま成長してほしい。
(彼はいずれ、フルイド王国に大きなものをもたらしてくれるだろう...。)
◇ ◇
「それじゃあネイ、くれぐれも問題を起こさないようにな。」
「お任せください!!...え?」
「それじゃあ僕たちは行こうか。」
「ええ。行きましょう、ネイ。」
(あれ?親と一緒に挨拶まわりをするんじゃないの?)
お姉さまに手を引かれながら、注目を浴びつつ兄妹で会場を歩く。
よく見ると、子供たちが固まっている場所があることに気付いた。
どうやら子供は子供同士で交流するらしい。
(...まぁ黒髪の子を探して交流するには好都合か。)
そう思い、辺りを見回したが黒髪は一人も存在しない。
どうやら相当レアらしい。
(もはやガチャでいうSSRだろ。こんなにいないのか。)
...いや、おそらく生まれているはずだ。
町を歩いた際に数人だが見かけたことがある。
貴族に少ない理由として考えられるのは、恥さらしとして追放されたか、あるいは...。
おっと、これ以上は止そう。
好奇心は猫を殺すのだ。
(そういえば城内に侵入した日に会ったあの子はどこだろう?かなり端とはいえ、王城にいたのと服装から貴族だと思ったんだけど...?)
これまで唯一会った黒髪の子である。
そして今回の社交会の主目的が彼女との交流だ。
何としても探し出さなければ...。
「あ、いた!」
あの子で間違いない。
若干青みがかったほぼ漆黒の髪をもつ彼女だ。
だが、名前も分からないのに挨拶しに行くわけにはいかない。
「兄さん、お姉さま。お願いしたいことがあるのですが...。」
「どうしたの?」
「どうした、ネイ?それといつも言っているが、僕のことはお兄さまと呼んでくれないか?」
なんかモテ男がへんなことを言っているが無視だ。
「あちらの、美しい黒色の髪をお持ちの方についてお教えください。」
周りに人だかりのない彼女に兄さんとお姉さまの視線が向く。
そして僕が聞いた理由を察した様子で、彼女について兄さんが教えてくれた。
「なるほど...。あの方はこの国の第一王女セレネ・フルイド様だ。あらゆる分野において才能を発揮している天才で、とても聡明なお方だよ。」
(貴族どころかまさか王女だったとは...。近づけば権力目当てだと思われるよなぁ。たしかに権力欲しいけどさ。)
関係を持てば黒髪のサンプルを入手しつつ、権力まで入手できるかもしれない。
そりゃ一石二鳥だけどさ...。
(王女はちょっとなぁ。せめて公爵令嬢とかならなぁ。)
(というか王女でも黒髪だと城の端に追いやられるのか。相当ひどいな。)
「ネイはセレネ様に興味があるのね?」
「へ?あー...まぁたしかに興味はありますけど、話しかけるのは遠慮しておきm「じゃあセレネ様にご挨拶に行きましょう!」...え?」
お姉さまはそう言い放つと僕の腕を掴みながら、寄ってくる男どもを払いつつセレネ様の方向へ進み始めた。
「あの、お姉さま?僕は別に...。」
「僕が彼女に声をかけると色々と迷惑だろうからね。ここで待っているから行っておいで。」
女子たちに言い寄られている兄さんから、そんな言葉が聞こえてきた。
...お前はとりあえず爆発しておけ。
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