号外 最近読んだ本の感想

 今年の夏以降、カクヨムで書く量を週に一回にしたことで、「時間がない、時間がない」と言っていたわたしに少し時間の余裕ができました。


 これまではアウトプット過多の生活だったため、身の削るような思いをして書いていましたが、落ち着いてインプットする時間がとれるようになりました。


 よかった、よかった。


 そこで今回の『わたしをつくった百の物語』は番外編。この夏以降、読んだ小説を簡単に紹介してみようと思います。本編とはちがって、紹介した小説はいま書店で手に入るものばかり。気になったも本はぜひ手に取ってみてください。



☆☆☆



❶ キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』(ハヤカワ文庫)

❷ 松崎有理『シュレーディンガーの少女』(創元SF文庫)

❸ ファン・ボルム『ようこそヒュナム洞書店へ』(集英社)

❹ キム・チョヨプ『派遣者たち』(ハヤカワ書房)

❺ 村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)

❻ 村田沙耶香『生命式』(河出文庫)


 まず、❶『わたしたちが光の速さで進めないなら』について。手に取ったきっかけは素敵なカバーイラスト。描かれている女の子が可愛い。タイトルもすごくいい。わたしたちが光の速さで進めないなら――って、とても詩的なタイトルだと思う。


 書店の「◯◯フェア」という形で面陳されていたので目につきました。ジャンルはSF短編集です。中身を読む前から「センスがいいな」と思いましたが、収められた作品もとても良かった。


 キム・チョヨプさんは韓国の作家さんなんですけど、韓国SFなんてまったく未知の領域、とても興味深く読めました。当たり前かもしれませんが、英米文学と違ってぐんと日本文学に(文化的に)近い読み味で、「こういう感覚で読める翻訳小説があるのか」と新しい発見がありました。


 ❷『シュレーディンガーの少女』は、❶と同じタイミングで購入した本で、これがまたカバーイラストに可愛い女性が描かれている本で、内容もやはりSF短編集と女性SF作家の作品を韓国と日本とで読み比べた形になりました。


 どちらがおもしろかったのか――なんて野暮なこと書くべきでないのかもしれませんが、個人的には❶の方がおもしろく読めました。どこに差があるの? こういう表現が正しいのか分かりませんが、❶の方が❷よりもエモかった。


 タイトルだけ比べても分かると思うのですが、「シュレーディンガー」をタイトルに持ってくるあたり、頭でっかちな作風(ハードSF)に感じられるし、実際、感性より知性の方に重心が寄った短編集でした。ただし、巻頭に収録された「六十五歳デス」は、エモさ強めの作品なので、非SF読者にも楽しめると思います。


 ❸『ようこそヒュナム洞書店へ』は、❶の読み味に感心したわたしが、キム・チョヨプさんの書いた別の小説を読みたくなり、書店に出かけたところ、お目当ての本が書店になく、代わりに購入した本――という位置付けになります。


 内容は――訳ありの女店主が経営する町の小さな書店「ヒュナム洞書店」に集まる、就職に失敗した若者、息子の進路に悩む主婦、夫婦げんかが絶えない中年女性など、心の疲れた人たちが、本と書店の取り組みを通じて癒されていく様子が描かれた「競争社会に疲れ、すり減らされた心に癒しを与える小説」です。


 わたし韓流ドラマとか見ないし、韓国には興味なかったのですが、韓国文学ってとてもいいなと思いました。この段階では❶と❸しか読んでませんでしたけど。価値観や風俗が日本とそっくりなんだけど違うところも当然ある――っていうのがとても興味深いです。なぜ同じなんだろうとか、逆に、どうして違うんだろうとか考えはじめると、当たり前の人間がとてもおもしろい存在に思えてきます。


 ❹『派遣者たち』の場合は、❶と❸で韓国の小説がおもしろいと味をしめたわたしが、もうひとり別の韓国の作家さんのSFを探したところ、近く書店では見つからず、仕方ないので❶と同じキム・チョヨプさんの長編を選びました。


 内容は、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(映画よりは漫画のほう)のようなSF。『ナウシカ』には汚染された世界を覆い尽くす巨大な菌類の森「腐海」が登場しますが、❹は、「氾濫体」という菌類ないし粘菌類のような生命体によって地上を追われた人々による地上を取り戻す戦いを描いた物語です。


 おもしろい。

 キム・チョヨプさんの小説は訳されているものは全部読んでみようと思います。


❺『消滅世界』は、カクヨムコンに向けて「男がいなくても人類が繁殖できる世界」を舞台にSFを書いてみようと思い、同じような設定の小説がこれまでにないかAIに聞いたところ、村田沙耶香さんの『消滅世界』がそんな作品だと教えてくれたので、「勉強のために」と購入しました。


 これが衝撃の内容でビビりました。人工授精で繁殖するようになった架空の日本では、夫婦間のセックスが近親相姦としてして忌避される代わり、人々は家族以外の異性、創作物のキャラクターとの間で恋愛をし、セックスをしているという設定です。


 わたしもSF読みの端くれ、この程度の設定で驚いたりしないのですが、驚くのはその頻度と言語感覚です。のべつまくなしに交尾やらセックスやらといった言葉が登場する。なぜかというと、主人公を含む登場人物が夫婦間、親子間、友人間で日常的に恋人との恋愛(セックスを含む)について話題にするから。


 あまりに頻繁なのでまったくリビドーは刺激されない……というかあからさまな性的描写に、読者は嫌悪感を抱くでしょう。狂ってる、と。ま、そう感じさせることで村田沙耶香さんは「これが狂っていないとしたら、狂っているとはなんなのか、正しいとはどういうことをいうのか」をという問いを読者に投げかけているのですが。ひさびさにスゴい小説を読んだと感動しました。


 ❻『生命式』は、❺で村田沙耶香さんにしてやられたわたしが「もうちょっと村田沙耶香を読みたい」とブックオフで買ってきた短編集です。


 巻頭の「生命式」は、❺のプロトタイプとでもいうべき短編で、❺に負けず劣らずぶっ飛んだ小説。


 人が亡くなると「葬式」に代わって「生命式」が営まれるようになったこの世界では、参列者が死者の肉体を食べることで故人を悼むと同時に、参列した男女が散会後、「授精」することで新しい命を得るという習俗があることになってます。


 この「授精」というのが凄まじくて、生命式の帰り道、主人公が精子に足を滑らせて転びそうになったという描写にはたまげました。おびただしい精子に濡れたアスファルトの道路を想像してみてください。


 く、狂ってる。(ほめてます)


☆☆☆


 どうでしょう。わたしが最近読んだ小説6冊は。おすすめできるのは『ようこそヒュナム洞書店へ』です。韓国文学への入り口としていいんじゃないでしょうか(というほど韓国文学知りませんが)。何らかの問題や悩みを抱えてた登場人物たちが、物語を通じて成長したり悩みが軽くなったりする展開も安心して読めます。


 ただ、おもしろかったのは『消滅世界』です。イカれてるけど。そして、びっくりするほど読みやすいんですよ。狂ってるけど(笑)


 それではまた、いくつか本を読んだらここで紹介することにしますね。ではでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る