第22話『三国志』吉川英治
三国志とは、後漢末期から三国時代なので180年頃から280年頃までの約100年間の出来事を記録した中国の歴史書ですが、普通はこの歴史書を踏まえて明の時代(14世紀ごろ)に作られた長編小説『三国志演義』とその影響の下にある小説群を指してそう呼ぶことが多いように思います。なかでも、吉川英治『三国志』は定番中の定番。もっとも読まれた三国志であろうと思います。
簡単にいうと、三国志は「滅びと再生の物語」です。ストーリーラインの中心は、民衆反乱(黄巾の乱)によって滅びた後漢王朝を再興しようと戦い続ける劉備玄徳(吉川三国志にならって「玄徳」と呼ぶことにしましょう。)とその仲間たち物語となります。しかし、一度瓦解した統一王朝を再興することは並大抵の事業ではありません。玄徳をはじめ中国各地に割拠した武装集団は、お互いに滅ぼし滅ぼされ、離合集散を繰り返した結果、華北の「魏」、江南の「呉」、四川の「蜀」に収斂され、三国時代がはじまります。
玄徳は、蜀の地で仲間と共に漢王朝を再興、自ら帝位に就きますが、中国統一の道半ばで病に倒れます。玄徳の遺志を継いだ軍師・諸葛亮公明(こちらも「孔明」と呼びます)も、魏の将軍、司馬懿仲達に敗れ、蜀は魏によって滅ぼされます。蜀を滅ぼしたことによって、中国の三分の二を手中に収めた魏でしたが、魏の皇帝は司馬懿の孫、司馬炎によって帝位を奪われて滅び、280年、この司馬炎(晋の武帝)によって呉が滅ぼされることによって三国時代は終焉を迎え、100年ぶりに中国は統一されるのです。
多くの場合、三国志は、玄徳の旗揚げから孔明の死までの出来事を中心に描かれることが多いです。玄徳と孔明のダブル主演映画って感じでしょうか。歴史区分でいうと三国時代の前半部分に当たります。
ざっと50年間くらいの出来事を描いていますし、玄徳と孔明は中国の各地を転戦して回っていたこともあり、三国志は非常に登場人物の多い小説です。古代中国人の名前は読み慣れないですし覚えるのが大変です。でも、覚えちゃうんですよね不思議なことに。これは吉川英治の筆力のなせる業。半端ないリーダビリティの高さのおかげだと思います。
とにかく吉川英治『三国志』は読みやすいです。玄徳と孔明を「正義と忠孝の人」と明確に位置付けることによって、善玉と悪玉がはっきりとしており、長い物語であっても読者を迷わせません。善玉が悪玉に勝つという強固なテンプレが読者を安心させるのです。史実を下敷きにしているので、主要なキャラクターが死亡するのも読者は織り込み済み、逆にカタルシスをかきたてられる読みどころですらあります。(不謹慎かもしれませんが、わたしは勇猛な武将が死亡するシーンが好きです。関羽や張飛、呂布といった猛将が死んでゆく場面を読むと「ああ」って思います)
吉川英治『三国志』の影響は非常に大きくて、日本で三国志といって思い出されるエピソードやキャラクターは、ほぼほぼ吉川英治が『三国志』で描いたエピソードであったり、キャラクターであったりします。漫画家の横山光輝の作品に同名の『三国志』があります。全60巻の長編漫画ですが、内容はほぼ吉川三国志のマンガ化です。著作権上問題があるんじゃないかというレベルで(笑)。昭和はおおらかな時代だったんでしょう。
また、コーエーテクモゲームスの戦略シミュレーションゲームに三国時代をモチーフに制作された「三国志」シリーズがあるのはご存じでしょうか。わたしは初期の「三国志」と「三国志Ⅱ」にドはまりしたクチですが、このシミュレーションゲーム「三国志」も吉川三国志の強い影響のもとに作られたゲームです。武将キャラクターの能力値やキャラクター同士の関係性など、吉川三国志を読んでいなければ納得できないものも多いです。ちなみに武将の顔グラフィックには横山三国志の影響が垣間見えておもしろいです。
☆
吉川英治『三国志』
三国志小説の決定版です。ぜひ一度読んでみてください……といいたいところですが、この小説が書かれたのは戦前、いまから80年以上前のことです。文章表現もそこに描かれた人々の価値観も現代の感覚とは大きくズレています。いまさらこんな古臭い小説を読まなくてもいいだろうと考えるのもありです。たかがエンタメですから。ただ、本文中に書いたように日本の三国志理解に絶大な影響を与えた小説なので、歴史好きを自任するような方にとっては、一読の価値はあります。
吉川英治(1892-1962)は、神奈川県出身の小説家。国民的作家と呼ばれた大衆小説作家で、『宮本武蔵』、『三国志』、『新平家物語』、『私本太平記』など歴史・時代小説の作家として現在でも有名です。個人的には、『新書太閤記』全巻が実家にあった(途中まで読んだ)のと、叔父が高校の入学祝いに『宮本武蔵』を買ってくれた(これは最後まで読んだ)のが思い出深い。
横山光輝(1934-2004)は、兵庫県出身の漫画家です。代表作は、『鉄人28号』、『バビル2世』、『魔法使いサリー』、『三国志』など。わたしの世代だとアニメ原作者って感じの漫画家。『バビル2世』や『魔法使いサリー』の主題歌は歌えますもん。手塚治虫や石ノ森章太郎に比べて漫画の評価は低いんですよね。
「三国志」は、光栄(現、コーエーテクモゲームス)が1985年にPC8801mkⅡ用ソフトとして発売した戦略シミュレーションゲーム。プレイヤーは、ゲーム内で劉備、曹操、孫権といった三国志に登場する武将になり代わり、彼らの果たせなかった中国統一を目指します。第一作発売から40年、現在では「三国志14」がもっとも新しいゲームタイトル。
次回は、藤原定家【小倉百人一首】を取り上げます。
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