第3話【馬鈴薯】
この随想は 大抵の場合 アルバイトでお世話になっております薬種商〈碧猫屋〉の店番をしながら お客様が居ない時間帯を見計らって執筆をしております。
本日は 魔導院の授業が終わりました後 お店に向かう道すがら
初めて食したのですが 衣がサクッとしていて 中のじゃが芋はホクホクしていて 少し肉の風味もあり とても美味しかったです。
はい。そうです。
今日は 前回 お約束致しました通り〈馬鈴薯〉について お話しさせて頂こうと考えております。
前回 宿題を戴いてから 図書室等で文献を渉猟し随分と多くの知見を得ることができました。
身近な物ほど 知った気になっていて 意外と知っていることが少ないのだと気づかされ そう言った意味でも多くの学びがありました。
素晴らしいお題をありがとうございました。
今回は〈じゃが芋〉だけでなく
【馬鈴薯】
馬鈴薯 じゃが芋 ポテト…様々な名称がある植物で大きく育つ地下茎を掘り出して食用に供します。
ですから 太古の昔から この土地で食されてきたのだろうと
馬鈴薯が 東方の地から 初めて西方に入って来たのは たかだか400年程前のことに過ぎませんでした。
ですから 私の敬愛するラヴォンも その約200年後に著述を行うマールシルトも馬鈴薯の存在を知らなかったことになります。
あのラヴォンも知らなかった事物を 浅学非才の
【名称について】
馬鈴薯という名称は 東方からもたらされた時に知られたようです。
農耕馬の
ポテトという名称も西方ドワーフ語で〈丸い〉を表す〈ボダテ〉が訛化したものと考えられており こちらも芋の形状に着目した名称と言えましょう。
さて 西方では一番馴染み深い〈じゃが芋〉という名称。
これが中々の曲者でした。
何冊かあたった書物に載っていたのが『〈ジャック・ガーランド〉という農夫が普及に貢献した』という話。
〈ジャック・ガーランドの芋〉が縮まって〈ジャガイモ〉になったという説なのです。
【ビオリア人の真実】
この本 面白かったです。
そもそも〈ビオリア人〉という存在から架空の存在なのです。
そうです。その通りで この本は〈架空のもっともらしい説明を集めた〉300年前のユーモア本だったのです。
その事は きちんと序論のところに明記してあるのですが 引用 或いは 孫引きした最近の文献の著者は そこの部分を読み飛ばしていた様子なのです。
やはり 原典にあたる事の大切さを感じた次第です。
【じゃが芋の語源】
さて ここで 読者の皆様にお詫びを申し上げねばなりません。
管見の限りでは 400年ほど前に 西方社会に〈馬鈴薯〉が認知されはじめた後 50年ぐらい後には〈じゃが芋〉の表記は行われていた様子です。
100年後には『ビオリア人の真実』で〈もっともらしい説明〉が考えられていることから推測しますと〈その頃の人間には しっかりとした定説があった〉か〈その頃には 既に語源が曖昧になっていた〉のどちらかだと思います。
また 機会を見つけて〈じゃが芋の謎〉に迫れればと考えています。
【じゃが芋料理】
我が
【フライドポテト】
まずは『フライドポテト』です。
千切りにした じゃが芋を油で揚げた料理です。
近海で獲れたタラのフライとセットになった『フィッシュ&ポテト』は
基本的には塩を振って食べるのですが
その為
【
次いで『山人風馬鈴薯』です。
別名『ドワーブンポテト』とも呼ばれるようにドワーフ達の家庭料理が
作り方は とても簡単で 料理のあまり得意でない
要するに 刻んだじゃが芋とソーセージをフライパンで炒めるだけなのです。
ただ こちらも味付けのバリエーションは多数存在し 各家庭毎に伝統のレシピが存在いたします。
因みに
そして 仕上げに大量の乾燥バジルを振りかけて完成です。
とても美味しいので 1度お試しいただければと思います。
【麦】
じゃが芋以外の主食についても 簡単にご紹介させていただきます。
まずは〈麦〉です……人麦 エルフ麦 雀麦 鷹麦等 多数の品種が栽培されております。
秋と春先に収穫した実を 脱穀し粉に引いてから食します。
代表的な食べ方は2種類あり 1つは麦粉を水で練り形を整えた後 乾燥させ 保存がきくようにして 食べる段階で茹で戻す〈パスタ〉と呼ばれる調理方法。
もう1つは やはり麦粉を水で練った生地にイーストを加え膨らませた後 オーブンで焼き上げた〈パン〉という調理方法です。
【パスタ】
水でよく練って薄く延ばした生地を 細く糸状に切って食べるのが一般的で 通常パスタと言えば この〈麺パスタ〉のことを指します。
それ以外にも 粒状に刻んだ〈ケラケラ〉や リボン状に延ばしたり 花形や結晶模様を型抜きした〈ルニ〉といった多彩なパスタが存在いたします。
食べ方も〈別鍋で作ったソースと和える〉〈茹で上がったパスタをスープに入れる〉〈乾燥したパスタをスープで煮込む〉など多彩です。
【パン】
パンと言えば ラヴォンの頃は〈人麦〉で作るものだったらしいのです。
と言いますかラヴォンは『世界記』の〈パン〉の項において〈麦〉としか表記しておりません。
ですが この数百年の間に〈人麦〉より 小粒で色の白い〈エルフ麦〉という品種でパンを作るのが一般的になっております。
現在ではパンと言えば〈エルフ麦パン〉を指し 〈人麦〉のパンは〈人麦パン〉と表記されて売られています。
学院のお昼休みにベーコンとレタスを人麦パンで挟んだお弁当を食べるのは 至福の時の1つと思っております。
とは言え〈人麦〉は〈パンの原料〉というよりは〈エールの原料〉というように 一般的には認識されていると思われます。
【エール】
〈人麦〉の麦芽を発酵させて作られた発泡酒の一種で 苦味と決めの細かな泡が特徴的な飲料です。
ただ 酒場の一番人気の飲料で アルバイト仲間で飲みに行った時も皆さん とりあえずエールを頼まれていました。
【ワイン】
葡萄の絞り汁を発酵させたお酒です。
葡萄の種類や皮を取り除くかどうかで 赤ワインから白ワインまで 色々な色合いのワインが存在します。
こちらも そんなに何度も飲んだことが有るわけではありませんが どちらかと言うと
【
麦芽や葡萄の発酵液を蒸留した強いお酒も存在いたします。
麦芽ベースのウイスキー。
葡萄ベースのブランデー。
人間も作っておりますが 蒸留酒の醸造はドワーフの独壇場。
北方のドワーフ領から 本年の新酒を詰めた酒樽を山積みにした巨大な荷車が
【アクアヴィッツ】
今回のお題である〈馬鈴薯〉のお酒もございます。
じゃが芋の発酵液を蒸留し 香辛料で薫り付けした〈アクアヴィッツ〉は いかにも
ウェスティリア近郊の村々では 冬の農閑期になると北方からドワーフを杜氏として招き アクアヴィッツの仕込みをいたします。
春先に山に帰るドワーフの杜氏の送別を兼ねて 昨年仕込んだ新酒の樽開きを行い試飲を行うのは 村人だけでなく各地からの旅人も訪れるウェスティリア近郊の春の名物行事となっています。
まだまだ 肉や魚 野菜等 お伝えしたい食材は 多数あるのですが 紙数が尽きようとしております。
またの機会に 他の食材についてはお伝えできればと思います。
牛肉と玉ねぎとじゃが芋を〈大豆と塩を発酵させたソース〉と砂糖で煮込んだ料理?
……いえ
そちらの世界では じゃが芋料理の定番の1つ?
なるほど。
牛肉 玉ねぎ じゃが芋は手に入りますし〈大豆と塩を発酵させたソース〉というのも もしかしたら
機会があれば 挑戦してみても よいかもしれませんね。
ご教示ありがとうございます。
さて今回は 〈馬鈴薯〉という身近な題材を取り上げましたので 次回は冒険とロマンに溢れる事物をテーマにしようと思います。
〈飛空艇と天空島〉。
次回もお楽しみに。
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