クズにはクズを
瓊紗
第1話 最低不倫男
幸せはいつも突然崩れ去る。取り戻しても、取り戻しても……。
――――ねぇ、私たちは幸せなはずじゃなかったの?
「伊吹、お前とはもう終わりだ」
何を……言ってるの?
幸せだった結婚生活は私にとって天敵とも言える女の登場によって崩れ去った。
「うふふ、やっぱりあなたも私みたいな美人がいいわよね」
「あぁ、その上気立ても良くて料理上手だ」
「ふふっ。じゃぁあなたの大好きなビーフシチュー、また作ってあげるっ」
「あぁ、嬉しいよ。麻亜矢」
確かに私は料理が苦手だけど、でも精一杯やって来た。家事だって仕事と両立して……あのひとは何もやってくれなかったけど、やっと掴んだ女の幸せ。幸せになれると信じていた。でも……そんなのただの私の理想でしかなかった。
麻亜矢はいつだって私の大切なものを奪っていった。勉強も運動も容姿も恵まれて、その上社長令嬢でお金や地位名誉も……家族もいる。
なのに何かにつけて私に付きまとい、友だちも、恋人ももれなく奪っていく。一体私があなたに何をしたと言うの……?
ただ静かに平穏に暮らしたい。家族が欲しい。それだけなのに。
あなたは私が欲しいものを全て持っているのに。どうして……何でなのよ。
「お前はこの家を出ていけ」
麻亜矢と抱き合う男……
「は……?」
この家は私が両親から唯一受け継いだもののはず。
「この家の権利は既に私のものだ」
「そんなの……聞いてないっ!」
持ち主に無断でできるものなの……?
「証明書もある」
「ふふっ。パパに頼んだら裏ルートでね」
麻亜矢が勝ち誇ったようにほくそ笑む。
そんなこと……できるの?いや、この女は何だってやって来た。私を絶望させるために、私から全てを奪うために。何だってしてきた。実家の権力を利用するなんてお手の物だ。
「ほら、これにサインしろ」
猛が出してきたのは離婚届だ。これにサインしてしまったら、私は永遠にこの家を失ってしまう……?けれど不正に奪われたもの。だが……今まで麻亜矢に奪われたものは何一つ帰って来たことはない。奪われなかったものは……。
「もうあなたにできることなんてないわ。裁判を起こされて膨大な裁判費用と慰謝料を払わされたくなかったら、とっととサインしなさいよ」
そんなの……払えるわけがない。あなたたちが不倫をしておいて私が負けるの……?いや、あり得ない話ではない。
この女はそう言う女。
「大丈夫よ。離婚届なら……既に出してきたから。これはただの飾り」
「私はサインなんてしてない!」
「……アンタのくせに、生意気よ!」
麻亜矢に頬をぶたれて、ジンとした痛みが走る。
「とっととこの家から出ていけ」
「なら……せめて荷造りを。両親の遺品が……っ」
「この家は私のものなのだから、お前が持って出られるものなど何もない」
「そうそう、奥の部屋にとっても素敵な宝石を見付けたの!私に絶対に似合うわ!ふふ、私のものになるのね!嬉しいっ!」
「あぁ、好きにしていいよ、麻亜矢」
「他人の両親の形見を奪って何がしたいのよ!」
「生意気」
再び頬に痛みが走る。
「いいから、アンタはもう用済みよ。あと……会社も解雇してもらっちゃった。アンタの会社、お父さまの会社の取り引き先だったから、すぐに手を打ってもらったわ」
私たちは職場結婚だ。職場もできるだけ麻亜矢の会社に関係ない場所で……そう思ったが、会社の全てを知っているわけじゃない。麻亜矢の実家に関係があったなんて知らなかったのよ。
「その代わり……お義父さんには……」
「もちろんっ!あなたは重役に昇進よっ!」
アイツ……地位目当てで、裏切ったの……!?
「と言うことだから……すぐに出ていけ」
「そうねぇ。警察を呼んだら逮捕されるのは……あなたよ?」
麻亜矢が笑う。元夫猛が乱暴に私の腕を掴んで家から引きずり出した。
――――私はその日、全てを失った。
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