星屑の旅路 スターダストジャーニー

ほしのみくる

プロローグ エルドラードの終焉

アンドロメダ宙域、M110コロニー。かつて銀河で最も先進的な科学技術を誇り、「エルドラード」とも呼ばれた都市が、突如として消滅した事件。





M110コロニーエルドラードは、宇宙における希望の象徴だった。最先端の技術が集まり、天才的な科学者たちが新たな未来を創り出す場所。街を歩く者たちは皆、どこか誇らしげだった。広大なドーム都市には空中庭園が広がり、清潔な大気が循環する。宇宙のどこよりも快適な暮らしが提供され、人々は進歩と繁栄を謳歌していた。


だが、それは表の顔に過ぎなかった。


M110コロニーエルドラードの中には、惑星連合ヘラに従う者、銀河帝国ギルガメシュに懐柔された者、双方のスパイが暗躍していた。コロニーは次第に独り歩きを始め、もはや単なる研究施設ではなく、一つの巨大な惑星国家に匹敵する影響力を持ち始めていた。支配層の一部はその力を利用し、密かに軍事開発を進め、技術を武器に戦争のバランスを保つ役割を果たしていた。


そんな中、研究施設では秘密裏に行われていた実験が、一つの結末を迎えようとしていた。





警報が鳴り響く。警戒灯が赤く点滅し、研究施設内の空間は異様な熱気と緊張感に包まれていた。白衣の男女が血相を変えて駆け抜ける。爆発の衝撃で施設の壁面がひび割れ、煙が立ち込める。


走る二人の科学者。男は手にデータ端末を握りしめ、汗を拭う余裕もなく前を見据えていた。女性は必死に何かを抱え、背後を何度も振り返る。


「もう時間がない…!」


施設の長い廊下の奥、影が動いた。冷たい金属の足音が響く。ゆっくりと、だが着実に彼らを追い詰める者たちがいた。漆黒の戦闘スーツに身を包んだ追手たちは、焦ることもなく淡々と前進している。その統率の取れた動きには、無駄な感情が一切なかった。


「逃げ道はないぞ。大人しく渡せ。」

先頭に立つ男は冷酷な声で命令する。


彼の目は何の感情も宿していない。背後の兵士たちが無言で銃を構え、標的をロックオンしている。

科学者たちはお互いに一瞬視線を交わした後、震える手で何かを操作した。


「やめろ…何をした?!」

兵士が銃を向ける。


しかし、次の瞬間、科学者の手元に握られた小さなケースが差し出される。それは、「賢者の石」と呼ばれる物質の原石だった。ケースの内部で赤子のような形をした物体が静かに脈動している。


男は一瞬だけそれを見つめると、手を伸ばし静かに受け取った。そして、まるで儀式のように、無言で銃を科学者夫婦に向ける。


「これが……賢者の石か。」

静かに呟いた直後、乾いた銃声が響いた。


その瞬間、場にいた全ての者たちが突如として頭を抱え、膝をついた。耐え難い耳鳴りが鼓膜を突き破るように響き、脳を焼き尽くすかのような激痛が走る。無表情だった兵士たちすら、呻き声を上げ、視界が揺れる。誰もが意識を保つのに必死だった。


そして、それを感じ取ったのは彼らだけではなかった。


宇宙の彼方、小さな存在が何かを感じ取った。

悲しみ、絶望、怒り――それらが渦巻き、彼らの思念が宇宙空間に解き放たれた。


次の瞬間、爆発が起こった。しかし、それは単なる爆発ではなかった。


建物が崩れるどころか、星そのものが光に呑まれていく。研究施設の爆破以上に、超常的なエネルギーが宇宙を震わせる。エネルギーの暴走が連鎖反応を引き起こし、M110コロニーエルドラードは一瞬にして消滅した。


宇宙の彼方で、M110コロニーエルドラードの消滅が観測された。





その夜、遠く離れた惑星の片隅で、一人の星読みが空を仰いでいた。

静寂の中、夜空に二つの光が連なって流れる。


「連なる流れ星……凶兆か。」


それは、まるで何かが宇宙の深淵へと駆けていくかのようだった。

壮麗な科学都市は、一瞬にして閃光となり、闇に溶けた。


銀河歴史上最大の未解決事件の一つとして、今もなお多くの謎を残したまま…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る