誰でもシェアハウスの大家さん。

山本田口

第1話 宇宙人来襲。

「いらっしゃいませ。お待ちしてました」

 私は、月本沙織。今年25歳になります。私の仕事は『誰でもシェアハウス』の大家です。幼いときに両親を事故で亡くしてから、私は、祖母に引き取られ、育てられてきました。しかし、その祖母も、二年前にこの世を去りました。

一人ぼっちになった私は、祖母の遺志を継いで、この『誰でもシェアハウス』を引き継ぎました。

ここは、文字通り誰でも泊まることができます。ただし、人間は、お断りなのです。


 誰でもシェアハウスのルール。


その一・・・宿泊は、1日~3ヶ月までとする。

その二・・・食事は、各自で用意すること。ただし、大家が用意することもある。

その三・・・他人の部屋に無断で入らないこと。

その四・・・ケンカをしないこと。

その五・・・地球を破壊、もしくは侵略行為はしないこと。


 以上を守れば、人間以外なら、誰でも入所することができます。

要するに、このシェアハウスは、人間以外の、宇宙人、怪獣、妖怪、オバケ、幽霊、バケモノ、サイボーグ、アンドロイド、ロボット、地底人、海底人などなど、普通の人間以外のためのシェアハウスなのです。ここにいる私が、唯一の人間です。

私は、ここを引き継ぐときに、祖母から結界ができるネックレスをもらいました。

なので、これを首に付けていれば、人間の私だけは、出入り自由なのです。

 部屋は、全部で6部屋。二階に三部屋と一階部分に三部屋あります。

屋上に物干し場と洗濯機があり、二階は居住スペース。

一階は、居住スペースと、宿泊客が自由に使える広いリビングとキッチン。

他にトイレと洗面所があり、大浴場は、温泉かけ流しになっています。

そして、私の部屋もありました。

 ここは、人間以外の者が宿泊しているので、怖い目にも合ったことがあります。

そんなときのために、ここには、もう一人、私の助手がいました。

 名前は、虎錠之助。謎の剣士で、一流の剣の使い手で、祖父と祖母を師匠と慕っていた、おかしな侍です。

この時代なのに、羽織袴のスタイルで、長い髪を後ろに縛って、チョンマゲのヘアースタイルで、黒と黄色の虎柄のベストを着て、背中に長い刀を背負って、腰に何でも切れる脇差を差しています。

パッと見は、イケメンの若い男性ですが、片目の視力を失っていて、左目に刀の鍔を眼帯にしています。

話し言葉が侍言葉なので、私には、何度も聞き返すことがありました。

 要するに、住み込みの雑用兼番頭兼、私の用心棒なのです。

錠之助さんがいるので、私も安心して、ここにいることができました。


 現在は、四部屋が埋まっています。

一号室にいるのが、宇宙から来た、ダックル星人さん。宇宙旅行の途中に、地球に立ち寄ってます。

三号室にいるのが、南国からやってきた、アカマタさんというヘビの妖怪。日本の妖怪に会いに来たらしい。 

四号室にいるのが、海の底からやってきた、人魚さん。地上で彼氏を探しに来たらしい。

五号室にいるのが、地底王国からやってきた、モグラ獣人さん。友達に会いに来ました。

 そして、今日も、一人予約のお客様がやってくる予定です。

私は、それに備えて、準備をしているところです。

全室、冷暖房完備と、宇宙でも地底でも海底でも、通じる通信設備があります。

使用料金は、すべて無料です。なぜなら、ここは、電気もガスも水道も、あるからです。

電気は、地下に原子炉があり、ガスと水は、地底から天然ガスを引いて、地下水をくみ上げているので、問題ありません。それは、すべて、ここに宿泊に来た人たちが、作ってくれたものです。

 食事は、各自に任せてセルフサービスにしています。なぜなら、食べ物が違うからです。私が食べるようなものは食べません。なので、リクエストがない限りは、料理は作りません。

 そして、一番大事なことは、地球を破壊したり侵略したりしないこと。

お客様同士で殺し合いなど、もっての外です。安全で平和で生活すること。

それが、私にとっても、一番大事なことでした。このシェアハウスの決まりです。


「こんにちは」

「ハ~イ」

 玄関から声がしたので、私は、急いで迎えに出ました。

「ご予約のお客様ですね」

「そうです」

「ようこそ、入らっしゃいませ。どうぞ、こちらへ」

 私は、お客様にスリッパを用意して、中に入ることを進めました。

お客様は、靴を脱いで、スリッパに履き替えると、中に入ります。

 まずは、リビングに案内して、誓約書という名の宿泊リストを書いてもらいます。

「今、お茶を用意します。その間に、こちらを読んで署名をお願いします」

 そう言って、私は、一度、キッチンに向かいました。

お客様は、それを読みながら、ペンを走らせています。

私は、その様子を見ながらお茶の用意をしました。この時のお客様の様子を見て、お断りする場合もある。

以外にも、私の感は、よく当たる。でも、今日のお客様は、大丈夫みたいでホッとする。

「お待たせしました」

 私は、お茶を置いて、宿泊リストを見る。

名前は、結城凱さん。目的は、宇宙警察から地球の調査。サイボーグで、超人に変身できる。宿泊期間は、一週間。部屋は、二号室の予約です。

見た目は、普通の人間で、若い男性です。どちらかと言えば、イケメンの部類に入る。ヘアクリームで髪をきれいに撫でつけて、目が鋭く、口元もキリッとしている。

革ジャンに黒のジーパンで、服のセンスもいい。

宇宙警察からの出張なので、身元もしっかりしているので安心できる。

「それでは、お部屋は、二号室になります。一階の部屋になります」

 結城さんは、立ち上がると、部屋に向かいました。そこに、錠之助さんが現れました。

「沙織殿、ベランダの修理ができたでござるよ」

「ありがとう。ご苦労様」

 錠之助さんにベランダの物干しの修理を頼んでいました。

すると、結城さんが足を止めました。

「錠之助!」

「結城」

 えっ? どういうこと? もしかして、二人は、知り合い?

「なんで、お前がここにいるんだ?」

「それは、こっちのセリフでござる。なんで、お主がここにいる?」

 そう言うと、錠之助さんが、背中の刀に手をかけました。

結城さんも革ジャンの裾をまくって、銃に手をかけたのです。

 ちょっと、やめてよ。こんなとこでケンカしないで。ケンカはしないって、誓約書に書いてあるでしょ。

そう思っても、突然のことに、声が出ない私は、二人を見ていることしかできません。

「やるか?」

「いつでもいいぜ」

 二人の睨み合いに、私は、思わず間に入りました。

「ちょっと、ストップ。こんなとこでケンカは困ります。やめてください。錠之助さんも、お客様に失礼でしょ」

 大家として、慌てて止めに入りました。

「何しに来たでござるか?」

「そんなこと、お前の知ったことか」

 二人は、睨み合ったまま動こうとしません。どうしよう・・・ こんな時、どうしたらいいのかしら。

普通の人間の、か弱い女子としては、こんな男の人二人を前にして、おろおろするばかりです。そこに、人魚さんがやってきました。

「あ~、気持ちよかった」

「ちょっと、人魚さん、水浴びしたら、ちゃんと体を拭いてください。廊下が水浸しでしょ」

「ごめんねぇ。でも、体が乾いたら、死んじゃうから、見なかったことにして」

 人魚さんは、空中を漂いながら、大きなピンクのシッポから水がしたたり落ちていました。

「アラ、何してるの?」

 睨み合う二人の前に、人魚さんは、長い髪をなびかせて間に割って入ります。

「人魚さん、危ないわよ」

 私は、慌てて声をかけます。いくら人魚は、不死身と言っても、斬られたらひとたまりもありません。

しかも、人魚さんは、体のサイズが30センチくらいしかありません。とても小さな人魚さんなのです。

「な、何だ、お前?」

「それは、あたしのセリフよ。アンタ、客なら、客らしくしなさい」

 人魚さんは、結城さんの前に来て、ビシッと指を刺したのです。

「おい、何だ、こいつは?」

「あたしは、人魚。文句ある?」

 人魚さんは、両手を腰に当てて尻尾をヒラヒラさせている。

長い髪が、ギリギリ裸の胸を隠しているのが、私的にはドキドキする。

「チッ・・・まったく、ここは、噂通りだな。錠之助、勝負は、お預けだ」

 そう言うと、結城さんは、革ジャンの裾を直して、一階の部屋に歩いて行きました。

「なんなのアレ?」

「あいつは、結城凱。宇宙刑事でござる。おそらく、地球に誰かを追ってきたのか、逮捕しに来たんだろう」

「フゥ~ン、宇宙警察か。興味ないわぁ~」

 人魚さんは、そう言うと、リビングのソファに座りました。

すると、廊下の向こうから、結城さんの声が聞こえました。

「な、何だ、お前!」

 私は、急いで声がする方に駆け出しました。

すると、そこには、一号室に泊まっている、ダックル星人さんと結城さんがいました。

「おや、宇宙警察の方ですね。どうも、こんにちは」

 ダックルさんは、礼儀正しく結城さんに挨拶しています。

「そうじゃなくて、お前、宇宙人だろ」

「そうですよ。初めまして、ダックル星から来ました」

 ダックルさんを見て、固まっている結城さんに声をかけます。

「結城さん、この方は、宇宙旅行中で、地球観光に来ているだけです」

「地球観光?」

 驚く結城さんの横を、ダックルさんは軽く会釈して通り過ぎました。

「アンタ、ここは、宇宙人も来るのか?」

「来ますよ。ここは、誰でもシェアハウスですから」

「だけど、あいつは・・・」

 何か言いたそうな結城さんでした。そこに、階段から三号室に泊まっている、アカマタさんが降りてきました。

「騒々しいな。何を騒いでるんだ」

 階段を這うように降りてきたアカマタさんは、結城さんを見て赤い舌をペロペロ出しています。

「お、おい・・・」

「こりゃ、失礼。新しい客人ですか。俺は、アカマタ、よろしく」

 そう言って、廊下を這うようにリビングに行きました。

「ありゃ、なんだ?」

「妖怪のアカマタさんですよ。知り合いに会いに来たので、ここで待ってるんです」

「妖怪!」

 巨大なヘビの妖怪のアカマタさんの後姿を見送る結城さんの目は、点になっていました。

「アンタは、人間なんだよな?」

「ハイ、私は、唯一の人間です」

「大丈夫か、ここは・・・」

「ハイ、大丈夫ですよ。ここに来るお客様は、みんないい方ばかりですから」

 私は、にっこり微笑んで言いました。それは、事実だから、ウソではありません。

ここに来るお客様は、みんな地球にやさしい、いい方たちばかりです。

もしも、騒ぎを起こすようなことがあれば、錠之助さんが黙っていません。

「ただいまチュン」

 今度は、五号室に泊まっている、モグラ獣人さんが帰ってきました。

「お帰りなさい。お友だちには、お会いになられましたか?」

「仕事で会えなかったチュン。また、明日、行ってみるチュン」

 少し残念そうな顔をしているので、私も気持ちが沈みます。

「アレ? お客さん」

「そうです。今日から、お泊りされる、結城さんです」

「おいらは、モグラ獣人チュン。よろしくチュン」

 結城さんは、唖然としていました。

モグラ獣人さんは、その名の通り、全身が真っ赤なモグラです。尖った鼻先には、タンポポの花が咲いていて両手は、土をかくための爪が付いています。

短いシッポがアクセントです。

「今、モグラって言ったか?」

「これでも、元は、十面鬼の一人で、モグラ獣人だチュン」

「なんなんだ、お前・・・」

 驚く結城さんの横を、モグラさんは、お腹が空いているらしく、ポッコリ膨らんだお腹をさすりながらキッチンの方に歩いて行きました。

「結城さんのお部屋は、二号室ですよ」

「わかってる」

 そう言って、私を振り切るように廊下を歩いて行きました。

各部屋は、クローゼットに机があるだけの、8畳の和室の部屋になっています。

テレビなどは、リビングにあるので、それをみんなで自由見られます。

携帯電話や通信機なども完備してあり、宇宙からの電話を受信できるので、

世界中はもちろん、地底や海底の奥深くからも、連絡することができます。

ちなみに、ここの予約は、電話かメールでサイトからできます。

 シェアハウスの裏は、ちょっとした庭になっていて、私の趣味で家庭菜園もしています。

花壇もあり、四季折々の花を咲かせて、お客様の目を楽しませています。

私は、結城さんが部屋に入るのを確認して、リビングに戻りました。


 他のお客様たちは、リビングに集まって、それぞれおしゃべりをしたり、テレビを見ていました。

「ねぇ、大家さん、あの宇宙警察は、何しに来たの?」

「地球の調査に来たみたいですよ」

 人魚さんの質問に、私は、そう答えました。実際、それしか書いてないので、答えようがありません。

「いいじゃないですか。余り他人を詮索しない方が、身のためですよ」

「それもそうね」

 ダックス星人さんの意見に、人魚さんは、すぐに興味を無くしたように、テレビに目を向けました。

「お腹が空いたから、食事をして来るチュン」

「余りミミズを食べないでくださいね。家庭菜園とか花壇があるから」

「わかってるチュン」

 モグラさんは、食べるものは、ミミズとか土の中の生物です。

モグラさんは、裏庭に降りると両手で地面に穴を開けて潜っていきます。

「イヤぁね、モグラって。よく、あんなの食べられるわね」

 人魚さんが顔を顰めます。

「そういう、人魚だって、そんな可愛い顔して、魚を頭からバリバリ食らうじゃないか。そんなの人間が見たら、腰を抜かすぞ」

「フン、アカマタだって、似たようなもんでしょ」

 人魚さんとアカマタさんの食事は、確かに似てます。

人魚さんは、見た目は、可愛い顔をしているのに、実は、肉食なのです。

しかも、口の中は、鋭い牙が生えていて、それで魚を骨ごと齧るのです。

 アカマタさんは、ヘビの妖怪なので、ネズミやカエルはもちろん、猫くらいなら、生きたまま丸呑みします。

私のような人間とは、まったく食生活が違います。

ちなみに、ダックスさんは、電気が主食なので、直接、コンセントからコードを繋いで電気を充電します。

普通に食事をするのは、私と錠之助さんだけです。

「そう言えば、お腹も空いたわね。ご飯を作ろうかしら。錠之助さんも食べますか?」

「いただくでござる。何か、手伝うことはあるでござるか?」

「大丈夫よ。今夜は、トンカツとから揚げでいいかしら?」

「それは、ご馳走ですな。楽しみにしてるでござる」

 錠之助さんは、ホントに楽しみにしているように笑ってくれました。

笑うとえくぼができるので、私は、錠之助さんの笑顔が好きでした。

「ところで、さっきのお客さんは、食事は、何を食べるんですか?」

 ダックスさんの一言で、私も考えてしまった。

ここは、各自、食べるものが違うので、食事はセルフサービスでそれぞれが自分で取ることにしている。結城さんは、何を食べるんだろう?

「聞いてこようかしら?」

「放っておくでござる」

 錠之助さんがそれを止めました。

「でも・・・」

「構わんでいいでござる。腹が減れば、自分で何とかするでござるよ」

 錠之助さんは、結城さんに厳しい。二人にいったい、何があったのだろうか?

 

 夕飯の時間になりました。結局、私は、自分と錠之助さんの分を作りました。

キッチンダイニングのテーブルに並べて、食べようとすると、結城さんが顔を出しました。

「飯の時間か」

「よろしかったら、結城さんも召し上がりますか?」

「イヤ、俺はいいよ」

「お食事を作るなら、キッチンを使ってください」

「俺は、人間のメシは食べないから、気にしなくていい」

「そうなんですか・・・」

 それじゃ、いったい、何を食べるのか、私は、気になります。

「ちょっと、出掛けてくるから、帰りは遅くなる」

「あの、どちらへ?」

「大家のアンタが気にすることじゃない。ちょっと、野暮用だ。錠之助、もしかしたら、お前の手を借りるかもしれないから、その時は頼むぜ」

「心得た。貴様の頼みなら、引き受けるでござる。しかし、無理はするなよ」

「心配するな。それじゃな」

 そう言うと、結城さんは、出て行ってしまいました。

「ねぇ、錠之助さん、結城さんは、どこに行くのかしら?」

「あいつは、宇宙警察だから、きっと、どっかの誰かを逮捕しにでも行くのでござろう」

「大丈夫かしら?」

「心配無用。あいつは、強いから、拙者の出番もないでござるよ」

 そう言って、錠之助さんは、食事を始めました。

それでも、私は、お客様に何かあっては、大変なので心配になります。

これでも、私は、大家なので、ここに泊まっている人たちのことが気になるのも当たり前です。

万が一にも、ケガや病気になったら大変です。人間ではないので、普通の病院などには行けません。

薬なども効かないこともあります。宇宙警察だから、危険なこともあるかもしれません。

「沙織殿、気にすることはないでござる。宇宙警察だから、多少危険なこともあるが、あいつは、強いでござる。気にしないで、食事をするでござるよ」

 錠之助さんに言われて、私は、食事を再開しました。

食事を済ませても、なんとなく気になって、仕方がありません。

片づけをしているときも、つい、考えてしまいます。

 他の皆さんは、リビングでテレビを見たり、おしゃべりをしたり、自分の部屋に戻ってしまった人もいました。

私は、片づけを終えて、リビングで他の皆さんとテレビを見ながらゆっくりしています。そこに、電話が鳴りました。私は、急いで電話に出ます。

「ハイ、誰でもシェアハウスでございます」

 すると、電話から聞こえたのは、結城さんの声でした。

『いいか、俺が戻るまで、カギをかけて、絶対、外には出るなよ。何かあったら、錠之助に助けてもらえ。わかったな』

「結城さん・・・」

『いいから、俺の言う通りにしろ。それじゃな』

 そう言って、一方的に電話が切れてしまいました。

「どうしよう・・・」

 私は、受話器を持ったまま、呆然としていました。

「どうしたチュン?」

「モグラさん・・・ 結城さんから電話で、鍵をかけて、外に出るなって」

「フゥ~ン、それは、きっと、これだチュン」

 そう言って、モグラさんは、自分のポケットコンピューターを見せてくれました。

そこには、地球に無断で侵入した、宇宙犯罪者のニュースが載っていました。

「たぶん、こいつを捕まえに行ったんだチュン」

「大丈夫かしら?」

「心配ないチュン。でも、ここは、宇宙人に知られているチュン。大家さんは、普通の人間だから、鍵をかけて、外に出なければ大丈夫チュン」

 そう言われても、私は心配です。お客様の安全を守るのも大家の大事な役目です。

そこに、他のお客様たちも、そのニュースを見に集まってきました。

「こいつが来たんですか」

 同じ宇宙人のダックスさんが目を伏せました。

「誰、この人?」

 人魚さんが額に皴を寄せて聞きます。

「悪い顔をしてるな」

 アカマタさんが舌をチロチロ出しながら、渋い顔をします。

「ダックスさん、知ってるの?」

「こいつは、宇宙の嫌われ者で、マグネ星人です。そうですか・・・ 地球に来たんですね。だから、宇宙警察が来たわけだ。なるほどね。大家さん、絶対、外に出てはいけませんよ」

 ダックスさんが言うなら、ホントなんだろう。急に怖くなって、体が震えてきました。すると、そんな私の肩をポンと叩きながら、錠之助さんが言いました。

「拙者がいるでござる。沙織殿には、指一本触れさせないので、安心するでござるよ」

「そうチュン。おいらもいるチュン」

「俺もこう見えて、案外強いんだぜ」

 モグラさんとアカマタさんも言ってくれました。

「皆さん、ありがとうございます。でも、私は、大家なんです。皆さんにお怪我などあったら、それは、私の責任です。なにがあっても、私は、大家として、ここを守ります」

 私は、心強い人たちに囲まれて、体の震えも止まりました。

私たちは、リビングに戻りました。他の人たちは、テレビも見ないで、ひそひそ話を始めました。

すると、モグラさんが立ち上がりました。

「おいらが、外の様子を見てくるチュン」

「ダメよ、危ないわ」

「大丈夫チュン。何かあったら、地面に潜って逃げるチュン」

 そう言って、モグラさんが裏庭に出て行きます。

「どうしよう、錠之助さん」

「沙織殿、心配ないでござる。アレでも、モグラ殿は元はガランダーの怪人でござる。ちょっとやそっとで、やられるようなことはないでござる」

 それはそうだけど、やっぱり心配です。

「俺は、玄関を見てくる」

 アカマタさんは、そう言うと、真っ赤な舌をチロチロ出しながら、ニョロニョロ這っていきました。

「アカマタさん、危ないですよ」

「俺だって、やるときはやるんだぜ」

 そう言って、玄関の方に行ってしまいました。

それなのに、錠之助さんだけは、ソファに座ったまま動きません。

「錠之助さん・・・」

「沙織殿は、心配性でござるな。何もなければ、動くことはないでござるよ」

 そう言ったきり、黙ってしまいました。

それでも、私は、入てもたってもいられず、部屋の中をうろうろしてしまいます。

「ちょっと、大家さん。動物園の熊じゃないんだから、じっとしてたら」

 人魚さんに注意されて、私は、足を止めます。

その時でした。様子を見に行っていた、モグラさんとアカマタさんが戻ってきました。

「誰かいるぞ」

「えっ? 誰ですか」

「それは、わからないチュン。でも、こっちを見てるチュン」

 そう言われると、急に怖くなってきました。

「様子を見てくる。お主らは、沙織殿とここにいるでござる。なにがあっても、出てはダメでござるよ」

 そう言うと、錠之助さんは立ち上がると、玄関に歩きだします。

「錠之助さん」

「沙織殿は、中にいるでござるよ。すぐに、鍵をかけるでござる」

 いつになく厳しい顔で言う錠之助さんを見て、私は、黙って頷くしかありませんでした。そして、錠之助さんが出て行くと、私は、すぐにカギをかけました。

 少しすると、外から音が聞こえました。錠之助さんが刀で争っているようです。

「錠之助さん!」

 私は、思わず玄関に駆け寄ります。

「大家さん、出てはいけません」

「でも・・・」

「大家さんの手に負える相手ではありませんよ」

 ダックスさんに止めに入られて、私は、立ち尽くします。

少しすると、外の音が聞こえなくなって、静かになりました。

 その時、玄関の扉を叩く音がしました。私は、一瞬、ビクッと体を震わせます。

外からは、なにやら大きな音が聞こえます。私は、慌てて玄関のカギを開けて外を見ようとしました。

「待ちなさい」

 その手を人魚さんが止めました。

「危ないから、確かめてからにした方がいいわ」

「でも・・・」

 私の顔の前に人魚さんが違づいて、キッと睨みつけます。

「いいから、あたしに任せなさい。モグラは裏口から出て、外を見てきて。アカマタは、トイレの窓から外を見て。そこの宇宙人は、電波で外の様子を確認」

 人魚さんは、そう言って、各自に命令しました。他の皆さんも、それぞれ散っていきます。

その間も玄関を叩く音が続きました。

「まずいチュン。外でやり合ってるチュン」

 モグラさんが報告してくれました。

「錠之助さん・・・」

「しょうがねぇな。俺たちも加勢しに行くか」

「そうですね」

「人魚ちゃんは、大家さんとここにいるチュン」

 そう言うと、ダックスさん、モグラさん、アカマタさんがこっそり出て行ったのです。

「大家さんは、ここにいて。アンタは、人間なんだから、行ってもやられるだけよ」

「でも・・・」

「大丈夫。あいつらは、人間じゃないんだから、やられるような奴らじゃないから」

 そうは言っても心配です。皆さんに何かあったら、大家の責任です。

でるなと言われても、入てもたってもいられず、人魚さんが止めるのも構わず玄関を開けました。

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