26 大ピンチ

 アカミチさんと「赤い閃光」の会見を、俺は会社に置かれたテレビで他の社員の人たちと観た。

 アカミチさんはまず、「この度はたくさんの人にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」と真面目なトーンで謝った。


「あの日は嬉しいことがあって、機嫌よく昼間から酒を飲んでいたらひどく酔ってしまって、それであんなふうに騒ぎを起こしてしまいました。申し訳ありませんでした」


 悲しい酒ではなかったのか。そこだけはよかった。

 続いて「赤い閃光」の他のメンバーも、「我々の監督不行き届きでした」と次々謝罪した。別にアカミチさんは大人なんだからこの人たちが謝る理由がさっぱりわからないのだが、それくらいクランというのは強い結びつきのある関係なのだろうということは察された。


「自分は、しばらくダンジョンでの活動をお休みすることにしました。世の中のたくさんの人が、ダンジョンについて、この件でよくないイメージを持ってしまったのは自分がただただ悪いです。ダンジョンは日本の希望だったはずなのに」


 アカミチさんはなにも間違ったことは言っていないように思う。

 アカミチさん以外の「赤い閃光」のメンバーはダンジョン配信を続けるという。それは安堵した。「赤い閃光」はアンチも多いが人気もあるクランだ。ライヴダンジョン社としてもそれを望みたいところである。


「本当に、申し訳ありませんでした!」


 アカミチさんが涙目で頭を下げた。司会者が「質疑応答の時間とします。ご質問のある方は挙手して所属からお願いします」


 女性記者が手を挙げた。

「週刊女性ゴシップのホシヤマです。なにをどれくらい飲まれたのですか」


「テキーラとかウィスキーとかをチャンポンで飲んだので、どれくらい飲んだかは覚えていません」


 なんつう飲み方をしてるんだアカミチさん。


 続いて男性の記者が手を挙げる。

「週刊文秋のヤジマです。勾留されている間はなにをしていましたか」


「本を読んでいました」


「どのような本ですか」


「……聖書です。中学の前でギデオンの人たちが配ってたものです」


 聖書。

 ぐう聖ではないか。


 さらに手が上がる。

「週刊ゲスニックマガジンのサイジョウです。聖書読んでたってことはなにか思想に傾いてるの??」


 いやそれはあんまりだろ。そこにいた全員が、会場も会社のほうもざわついた。


「いえ。ポジティブな気持ちになれる本を、とメンバーにお願いして持ってきてもらいました」


「はい! はい! 週刊ゲスニックマガジンのサイジョウです! 聖書を読んでポジティブな気持ちになるってことは、教会で洗礼受けて日本人口の1%になって特別な俺になって気持ちよくなりたいってコト??」


「いえ、洗礼を受けるとかじゃなくて……書店でポジティブ思考の本を探すとビジネスやメンタルの本になるじゃないですか。そういうのでなく、もっと古い本を、と思ったんです」


「はい! はい! はい! 週刊ゲスニックマガジンのサイジョウです! つまり要するにヒダリに傾いてるって……」


 そこで警備員が出てきて、「週刊ゲスニックマガジンのサイジョウ」なる記者はつまみ出された。そりゃそうだ、偏見モロダシではないか。

 それにしても週刊ゲスニックマガジン、どこの出版社から出てる雑誌なんだろう。


 ◇◇◇◇


 いまは9月だ。

 超ダンジョンフェスはまだ先、12月の話である。そのころにはアカミチさんも復帰しているのでは、と読んだ俺たち広報は印刷物はそのままで行くことにしたのだった。

 そうやっていると上の人が俺たちの仕事ぶりを見にきた。アカミチさんの件をどう思うか、と尋ねられて、えがそー先輩はビン底メガネを輝かせながら、


「……平成の時代に……似たようなことがあったと……聞きました……そのタレントも……1ヶ月程度で復帰したそうなので……今回もそうなるのでは……という想定で……仕事を進めて……います……」


 と、淀みなくゆっくりはっきり答えた。


「世論はちゃんとニュースなどで確認しています。ダンジョン配信が教育上よろしくないものだ、と思われている時代に後戻りしないようにするのが、わたしたちの仕事ではないでしょうか」


 これまたみー先輩がかっこいいことを言う。


「事実ダンジョン探索・配信は現在、日本の最大の産業です。それが白い目で見られるのはおかしいことだと思います」


 俺も全力でかっこいいことを言った。


 しかし状況は芳しくなかった。

 小中学校でダンジョン配信の視聴を避ける校則が制定されたりしているし、ところによっては自治体が「小中高生にダンジョン配信の視聴を禁止する条例」なるものを作ったりしている。

 もうすでに、ダンジョン配信はよくないものだと思われつつあるのだ。


「超ダンジョンフェス、なんとしても成功させましょう。ダンジョンがどれだけの恩恵をこの国にもたらしているのか、知ってもらわなければ」


 それが俺たち広報の覚悟であった。

 そしてその覚悟を持って公式ボヤイターを運営していると、いままでほとんどなかった誹謗中傷が、リプライや引用リポストで繰り返されるようになったのである。これは大ピンチと言えた。(つづく)

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