25 なにがなんでも

 アカミチさん逮捕の激震はものすごかった。

 翌日出社したところみー先輩は抜け殻になっていた。もう印刷物を発注して、刷り始めたところなのだという。部数が死ぬほど多いのでキャンセルをかけるとえらい損害になるのだとか。

 まあ部数が多いなら1枚あたりの単価は、と考えてしまうが、そもそも東京の観光名所だけでなく日本中の駅や公民館に貼られるものなので一枚あたりが安くても結局かかっているお金は「ギョエー!!!!」という額らしい。1枚あたりが安かろうがお金がかかっていることは間違いないのだ。

 そしてものすごい枚数なので手作業でシールを貼るというわけにもいかず、つまりほぼ完全な詰みなのだという。


「アカミチさんの無罪を信じましょう」


「それしかないか……でもアカミチくん見た目がああだから確実にいまごろ尿検査してるよ。ヤバい薬をやってないことを祈るばかり」


「……ニュース……家宅捜索……」


 えがそー先輩がうめくように言う。えがそー先輩のパソコンを覗き込むと、ネット動画のライブが表示されていて、アカミチさんの自宅マンションに警察がどやどや押し入る様子が写っていた。

 きっとタトゥーばっちばちの派手な配信者という理由で、家宅捜索まで行われているのだ。

 たとえばもし俺が酔っ払って全裸になっても、酔いが覚めるまで留置所に入れられて、正気になったらお巡りさんに叱られて終わり、最悪でもワイセツブツチンレツザイで捕まってせいぜいだろう。

 なんというか世の中の偏見がつらい。アカミチさん、あんなにいい人なのに。


 パソコンをいじっていると、すみっこのニュースのタブがチカチカした。見てみるとアカミチさんの尿検査の結果は完全にシロで、自宅からも薬物は見つからなかったらしい。ほらみろ。

 しかしダンジョン庁は事態を重く見て、配信者全員の尿検査を行うことを決定、ともある。


 ダンジョン配信というものの信頼が揺らいでいる。

 ただでさえPTAに目の敵にされがちなダンジョン配信であるが、それがこういう大きな騒ぎを起こせば、世のお母様方はダンジョン配信を白眼視するだろう。


 それはいけない、ダンジョンは希望のはずだ。人類最後の希望が、ダンジョンなのだ。


「……みー先輩、えがそー先輩、」


「どした、目に意欲の炎なんか燃やしちゃって。星飛雄馬か」


「ぜったいに成功させましょう、超ダンジョンフェス」


「……どうして……そんなに……」


「アカミチさんはシロだったんですよね!? 飲みすぎて全裸になっても、俺だったらお巡りさんに怒られるか、ワイセツブツチンレツザイでちょっと捕まるかのどっちかじゃないですか。それがこんな大事になるのはダンジョン配信が悪いものだと思われてる証拠です。そのイメージをぶっ壊すために、やりましょうよ超ダンジョンフェスを!!!!」


「……いいじゃんいいじゃん。そうだよ、なんでアカミチくんがタトゥー入ってるとか配信者だからって理由でこういう扱い受けなきゃいけないのさ。上に働きかけて警察相手に訴訟起こすべ!!」


「……確かに……アカミチ……地味にいい奴だから……味方したい……」


 広報部の方向性は決まった。

 なにがなんでも、超ダンジョンフェスを、無事に開催せねばならぬ。


 ◇◇◇◇


 9月半ばに入って、アカミチさんは無事に釈放された。タトゥービッチリなせいで反社勢力との関わりを疑われたり、配信者仲間に薬をやっているやつはいないかとしつこく聞かれたりしたらしい。

 テレビで、アカミチさんが警察署を出る様子を、俺と妹と穂希さんで見る。アカミチさんは不起訴となったらしい。そのわりに長い勾留だった。

 叔父さんはぽてとの散歩だ。朝の散歩に行きそびれて、ぽてとは「おさんぽ おさんぽ おさんぽ」と連打して大騒ぎしたのである。


「これさ、こういう騒ぎになったのって、アカミチさんが不良ぽい見た目だからだよね」


 妹が唇を尖らせる。


「ぜったいそうだよ。きっと配信者って仕事も、世の中から見ればヤのつく自由業みたいに思われてるんじゃないの?」


 穂希さんが小鼻を膨らませる。


「ただいまー」


「キャンキャンッ」


 叔父さんとぽてとが帰ってきた。ぽてとは足をきれいにしてもらってから、嬉しそうに家に飛び込んできて、「ごはん ごはん ごはん」とボタンを連打している。


「はいはい、ごはんね。なに、アカミチさんやっと釈放されたの」


「これってぜったい配信者だから差別されてるんだよね、って話してたところです」


 俺の言葉に叔父さんは深く深く頷く。


「平成の時代にもあったよ、超人気男性アイドルグループのメンバーが、酔っ払って全裸になって公園ででんぐり返しをして、そんで捕まって家宅捜索までされたことが。それも本当にただ酔っ払っただけだった。警察は学ばないね」


 叔父さんはぽてとにドッグフードを与えている。ぽてとはガツガツと、食器に入れられるそばから食べている。おいしいのだろうか。


「まあ不起訴なら特に自粛したりする必要もないんじゃないのかい?」


「ならいいんですけど……」


「アカミチさんあれで繊細だって俺の会社の先輩が言ってました。けっこうショック受けてるんじゃないかな」


 テレビはそのあと、あすアカミチさんと「赤い閃光」のメンバーが会見をする、と報道した。きっとマスコミ各社は意地悪な質問をしてアカミチさんを泣かす気なのだ。(つづく)

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