あなただけ

メタゲーム宇都宮

あなただけ

 私がここに来て、あなたと出会ってから、私はあなただけを見つめてる。

 懐かしい香りをまとっているあなたは、いつも寂しそう。

 私がここに来たとき、たくさんの人が私を見てくれた。

 でも、今は、あなたしか私を見ていない。

 私もあなたしか見ていない。

 あなたは私に話しかけてくれるけど、ほかの人は私に話しかけてはくれない。

 みんな私のことが嫌いなのだろう。

 あなたはたくさん私に話をしてくれる。

「この前、××が好きだったお店が閉店した」

「この前、××が好きだった映画を見たよ」

「この前、××が好きだった海を見に行ったよ」

 あなたは私に報告するかのように「この前」の出来事を教えてくれる。

 あなたのお話に出てくる「××」が誰のことなのか、私はわからない。

 どういうわけか、そこだけいつも聞き取れない。

 あなたは私に誰の話を聞かせてくれているの?

 「××」

 あなたは私の前でいつも誰かの名前を口ずさむ。

 私は不思議とその「××」に対して、懐かしいものを感じる。

 まるで、私自身が「××」かのように、あなたが口ずさむたびに私は、あなたに触れたくなる。

 あなたは目の前にいるのに触れられない。

 ねえ、私からでは、あなたに触れることができないの。

 お願い、あなたから私に触れて。

 私は何度もあなたに手を伸ばした。

 見えない鎖で手足が繋がれているかのように、あなたの元まで、届かない。

 私が手を伸ばしたとき、あなたは小さく言った。

「もうすぐ会えるよ」

 あなたは不思議なことを言う。

「もうすぐ会える」なんて、今こうして会っているのに。

 あなたはしばらく、私に会いに来てくれなかった。

 私は「もうすぐ会える」の言葉を信じ、待ち続けた。

 待って、待って、待ち続けた。

 いつの間にか、眠ってしまったていたのか、私はあなたの声で目が覚めた。

「もう一人にしないよ……」

 あなたは私に初めて触れてくれた。

 いや、初めてではない。

 もっと昔にあなたは私にたくさん触れてくれていた。

 ああ、そうか、触れられなかったのは私じゃなくて、あなただったのか。

 ごめんね。

 もう、あなたを一人にしない。

 寂しい思いをしていたのは、あなただったんだ。

 私は、あなただけを見つめていたよ。

 

 

 

 

 

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