3,時計台
しばらく練習を続けたアリスは疲れて一休みしようと思いましたが、地上に降りる気はしません。
服に着替えた時のように、一度地上に降りてしまうと二度と飛び上がれない気がしたのです。
どこかにいいところは無いかなと休む所を探していると、街の真ん中に立っている大きな時計台が目に入りました。 アリスは時計台まで飛んで行き、その屋根の上に座って休憩することにしました。
時計台の屋根のてっぺんに座って、足をブラブラさせながら街の明かりを眺めていると突然、
「夜中だよー、二五時になったよー」と下から大声が聞こえて来ました。
アリスは驚いて時計台から遠くに飛び離れてから、その後、時計台の文字盤にゆっくりと近づいて見ると。
時計の文字盤がとてもおかしなことになっていました。
アリスがさらに近寄ってみると数字が2つ3つと集まって、あちらこちらで何かガヤガヤ騒いでいます。
アリスが文字盤の上に上昇して見ると、数字の12の体を数字の1と数字の2が両方からつかんで、引っ張り合いながら何やら言い争っています。
数字の1が叫んで、
「数字の12は私の兄弟だ」
数字の2も負けずに、
「馬鹿言っちゃいけない。間違いなく私の兄弟だ」と言い張ります。
「何を言うんだ、私は君よりも順番が前だ、数字の12も1の方が前に来てるじゃないか」と数字の1が言って数字の12を引っ張ると。
「何を言う、私の方が君よりも大きな数だ、12も君よりも大きいぞ、だから私の兄弟だ」と数字の2も負けずに言って数字の12を引っ張ります。
数字の12は両方から引っ張られて真ん中から裂けそうになって叫んでます。
「千切れちゃうよー、誰か助けてー」
アリスは見かねて言いました。
「いい加減にしなさいよ、数字の12はあなたたちの兄弟じゃないわよ。
順番はずっと後だし、大きさもあなた達よりもずいぶん大きい数字よ」
すると数字の1と数字の2が揃ってアリスに言い返します。
「じゃあなぜ僕たちと同じ形をしたものがくっ付き合っているのだい? 順番も大きさも僕たちとずぅーっと離れているのなら当然に、形もずいぶん違っているはずだろ」
アリスは答えることが出来ませんでした。
数字の1が言います。
「訳を教えてやろう。2の奴が1の後ろにくっ付いて離れないのさ」
数字の2も負けずに言い返します。
「何だと、1の奴が2の前に立ちふさがって邪魔をしているんだろ」
ケンカがまた始まりました、数字の12は数字の1と数字の2の間で、悲しそうに黙って立っていました。
アリスは説得するのはあきらめて、文字盤の下の方に行ってみました、するとそこには数字の9が二つ並んでいます。
一方の数字の9が片方の数字の9に向かって、怒って何か言っています。
「おい、いい加減にボクの真似を止めろよ、
みんながボクと間違えて迷惑してる」
すると片方の数字の9がクルリと半回転して、数字の6になって言い返します。
「なぜボクが逆立ちしてはいけないんだ? 君が逆立ちしたら僕と同じになるじゃないか、お相子だろ?」
「お相子じゃない! ボクは君より数が大きくて全く違うんだ。
それなのに半回転するたびに同じになったら皆が誤解するだろ」
と数字の9が大きな声で言いました。
「じゃあ、君が形を変えれば良いじゃないか」と数字の6が言ます。
「何だって、なんでボクが変わらなきゃいけないんだ」と数字の9が大声で怒り出してケンカが始まりました。
アリスがケンカを止めようとして近づくと、数字の8がやって来て、
「ハハハ、僕なんか何回ひっくり返ってもボクはボクだ。
君たちって可哀そうだね、逆立ちするたびに間違われてしまうなんてね」
そう言うと、トンボ返りを繰り返しながら数字の8は去っていきました。
数字の8が居なくなった後、数字の6と数字の9は黙ったままそれぞれの居場所へと帰っていきました。
つづく
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