2,アリスの初飛行

「わあ! すごい、わたし宙に浮かんでいる」

 お姉ちゃんの部屋の中で、宙に浮いたアリスは手足をバタバタと動かして移動しようとしたが、体は宙に浮いたままで上にも下にも横にも動きません。

「宙ぶらりんだ!どうすれば動けるのだろう」

 アリスは考えました。

「空中では歩けないから飛ぶしかない、でも翼は無いから手で羽ばたいても鳥のように飛べないし、どうしよう」

 そこでアリスは試しに、お姉ちゃんの横へゆっくり飛んで行く様子を頭の中で想像してみました。

 成功でした。

 アリスの体はゆっくりと動いてお姉ちゃんの横に飛んで行きます。

 お姉ちゃんは机の前で本を開きペンを持って座っていましたが、目はつむっていてコックリコックリ居眠りをしていました。

 アリスはお姉ちゃんのカーディガンを見付ると、そこまで飛んで行くアリスの姿を頭の中に思い浮かべて、部屋の中をゆっくり飛んでカーディガンの所へ行き、アリスがカーディガンを取ると今度はゆっくりとお姉ちゃんの所に戻ってきました。

 それからアリスはお姉ちゃんの体に、カーディガンを優しく掛けてあげました。

 出来ました、大成功です。

 自分の思い通りに宙を動くことが出来たので、アリスは嬉しくなって今度は部屋の外に出て飛んでみることにしました。

 宙を飛んでドアまで行き、ドアのハンドルに手を伸ばすとスッと手がドアを通り抜けてしまいます。

 試しにアリスの体をドアにぶつけてみると、お姉ちゃんの部屋に入ってきた時のように、体はドアを通り抜けて外に出てしまいました。

「スゴイ! これでどこでも通れる、じゃあ家の屋根も通れるの?」

 アリスがそう考えると体はスーッと浮き上がり天井と屋根を通り抜けて、お月さまと星が輝く夜空の中へ出てしまいました。

 下にはアリスの家の屋根が見えます、周りにはたくさんの家があって、家の窓には明かりがついています。

 街灯が並んで点灯していますし、その間を車がライトを点けて走り回っています。

 遠くにはキラキラ輝く街の明かりも見えますし、街のなかを走る電車の窓の明かりが列になって通り過ぎて行きます。

「とってもキレイ!」

 アリスは宙を漂いながら夜の景色に見とれていました。

 しばらくすると夜の外気が冷たくアリスの体を冷やして来たのに気が付いて、

「わたしパジャマのままだ、これじゃ風邪をひいちゃう」

と言いながら、アリスは部屋に戻って服に着替えることにしました。

 空から屋根を抜けて自分の部屋に戻って服を着替え始めましたが、アリスは部屋の床に足を付けようとはしませんでした。

 なぜなら一度床に足を着けてしまうと、二度と飛び上がることが出来ないような気がしのです。

 降りることなく空中でバタバタもがきながら着替えたので、少し時間がかかってしまいました。

 何とか無事に着替えが終わったアリスは勢いよく屋根から外に飛び出しました。 

 服に着替えたのでもう寒くはありません。

 空を飛ぶ要領も覚えてきたので、アリスは空高く上がると、街の明かりを下に見ながら、いろんな飛び方を試します。

 クルリと回る宙がえりや八の字を描く旋回など、そうしてアリスの思い通りに空を飛べるようになりました。

                        つづく

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