第4話 君は澄清

朝、二階にある自分の部屋から鼻歌を歌いながら1階に続く階段を降りていく。リビングから出たおばあちゃんに鉢合わせした。

「ふふっ、恋夏上機嫌だねぇ、おばあちゃんも嬉しいよ。」

「んふふっ、いいことばっかだからね。」

「良かった、朝ごはん用意してるから食べなね。」

「はーい!」


今日はちょっとおめかし、昨日よりもちょっとおめかししたっていうのがわかるように、三つ編みおさげに三つ編みをほぐし、小さな蝶々のアクセサリーを所々に付けて、可愛いと言わせる準備は万端!

髪のアレンジが終わったあと、鏡の前で可愛い顔をしてみたりちょっとポージングしてみたりしてたら後ろから声が聞こえてきた。

「ふふふっ、そこの可愛らしいお嬢ちゃんこっちを向いてちょうだいな。」

「もー、おばあちゃんー…///」

その声に答えるように私は照れながら後ろを向いた。

「今日も可愛いね、恋夏。」

「ありがとっ、憂も可愛いって言ってくれるかな?」

「もちろんもちろん。」

「えへへへへ、じゃあ嬉しい!」


お昼も済ませて、玄関から出ようとする。そのときおばあちゃんが私を引き止めた。

「恋夏、気をつけていっておいで。」

「はーい、夕方には帰ってくるから!」

「はいはい、おゆはん作って待ってるからね。」

そう言って私は勢いよく玄関から飛び出した。


浮き立つ心を宥めながら、私は歩幅を大きく体が飛んでいかないように、本当は飛んでくことなんてないけど、地に足をつけて歩いた。

今日も昨日とおなじ場所へ急ぐ。そこを、いつもの場所、と言える日がいつか来て欲しい。

「(憂、着いてるかな?)」

まだ2時45分、つい早くに家を出た。そこへは大体7分くらいしたら着くようなところなのに、8分くらい早かった。

歩いていたらすぐにあの場所が見えてきた。よく見るとそこに人影があるのが見えて、少し焦って走り出した。

「っはぁ!はぁっはぁ…」

「うわっ、びっくりした…」

「お待たせっ、なのかな?…はー…。」

「気にしないで、俺が早く着きすぎただけなんだから。」

「…ふふっ、そっか、じゃあ焦んなくてよかったんだ。」

「うん、恋夏は慌てんぼだな。」

そう言って憂はくすくすと笑った。

「もー、笑うことないじゃん!もーう!」

「あははっ、ごめんごめん。」

そう言って2人じゃれあった。

しばらく笑いあって、憂は急に私の顔をじっと見てきた。悟られない程度にドギマギしてると、憂が口を開いた。

「恋夏、今日髪型かわいいじゃん。」

「へっ…あ、え…あ、ありがと////」

「蝶々いっぱい付いてるし、三つ編みも可愛い。」

「…褒めすぎっ!」

これ以上言われたら顔が真っ赤になって勢いのまま帰ってしまいそうになったから、中断させた。

「…恋夏は凄いな、いつも髪型かわいくしてきててさ、俺絶対無理だ。」

自嘲するように憂は言って、自分の髪をときながら触っていた。

「でも、私もなんにもない日は適当に一つくくりにするだけだよ。」

「そうなの?なんか安心した。」

「ふふっ、なにそれ。」

「なんでだろ、わかんないや。」

傍から見ればきっとくだらなく、何の変哲もない会話。でも私にとっては楽しい会話で、愛おしいものだ。


「あ、そういえば母さんがカステラ焼いてくれたんだよ。ザラメがあるやつとないやつどっちがいい?」

「んー、ザラメあるやつがいいな。」

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

ひとくち食べると、ザラメの食感がちょうど良くて美味しい。食べてたら憂が一口も食べずに私の方ばかり見てるから、気になって声をかけてみた。

「憂?」

「あ、恋夏美味しい?」

「うん、どしたの?憂は食べないの?」

「食べるよ、恋夏カステラ好きかなって思って、」

「好きだよ、甘くて美味しいし。」

「なら良かった」

そう安堵する君の顔を見て、私もどこか安心した。なんでそう感じたかは分からないし、憂が本当は何を気にしてたかも分からないけど、一旦保留にして今は憂といることに焦点を当てることにした。

「ねぇ、憂」

「ん?」

憂なら分かってくれるのかな…もしかして、気付いているのかな、それなら…

「私…私、憂の高校の話聞きたい、だめかな?」

恐怖心から話を変える。高校については興味があったからその話を選んだ。

「…?いいよ。どんな話聞きたい?」

憂は1度疑問の顔を浮かべたけどすぐいつもの笑顔になって話を広げようとしてくれた。

焦らなくてもいいのかな…。今はちょっと甘えてしまおうか、もう少しだけ、話すのはあとでもいいの

かな…。

私は憂に勘づかれないように、巡る思考に終止符を打って憂との話に目を向けるようにした。

「んー、まずはー…」



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