第4話昇格

 真面目に働いたからなのか?年齢的にそうだったのか?5年しか勤めて居ないのにグループリーダーGLになってしまった。何度も断ったが何故か私に決まったようだ。縫製課から技術課に異動になった。縫製課のGLは久美ちゃんだった。

 技術も無い私が技術課とはおかしな話だ。他の社員の人達パートの方々からの嫌味の声が聞こえてくる。そりゃあそうだよねー私でも自分にふさわしくないことくらい解っている。手当てが付くから尚更、嫌味妬みの声は大きくなる。


 「社長とできてるんじゃない?」


 「やったのかな?」


 「可愛い人だけ贔屓して」


 「はい。って何でも言う事聞く人好きなんだべ。」


 仕方ない。私は技術が足りない、経験も少ない。でも、仕事を辞めるわけにもいかないし、言われた事覚えて1つずつやって行くしかない…


 「工場長とか社長、ルミさんの事何でも出来るって勘違いしてますよねー。」


 久美ちゃんが私にハッキリとそう言った。

こいつは、本物のアホなのか?本人に向かって言うことか?とは思ったが事実私は出来る気がしなかったしあながち久美ちゃんが言った事も間違いではない。


 「ホントそうだね。私、出来ないのに…」


 マイナーチェンジがありカーシート部分が変わる。それの立ち上げ?を私がする事になった。私は、図面を見るのが初めてで全く何が描いてあるのか分からなかった。一瞬で嫌になった。こんなの出来るわけがない。指導されて縫うのもやっとの私が図面を見て縫う!?イヤイヤ無理でしょー!笑

 工場長に教えてもらいながら1つずつ作業を進めていく。裁断品を仕分け資材を仕分け外部からの指導員にも来てもらい縫製指導をしてもらい、写真に残し作業標準書を作る。

 パソコン作業をした事が無かった為それにも苦労した。結局パソコン作業は最後には断念してしまった。最終品格品が認められ何とか仕事をやり終えた。今度はそれを他の従業員に指導し、大量生産品となる。

 私が覚えた事を奏斗君に縫製指導する。でも、今は品格品のサンプルも有るので大体の事は奏斗君1人でサンプルを見ながら縫製してしまう。凄い。ホントに奏斗君は凄かった。

私が苦労して縫って形にしたのに奏斗君は楽々覚えていった。そして速くて正確だった。滅茶苦茶奏斗君が格好良く感じた。キレイな指もとても印象的でコツを知りたいからと言って動画を撮らせてもらった。この動画は私だけの宝物、ホントは顔も撮りたかったが流石にそれは出来なかった。

 細かい部分は二人で図面を見ながら確認する答え合わせをしていった。図面を見る為にほんの少しいつもより近づく、嬉しくて恥ずかしくてニヤニヤする私がいた。奏斗君とは世間話もするようになってきて色んな事を知った。『お酒が好き、アニメも好き、ゲームも好き。熱帯魚を飼っていること、猫を二匹飼っていること、亀を飼っていること、兄妹は四人、奏斗君は三番目なこと、奏斗君の部屋は2階に有ること、いつも朝にシャワーをして来ること』沢山のことを教えてくれた。飲みに行く約束まで出来るようになっていた。

 

 従業員への指導は主に工場長と奏斗君がした。私にはまだ他の人に指導するスキルは無いと言う工場長の判断だろう。奏斗君は自分より年上の人達に分かりやすくコツを教えていった。


 久美ちゃんとはあれから何も進展しなかったようだ。でも、久美ちゃんが奏斗君を思っていることは会社の人達皆が知っていた。最近久美ちゃんは奏斗君のせいで病んでいる!と周囲に話す様になっていた。それもわざと奏斗君に聞こえるように話すから私は思わず


 「そんな事おっきい声で言わないほうが良いんじゃない?皆に聞こえるし。」


 「病院で先生にストレスだね。って言われて薬飲んでるんです。」


 「何処の病院行ってるの?」


 「家の近くにある診療所。」

 

 「何の薬もらって飲んでるの?」


 「胃薬です。」


 「…もっとおっきい病院とか心療内科とか行ってるのかと思った…。」


 「やっぱり、心療内科行ったほうが良いですかね。」 


 「いやーどうかな?わからないけど。辛いなら行った方が治療してもらえるかもよ。」


 奏斗君は久美ちゃんと付き合ってない。

それだけで嬉しかった。久美ちゃんが騒げば騒ぐほど私は嬉しくなった。でも、関係は確かにあったのだろう。酔った勢いなのか、そこから始まる恋だったのか?久美ちゃんがあまりにも社内で好き好きモードを出したから奏斗君は引いたのかもしれない。奏斗君とラインが繋がらなくなったらしい…既読付いても返信無しとか既読が何日も付かないとか。久美ちゃん的には会社で騒ぐしか無かったのかもしれない。関係をうやむやにされ蓋をして闇に葬られた感じなのかも…久美ちゃんに少し同情した。

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