第2話名前と住所

 実家に行くと祖母が庭の草取りをしていた。荷物を抱えた私達を見て怪訝な顔で、


「いらっしゃい。」


表情とは違い元気な声で迎えられた。


「ぴーちゃん、ごめんね、…パパと…離婚する。向こうの家…出てきたから。帰ってきても良い…?」


途切れ途切れに伝えると私の背中をポンと叩き家の中に入るように言われた。

 何も聞かれなかった。聞かれない事がかえって気まずかった。実家から車で5時間の距離の所で両親は建設関係の事業をしていた。夜電話で実家に居ることを伝える。父には近い内に帰るから。と言われ電話をおわらせた。

 智は荷物が無くなって私達が居ない事に気付き全てを諦めたのか、嬉しかったのか、一言ラインで、


「いつ離婚届出す?」


既読だけ付けて私は眠りについた。

 心の何処かでやり直せるのでは?なんて考えていたが、智からの『いつ離婚届出すの?』というラインのしつこさに嫌気がさし、家を出て1週間後5月7日離婚届を出した。

 手続きは色々あって本当に大変で何度も住所と名前を書いた。子供達は苗字を変えたくなかったので私も子供に合わせて苗字は変えなかった。それの手続きも面倒で時間がかかった、免許証、保険、クレジットカード、住所変更は兎に角沢山あった。

 慰謝料無し、養育費無しの離婚は何も無い私をとても不安にさせた。でも、智からの恐怖と支配から逃れられた私はこの青い空と同じ位清々しい気持ちだった。

 何も無い私が出来る仕事は限られていた。学校の休みになるべく合わせたく土日休みの仕事を探した。職安の人の勧めで1つの工場の見学に行くことにした。古びた外観、増築を繰り返したのではないかと思うような不思議な作りの建物だった。ミシンの音が思ったより煩くピリピリとした空気が私を不安にさせた。工場を一廻りして簡単な説明を受けた。見学してもしなくてもこの工場に履歴書を出すことは決めていた。寧ろ何も無い私には丁度良いと思った。見学を終えたその足で職安に向かい直ぐに面接を受ける手続きをしてもらった。面接では私が離婚したばかりであること、残業は子供の迎えがあるため6時位までしか出来ないこと、子供の体調が悪い時は突発休みが有ること、私の都合ばかりを話したがそれでも社員として迎えられるとはよほど人が集まらなくて困っているのだと感じた。

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