天墜のメタリカ

夢野なこ

序曲 ♪ 天墜のメタリオ(プロローグ)

主人あるじよ!世界は音楽で溢れている!聴け!魂のメタルを!」

 銀髪の天使ルイドがエレキギターをかき鳴らし、黄金の宮殿に白い雷鳴を響かせる!

 天界は天界はパイプオルガンの荘厳な和音に支配され、動くことすら許されない静寂の聖域だった。

 ルイドの黒いレザーコートが翻り、左耳のクロスピアスがエーテルの光を放つ。右人差し指の指輪はオリハルコンの輝きを帯び、メタルのリズムに共鳴した。真紅の瞳が炎のように揺らめく。

 かつてルイドは奏楽天使団の中心で、神に一番近い場所で旋律を紡いだ。だが今、彼の音は天界を揺さぶる異端。

 

「ルイド!やめないか!聖域を騒音で汚すんじゃない!」

 駆けつけた大天使ミカエルがルイドを制止する。だがルイドはにやりと笑い、ギターをさらにかき鳴らす。

「悪いなミカ!俺はもう抑圧された静けさには耐えられない。天界にメタルが流れてもいいだろう!?」

 重音が轟き、天界が揺れる。奏楽天使たちは眉をひそめていたが、やがて自然と体がリズムに乗るのを感じた。

 それはかつて奏楽天使だったルイドが地上のメタルに触れ、魂が解放された瞬間と同じ衝撃。

 

「天使ルイド」

 神が鋭い眼光を開きルイドを一瞥する。その声は冷たく、天界を凍らせた。

「お前の紅玉石の瞳はあまりに情熱を帯びた。魂のメタルが聖域を乱すなら、地上でその音を試すがよい」

 刹那、地上へ墜落するルイド。6枚の翼はもがれ、白い羽が虚空に舞った。玉座の間にはメタルの残響が消え、冷たい静寂だけが取り残された。

 だが天使たちの心に魂の響きはたしかに刻まれた。

 遠く地上のどこかで、新しい音が胎動を始めていたーー

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