まあちゃん、ここきらい

葛籠澄乃

ある日のこと

「ここどこぉ?」


 膝の上に座る娘が顔をあげてきいた。窓の外を指さしている。


「○○駅だよ」


「まあちゃん、ここきらい。じいじのとこいくのー」


「じいじのとこいくの」


「うん」


 そう答えて、静かになった。足をゆっくり見つめてパタパタさせている。暇なのかもしれない。でも電車の中なので、大人しくなってくれるのはありがたい。


 電車はゆっくりと動きだし、また止まった。


「ここどこぉ?」


 膝の上に座る娘が顔をあげてきいた。窓の外を指さしている。


「○◇駅だよ」


「まあちゃん、ここきらい。じいじにあいにいくの」


「じいじのとこいくの」


「うん」


 娘はまた座り直して、暇そうに手遊びをしている。電車の中なので大声を出さないでいるのはありがたい。


 電車はゆっくりと動きだし、また止まった。


「ここどこぉ?」


 膝の上に座る娘が顔をあげてきいた。窓の外を指さしている。


「■○駅だよ」


「まあちゃん、ここきらい。じいじのとこいくのー」


「じいじのとこいくの」


「うん。じいじのとこは◇○」


「そうだね」


「うん」


 娘はまた座り直す。周りをキョロキョロと見渡している。電車の中なので、大声を出されるよりはありがたい。


 電車はゆっくりと動きだし、また止まった。


「ここどこぉ?」


 膝の上に座る娘が顔をあげてきいた。窓の外を指さしている。


「■■駅だよ」


「まあちゃん、ここきらい。じいじのとこいくのー」


「じいじのとこいくの」


「うん。まだかなー」


「まだだねえ」


 娘はまた座り直す。電車は人が減ってきて、隣の席が空いたので、娘をそこに座らせた。座席に立膝になって窓側を向いている。


 僕の父の最寄り駅まであと8駅残っている。きっと着くまで「ここどこ」を繰り返すだろう。穏やかになってきた車内は、なんとなく眠くなってきた。


「まあちゃん、◇○駅に着いたら起こしてくれる?」


「いいよ。◇○、◇○」


「うん、◇○」


 電車はゆっくりと動きだす。それと同時に、僕は目を瞑った。


 瞬間、僕は娘に肩を揺さぶられた。


「パパ、ここどこぉ?」


 まだ2駅。ああ、わかった。楽しみなんだね。パパ、起きるよ、がんばって。

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まあちゃん、ここきらい 葛籠澄乃 @yuruo329

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