第2話 虐げられたい、令嬢は……
「ああ、お許しください。義理のお母さま。」
「誰が、義理のお母さまよ!! 」
エリア・ルピス伯爵夫人が叫んだ。
「お母さま…… 」
エリーナは震えながら、母親を見た。
「そうよ、お母さまよ。正真正銘あなたを産んだ、お母様よ!! 」
エリアは娘エリーナの顔の端を両手で抑えた。
「エリーナお前、またこんな所に来ていたのか。いい加減にしろよ。」
母親の声に引き寄せられて、現れたエリオスがエリーナに呆れ果てる。
「義理のお兄さま!! 」
「だから、義理じゃねえって!! 」
エリオスの方へ顔を向けたエリーナを母エリアは自分の方へ力技で向けさせる。
「エリオスはあなたの正真正銘の兄よ、変な呼び方はやめなさい。」
ギリギリとグーでエリーナのこめかみを締めるける。
「痛い!! やめて、お母様!! 」
「あなたこそ、この変な趣味はやめなさい!! 」
ギリギリとエリーナのこめかみを締めるけると、痛い痛いと喚いている。
「そうよ、お姉様。そんな姿を他の人に見られたら恥ずかしいわ!! 」
「エリーナ、君の所為でエリカが陰口を言われたら可哀想だろう。」
妹のエリカが後ろから声をあげた。スクワートもエリカを庇うように声をかける。
「スクワートさま!! 」
エリーナは、母親から逃げ出すと縋るようにスクワートに抱き着こうとした。その間にエリカが入り込む。
「やめて、スクワート様は私の婚約者よ!! 」
「ひ、酷い、エリカ。少しぐらいいいじゃない。」
「酷くないわ、酷いのはお姉様よ!! 」
「そうだ、エリーナ。いい加減にしてくれ。」
エリカとスクワートは、互いに守りあった。
「いいじゃない、幼馴染なんだから少しぐらい。」
エリーナは拗ねたように唇を尖らせた。
「幼馴染でも駄目なものは駄目!! 」
「エリーナには、ちゃんと婚約者がいるだろ。」
「そうよ、そうよ。」
エリカは姉にスクワートを触らせないように抱き締めた。
「エリーナ。」
がしっと、後ろから両肩を母親が掴んだ。
「取り敢えず部屋へ戻りますよ。エリオス、エリーナを部屋へ。」
「了解、母上。」
エリオスはエリーナを肩に担ぎ上げた。
「嫌、あの部屋は嫌ーー!! 」
暴れるエリーナのケツをエリオスは叩いた。
「いい加減にしろ、エリーナ!! 」
「だって、だって、あの部屋は見窄らしくないんですもの!! 」
「当たり前だ、伯爵令嬢の部屋が見窄らしいはずないだろ。」
エリオスはエリーナを担ぎ上げながら、先程閉じ込めようとした部屋へと足を進める。
エリーナの本当の部屋へ。
「そのドレスはなんなの? わざわざ見窄らしく作らすなんて…… 」
「だって、見窄らしくないと惨めじゃないじゃないじゃ!! 」
母親の言葉にエリーナは言い返す。
「良い生地使って、お針子さんも泣いてたわよ。お姉様。」
「だって、だって!! 」
「だってじゃないの!! 」
エリーナに母親からの叱咤が飛んだ。
エリーナ・ルピス伯爵令嬢。
彼女は小説を読むとのめり込み、その登場人物に成りたがる。変な趣味の持ち主であった。
「この前は悪役令嬢だったな。」
「『オーホホホホッ』『オーホホホホッ』と笑って煩かったわ。」
スクワートとエリカは前回の役の話をする。
そして今回は、虐げられた令嬢の役のようだ。見窄らしく見えるドレスを作らせ、地下の物置小屋を改造させ卑屈に身を震わせる自分に酔っていたエリーナ。侍女や使用人達からの冷たい目も、今のエリーナにはご褒美であった。
「エリーナ。婚約者のミハイル様に知られたら、婚約解消を考えられるぞ。」
「嫌ーー、それだけは嫌ーー!! 」
エリーナは、婚約者ミハイルだけにはこの趣味を知られることは避けたかった。
「ミハイル様だけには、黙っていてーー!! 」
エリーナはエリオスに担ぎ上げられながら、大声で懇願した。
【完】
虐げられた、令嬢は…… ❄️冬は つとめて @neco2an
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