異世界パパ活女子の成り上がり~貢がせスキルでSランク冒険者に君臨します~

暁ノ鳥

第1話

「…………はぁ」


 今日も今日とて、あたしの存在感は空気と同じ。

 薄暗い大教室の最後列、それが定位置。

 周りのキラキラした子たちの声が、やけに大きく聞こえる。


「ねえ、今度のコンパどうする?」

「あ、そういえば、日向(ひなた)ちゃんも誘う?」

「えっ、日向って誰?」

「ほら、あそこの……」


 くそっ、聞こえてるっつーの!

 もうやだ、この扱い!

 あたしだって、あたしだって……!

 

 逃げるように教室を飛び出す。

 窓ガラスに映る自分は、相変わらず地味な黒髪、すっぴん、どこにでもいる量産型女子大生。

 メイクとか、おしゃれとか、そういうの頑張る気力も湧かないくらい、自分に自信がないんだよね。


「誰かに必要とされたいなぁ……」


 心の声が、ぽつりと漏れる。

 別にモテたいとか、ちやほやされたいとか、そういうんじゃない。

 ただ、誰かに「日向がいてくれてよかった」って、そう思ってもらえるだけでいいのに。


 帰り道、スマホをいじっていたら、ふと目に入った広告。


『あなたの魅力を最大限に! 理想のパートナー探し♡』

 

 ……いわゆる、パパ活アプリってやつ?


(こういうの使ったら……あたしでも、誰かに必要としてもらえるのかな……)


 一瞬、心が揺らぐ。

 承認欲求モンスターが、あたしの中で鎌首をもたげる。

 でも、すぐに首を振る。


「いやいやいや! そんなことしなくても、あたしにだって……きっと……!」


 何が「きっと」なのか、自分でも分からないけど。

 そう自分に言い聞かせた、その時だった。


 キキーーーッ!!


 耳をつんざくブレーキ音。

 見ると、信号待ちしていたあたしの目の前に、制御不能になったトラックが迫ってくる!


「うそ……!」


 腕を上げて身を守ろうとした瞬間、目の前が真っ白に染まった。


(あ……あたし、死んじゃうんだ……結局、何にもなれないまま……もっと、自分らしく生きればよかった……!)


 最後の瞬間、あたしの中にあったのは、後悔だけ。

 誰かのためじゃなく、自分のために生きてみたかった。

 そう思った瞬間、どこかから声が聞こえた気がした。


『新たな世界で、本当の自分を見つけなさい』


 ……え?


 ◇


「ん…………」


 次に目を覚ました時、あたしは見たこともない森の中にいた。

 木漏れ日がキラキラ降り注いで、空気は澄んでて、なんだかファンタジー映画みたい。

 周りには青く光る小さな玉みたいなのがふわふわ飛んでるし。


「ここ……どこ……?」


 自分の体を確認。

 服は大学に行くときの地味なやつだけど、なんだか体が軽い。

 肌も、昨日までカサカサだったのが嘘みたいにツルツルだし、髪もサラサラ。


「事故に遭ったはず……だよね? 死んだ? ここ天国?」


 混乱しながら立ち上がった、その瞬間。

 目の前に、ゲームみたいな半透明の画面が現れた。


 え、なにこれ?


『ステータスウィンドウ』


 名前:日向(ひなた)

 種族:人間(異世界転生者)

 レベル:1

 職業:なし

 HP:20/20

 MP:15/15

 スキル:「貢がせスキル」(相手の好意を引き出し、物品を自発的に提供させる)


「……は? すてーたす?」


 しかも、「貢がせスキル」って何!?


 説明を読むと……「相手の好意を引き出し、物品を自発的に提供させる」……?


「これって……もしかして、さっき見かけたパパ活アプリ的な……?」


 一瞬、顔が引きつる。

 けど、次の瞬間、あたしの顔には期待と興奮が浮かんでいた。


「待って……これってチートスキルじゃない!? 異世界転生ってマジだったんだ! しかも、あたしにこんな都合のいいスキルが!?」


 思わず笑いがこみ上げてくる。

 地味で存在感ゼロだったあたしが、異世界でチートスキル持ち?


 最高じゃん!


「よーっし! こうなったら、この貢がせスキルで成り上がってやる! 第二の人生、派手にいかせてもらいますか!」


 決意を新たにしたあたしの背後、森の奥で黒い影が一瞬動いた気がしたけど……まあ、気のせいっしょ!

 今はそれどころじゃない!

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