第8話 知恩院の鐘様

俺様たちは美しくも恐ろしい神楽の舞姫を後に

奥へ進んだ。

「わー、屋台だ。」

食いしん坊のリキが羽根をバタバタと飛ぶ。

俺様も負けずに四つ足、獅子舞パワーで

全速力。

リキが「ここのイカ焼きは上手いぞ。」

もう、食いついている。

香ばしい香りが俺様の食欲を誘う。

フウマが「お前たちさっき四条でおいしいパンをお腹いっぱい食べたばかりだろう。

よく入るな。」

リキが「この香ばしい香りに食欲をそそられない方がおかしいぞ。」

そういってリキは羽根をバタバタと一気に屋台前を陣取った。

「イカ焼き、2つください。」

「あいよ。」

「なあマサル、現実世界でも屋台はあるのか?俺様は錦の天神さんから出たことがないから

分からない。

境内にお参りに来る参拝客の情報だけだ。」

「獅子舞キリ、もちろんあるぞ。

それにこの世界と現実世界とリンクしている。

同じ八阪神社だ。

神楽も本殿も、もちろん屋台の位置も同じだ。」

「屋台のこのイカ焼きの味も同じなのか?」

「そうだ。ただこの中が、青龍の腹の中だということだ。」

「青龍の腹の中か。

今更だが青龍はすごいな。」

空から声が聞こえた。

「当たり前だ。俺様は京の東の門番だからな。

良いことも悪いこともすべて俺様の腹の中さ。

お前たち、もうすぐ出口だ。

知恩院の鐘様によろしくな。

金髪獅子舞キリ、お前のことは覚えたぞ。

天神によろしくな。またな。」

「はい。ありがとうございました。」

マサル達、ヤタガラスも

羽根をバタバタさせて、

「ありがとう青龍。じゃあ、またな。」

出口の境界線で一礼して現実世界へ戻った。

八坂神社を出てすぐにさーっと霧雨が降った。ほんの一瞬だった。

そして僕らは元の姿から人間の姿に変身した。

「ビューン。」と車と人間たちの騒がしい音が聞こえる。

現実世界に戻ったようだ。

「朝より少し観光客が増えたな。」

「そうだな。」

俺様たちは車を避けながら普通の人間に紛れて、

知恩院の鐘様まで来た。

途中、小さな坂で観光客の人間たちが

「あら、君たち制服を着て、修学旅行生?。

坂道もう少し、頑張ってね。りっぱな大きな鐘があるわよ。」

愛想の良いフウマが「ありがとうございます。」

とさわやかに答える。

さすがだ。

マサルが「着いたぞ。鐘様だ。」

「どうやら鐘様の周りの木の柵が境界線のようだ。」

俺様も現実世界と境界線の見分けがつくようになった。

周りの人間たちに気づかれないように

マサルが木の柵に一歩入れる。フウマ、リキ、俺様も続く。

「鐘様、お久しぶりです。

熊野のヤタガラスのマサルです。」

「フウマです。」

「リキです。」

「よく来てくれた。久しいな。みんな元気でいたか?」

「はい。お陰様で。お隣さんの青龍にも今、

挨拶して来ました。」

「そうか。おや、もう1人。」

鐘様が小さく鐘を鳴らした。

「錦の天神さんの所のものか?」

「はい。初めまして。

おっしゃる通り、天神さんところのおみくじ自動獅子舞金髪キリです。」

「天神は元気か?」

「はい。天神さんは元気です。

今日は天神さんのはからいで修学旅行をしています。」

「修学旅行か。それはそれは。しっかりと勉強しなさい。天神は物知りで話が面白い。また会いたいな。よろしく伝えてくれ。」

さっき青龍も同じ事を言ってたな。

天神さんが褒められてるのは凄くうれしい。

「はい。」思わず大きな声で返事をした。

鐘様はハハハと大きな声で笑われた。

「せっかく来てくれたのだし、少し話でもしようかな。」そう言ってまた小さく鐘が鳴った。







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