第4話 3羽ガラス

「お待たせ致しました。4名様ですね。

どうぞ中へ。」

マサルが振り返り、こわーい顔で俺様を見た。

「獅子舞キリ。携帯の中から出るなって言っただろう。」

「ハハハ。出ないとパンは食べれないもんな。」リキの大きな笑い声。

フウマが「まるでキツネのような化け方だな。

いや、獅子舞か。ハハハ。」

「俺様は、神社の境内で、開門前の自由時間は

狛犬さんや丑さんたちと、この人間の格好で

遊んでいたぞ。問題ないだろう。」

フウマが「マサル、いいじゃないか?

携帯の中からだと外の世界が見にくいしな。

それに人間に化けていた方が人間界の修学旅行を体験しやすくなる。そうだよなキリ。

しかし、よく見るとキリ、イケメンだな。

女形美人のこのフウマ様もかすみそうだ。」

リキの大きなカラダが2人の前に立つ。

「そうか?俺様に比べたら2人とも劣るぞ。」

「リキ、なんだよそれ。お前は顔じゃなくってパワーで売ってるんじゃなかったか。」フウマが笑う。

そして続けて「マサル。そんなにキリを責めるな。

獅子舞キリは、これがはじめての人間界デビューだ。僕らだって・・・翼の羽根のしまい方に苦労したよな。」

マサルが少し怒った。「フウマ、そのことは今は言うな。

それに獅子舞キリ、その金髪、何とかならないか?」

「マサル、金髪だけは獅子舞のままだ。

黒髪にはできないぞ。これは俺様の地毛だ。」

リキが「それより早く入ろうぜ。お姉さんが呼んではる。」

「プッ」思わず3人そろって笑った。

「リキなんだそれ。変な、京都弁だな。」

僕らは店内に入った。

周りの席はもちろん人間だらけだ。

狭いガラスの箱の中。自動おみくじの獅子舞から飛び出せた。

天神さんに感謝だ。

「パンのいい香りがするな。」

リキが「キリ。ヨダレが出てるぞ。あわてなくてもパンはなくならないぞ。」

「そうなのか?」

「そうだ。」

「何回でもパンを運んで来てくれる。」

「嬉しいぞ。すいません。パンください。」

「はーい。」

僕らは道路側の窓側の席だ。心地良い光が入る。

その時だった。道路から車がつっ込んできた。俺様の横のリキの背中にぶつかった。

「きゃー。」悲鳴が店内に。横のリキはビクッともせず。パンをくわえて

振り返り車をつかみ背負い投げ。車は道路にコロコロと転がっていった。

「俺様のご飯の邪魔をするな。」

とまた壊れた椅子にすわりモクモクとパンを食べ始めた。

さすがの俺様も驚いた。「リキ、お前は?」

「ただの怪力だ。それよりキリ、ここのパンはやっぱりうまいぞ。

食べ放題だ。早く食べろ。」

「ああ、そうだな。」食いしん坊の俺様もこの状況の中、パクパク食べ出した。

横のフウマが「これはさすがにまずいな。

マサル、お前の出番だ。」

「その前にフウマ。お前が先に店内を直せ。」

「そうだな。」フウマが紙に店内のきれいな絵を書いた。

とたんにパン屋の壊れたガラスも元通り。

「マサル。次はお前の番だ。」

「仕方ないな。」マサルの背中から黒い大きな翼が出る。「バタバタ」と風を起こす。

騒いでいた人間達が急に静かになる。

「なんだこれ?マサル。」

「僕の風は人間の記憶を消す風さ。」

見るとマサルの背中の翼は消えていた。

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