第34話 鳴海の奔走
沖ノ島での激闘から数日後。古賀町の静かなアパートの一室では、水野奈緒が疲労困憊の体を横たえていた。沖津宮で黒い靄に侵食された記憶は、彼女の心身に深い爪痕を残し、いまだ倦怠感と頭痛に苛まれていた。
「ごめんね、鳴海姉ちゃん…」
掠れた声で謝る奈緒に、鳴海は優しく微笑みかけた。「今はゆっくり休んでいなさい。心配はいらないわ」
妹の憔悴した姿を見つめながら、鳴海の胸には焦燥感が募っていた。抜け殻となった貞子の怨念、そして沖ノ島で感じた、より根深い闇の存在。このまま手をこまねいているわけにはいかない。
「私が、残りの海門の手がかりを探す」
鳴海は、静かに決意を口にした。奈緒に付き添っていたが、このまま二人で足止めされているわけにはいかなかった。
古賀町のアパートを後にした鳴海は、まず、沖ノ島で羽田雫から見せられた古地図を改めて確認した。筑豊の山奥に位置するという「狗ヶ岳」、そして博多湾の沖合に存在するとされる「玄界島の沖」。しかし、具体的な場所は依然として不明だった。
「狗ヶ岳…筑豊か。私の故郷に近い場所だ」
かすかな記憶を辿りながら、鳴海は思い出していた 。幼い頃、祖母から聞いた古い言い伝えの中に、何か手がかりが隠されているかもしれない。
一方、玄界島の沖については、全く手がかりがなかった。博多湾は広大であり、その沖合となると、さらに範囲は広がる。何か特別な目印や伝承がない限り、見つけ出すのは困難を極めるだろう。
鳴海は、まず狗ヶ岳方面へと向かうことを決めた。かつての故郷であれば、何らかの伝承や言い伝えが残っている可能性がある。もし、そこで手がかりが得られなければ、玄界島の沖について、改めて情報を集めるしかない。
古賀町から筑豊へと向かう電車の中で、鳴海は葛藤していた 。妹の奈緒を苦しめた抜け殻のことも、頭から離れなかった。あの時、奈緒の瞳に宿っていた、異質で仄暗い光。あれは、本当に貞子の怨念だけが原因だったのだろうか。雫が語った「負の連鎖」という言葉が、鳴海の心を重くしていた。
「私が、この負の連鎖を断ち切らなければ…奈緒のためにも、そして、この地に住む全ての人々のためにも」
固い決意を胸に、鳴海は故郷へと続く道をひたすら走った。妹の眠る古賀町を後に、封印の眠る地へと、一人足を踏み入れようとしていた。
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