第13話 ごぶ焼き

 秀樹は次の日から情報収集に費やし事態が好転する情報を集めようとした。

 しかし得られたのはこのままではダンジョンブレイクを防ぐのは難しいというネガティブな情報ばかりであった。


 失態を犯した支部長が謝罪するか、『氾濫』が発生し周辺地域に被害が出始めれば『六花』を含む大手ギルドも重い腰を上げる可能性はあるが、現状探索者不足を解消する手立ては無い。


「ここら辺にもそれなりに知り合いはいるけどそれは職員さんたちがやっているし。それに影響力が強い人が動くとかしないと難しいかな」


 協会の職員たちは、地道にコツコツと探索者たちを説得するという手法を実行しているが、それではダンジョンが『氾濫』するまでに間に合わない。

 今欲しいのは、一度に多くの探索者を動かせるムーブメントであり、そんな大事を引き起こせる人材であった。


「まあそんな人の登場を期待するんじゃなくて、実現可能な方法を模索するしか…となると支部長か。取り敢えず勇作くんか五十鈴さんにも話を聞こう。結局昨日は話を聞けなかったからね」


 秀樹はそう結論づけ、取り敢えず探索者協会に向かうことにするのであった。


 探索者協会に戻ってみると、昨日の閑散具合からは考えられない程に探索者協会が混み合っていた。

 

「え? こんなに人が、しかも明らかに探索者以外の人が協会に…え?」


 昨日は職員たちは忙しそうにしていたが、当の探索者たちは情報収集をする前から探索者不足が感じ取れるほど少なかった。

 しかし今、支部からは溢れるほどの人々が集結している状況であった。

 しかも探索者ではない一般人も混じっている異常事態に秀樹は困惑してしまう。


「もしかして『氾濫』が…って感じでも無いか。じゃあ尚更何なんだろう?」


 一瞬、ダンジョンが『氾濫』を引き起こし、避難のため探索者や一般人が逃げ込んできた可能性も考えたが、集まった人たちの顔に悲壮感は見られない。

 それどころか高揚感すら感じさせる表情を浮かべる者たちすらいる。


「取り敢えず、誰かに聞くかどうにかして…」

「『ごぶ焼き』、『ごぶ焼き』、現在調理中となっております! 列に並んで静かにお待ちください」

「えぇ!?」


 探索者協会に響くにしては相応しくない、まるで屋台の客引きのような声から聞こえてくるごぶ焼きという単語に驚きの声を上げてしまう秀樹。

 しかしそんな彼を置いてけぼりにして客引きは続く。


「また、受付でゴブリン祭に参加くださり、ゴブリンを狩り、ゴブリン肉を持ってきてくださった方には、『ごぶ焼き』及び『ごぶ焼きスペシャル』の優先券を配っております! 奮ってご参加ください」

「だってパパ! 優先券だよ」

「ああ、うん。分かった。受付行ってくるよ…」


 息子に促され、困惑しながらも受付に向かっていく探索者パパを見て、秀樹は理解する。

 経緯はまるで分からないが、『小鬼ゴブリンの洞窟』でのダンジョンブレイクという災害を、ゴブリン大量発生により開催されたゴブリン祭というイベントに置き換え、加えてその祭の目玉として『ごぶ焼き』と『ごぶ焼きスペシャル』という謎の料理を据えたのである。


「聞きたい事が幾つもあるけど…取り敢えず優梨花の所に行こうかな。はぁー」


 『ごぶ焼き』という単語が聞こえた時点で、優梨花が関与している事を確信していた秀樹は、人が密集している方に向かっていくのであった。

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料理人のダンジョンクッキング 和ふー @qupitaru

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