第11話 旨みの薄い

 福岡のダンジョンで発生したダンジョンブレイクの影響で、『小鬼王ゴブリンキング』と『小鬼女王ゴブリンクイーン』が出現した。

 探索者業界に詳しくない者たちはこのニュースを聞いてもそれほど動じずにいられる。

 最近人気のダンジョン配信などで大鬼オーガや竜と言った存在を討伐する映像を見ている彼らにとって、王や女王と言う名前を冠していても、所詮は小鬼ゴブリン。大事には至らないだろうと言う謎の楽観的な考えがあった。


 それは探索者業界やダンジョンの知識がまるで無い優梨花も同様であった。


「楽観的…でも小鬼ゴブリンよね? 確かに『大角牛』とかの食材よりは強いかもしれないけれど、探索者たちが力を合わせれば倒せるんじゃないの?」

「まあ、その考えは間違ってはいないよ。王と女王が揃った場合、産まれてくる小鬼ゴブリンたちは『精鋭小鬼ゴブリンエリート』になったり、上位個体、特殊個体に進化しやすいとか言われてるけど、力を合わせれば問題は無いね」


 実際、その考えは間違ってはいない。放置しておけば、『小鬼女王ゴブリンクイーン』の能力によって指数関数的に小鬼ゴブリンが増え続けるため厄介ではあるが、今回のように早期に発見出来ていれば『氾濫』を起こすこと無く対処が可能である。

 しかしそれは優梨花や秀樹の言う通り、探索者たちが力を合わせればこそである。モンスターが小鬼ゴブリンとなると話が変わって来てしまう。


小鬼ゴブリンはモンスターの中でも旨みの薄いモンスターだからね。協会から支払われる報奨金をプラスした所で受けようとする探索者は少ないだろうね」

「え、でも強制依頼? みたいなのあるんじゃないの? 断ったらペナルティみたいなやつ」

「あるよ。でも『氾濫』が起こったとかなら兎も角、その前段階だと協会は強制依頼は出さないだろうね。特に大手ギルドには」


 善人な探索者が少ないとは言わないが、仕事として探索者をやっている者たちにとって、社会のためになるとはいえ実入りが伴わない仕事を好んで受ける者はいない。

 探索者も一種の人気商売なため、仕事を受け達成することにより、人気や認知度が上がるのなら受ける者もいるが、世間から雑魚扱いされている小鬼ゴブリンではそれもない。


 そうなると、探索者たちの自発的な参加はあまり期待できない。そうなれば優梨花の言ったように強制依頼や指名依頼でかき集めるしか無いのだが、それも難しい。


「なんで?」

「まあ色々とあるけど、一番はそういうのを指示する協会の幹部たちが、問題の深刻さを理解していない点かな。小鬼ゴブリン程度で大手ギルドに借りを作りたく無いとか思っているんだよ」


 このようなダンジョン災害において迅速に指示を出す職務に就いている協会の上層部こそ、小鬼ゴブリンを雑魚扱いしている。

 現場を知っている者たちなら小鬼ゴブリンの恐ろしさも理解しているのだが、上層部の者たちにはそれが無い。そのため職員を災害地に派遣して仕事をした気になっているのだ。


「それと時期も悪いね。九州を中心に活動している大手ギルドが今、海外のダンジョンへ遠征に出掛けていた筈だよ。探索者集めは相当苦労しそうだね」

「…じゃあ青葉ちゃんも勇作さんも危険な場所に派遣されたのね」

「うん。だから優梨花には悪いけど僕は――」

「仕方がないわ。秀樹さんちょっと待ってて」


 『小鬼王ゴブリンキング』のニュースを見たときから気になっており、『小鬼女王ゴブリンクイーン』の出現に加え知り合い2人も現地に派遣されたとなって、じっとしていられなくなった秀樹は、今回のダンジョンブレイクにおける悪条件を伝え、現地に向かう許しを得ようと画策した。

 しかし優梨花からの返答は、秀樹の予想を超えるものであった。


「えーと端末持ってきて何するの?」

「ゴブリンの美味しい調理法をネットで探すの。載って無ければ現地でレシピ開発しても良いけど…」

「え、付いてくる気なの?」

「当たり前じゃない! それに」

「それに?」

「『小鬼王ゴブリンキング』と『小鬼女王ゴブリンクイーン』が絶品な可能性もあるものね」

「その可能性は無いと思うけどなぁー」


 妻の料理への探求心の強さに恐れを抱きつつ、青葉たちの身を案じ、興味の無い小鬼ゴブリン狩りに付いていくと宣言してくれた妻の優しさに心暖まる秀樹であった。

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