第3話 まな板の上の牛
生産系ジョブの者がダンジョンに行くという事も少ないが、それに加えてダンジョンで生産系スキルを使う場面などより少ない。そのため『仮想キッチン』のような能力の拡張が、生産系ジョブに備わっているモノなのか、優梨花の才能に寄るもののかは今のところ判断が付かない。
「はい秀樹さん。『大角牛』のしぐれ煮よ」
「あ、あぁ、ありがとう」
それでも、ダンジョン内で暖かいご飯を食べられているこの光景は、優梨花だからこそだと確信できる。
とはいえ、優梨花は自分の料理の出来映えに満足していない様子であった。
「味はどうかしら?」
「うん、いつも通り美味しいよ」
「うーん、でももう少し容量の大きな『魔法鞄』が欲しいわ。『仮想キッチン』で擬似的に調理器具の役割も出来るみたいだけれど、あんまり質が良い感じがしないかったのよね」
「…ま、まぁそれは熟練度の問題もあるんじゃないかな?何度も使えばそれだけ質も向上する筈だよ」
「それはそうね」
探索者として『魔法鞄』には、ダンジョンの整理品であるモンスターの素材やドロップ品を入れたい秀樹は、そう優梨花を説得する
そもそも『仮想キッチン』は火や水、空間など様々な属性が複合した高度なスキルと言える。そんな高度なモノをダンジョン初日から生み出し、そしてある程度使いこなせている優梨花が異常なのである。
「さてと、お腹も膨れたしそろそろ探索に戻ろうか」
「そうね…あ、秀樹さん。ちょっと聞きたいんだけど、『調理』スキルって戦闘には使えるのかしら?」
「え、生産系スキルを戦闘に…うーんどうだろう」
秀樹も探索者の中では、スキルの使い方を工夫するタイプではあるが、流石に生産系スキルを戦闘に使うという発想は出てこない。
そもそも生産系スキルを戦闘に使うよりも、素直に戦闘系スキルで殴った方が効率的である。とは言え初日で『調理』スキルから『仮想キッチン』を派生させた優梨花であれば、そういう事も可能かもしれない。
「やってみればいいよ。危険なら僕がフォローするし」
「ありがとう秀樹さん。じゃあやってみるわ」
そう秀樹に背中を押された優梨花は、『調理』スキルを戦闘に使ってみることにした。
結果として秀樹のフォローは必要なかった。
先ほど美味しくいただいた『大角牛』と対峙した優梨花は、大きな角を使った猛突進を軽やかに回避する。そしてすれ違い様に足を引っ掛け『大角牛』を転ばせる。
「モゥ!?」
「そうして『仮想キッチン』展開っと。対象『角大牛』をまな板に」
「モ、モォー!!」
転倒した『大角牛』を対象に『仮想キッチン』を展開し、強制的にまな板上に『大角牛』を乗せる。
そうなると食材判定されたモンスターは身動きが取れなくなる様子で、『大角牛』もただ、上目遣いで優梨花を見るしかない。包丁を片手に迫ってくる優梨花を。
「モ、モォ~」
「そんな悲しそうな目をされても困るわ。ごめんなさいね!」
「モ゛ォーーーー!」
「……やってることは僕も優梨花も変わらないのに、残虐性が高まって見えるのは何でなんだろうね」
結論、生産系スキルで戦闘は可能であるが、とても可哀想な気持ちになる事が判明したのであった。
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