料理人のダンジョンクッキング
和ふー
第1話 プロローグ
数年ほど前に突如として地球上にダンジョンが出現した。そのダンジョンからは、現代科学では考えられないような現象を引き起こすアイテムが発見された。
その一方でダンジョンには、ファンタジーでしか見れないようなモンスターと呼ばれる危険な生物が出現した。
そんな危険なダンジョンに入り、モンスターを討伐したり、アイテムを入手する者たちを人々は探索者と呼んだ。
◆◆◆
ギルドという目的を同じくした探索者たちが徒党を組む事が一般的になっている現在に置いて、ソロ探索者はかなり珍しい存在である。
そんなソロ探索者の中で、名が知られ出している若手探索者の坪秀樹は、妻の発言に驚愕していた。
「えーと、僕の聞き間違いかもしれないからもう一度言ってくれないかな?」
「いいわよ? 私もダンジョンに行ってみたいのだけどいいかしら?」
「ダンジョン黎明期に比べたら若干だけど安全になったとは言え、それでもまだまだダンジョンには危険がいっぱいある。何でダンジョンに行きたいなんて考えたんだ?」
探索者は危険な職業である。いつ命を失うか、いつ働けなくなるか分からない。
そのため優梨花が自分の事や今後について心配したため、そんな事を言い出したのかと考えた。
しかし自身の妻はそんなに普通の女性では無いことを一番よく知る秀樹は、その事を失念していた。
「この前、テレビでダンジョン特集やっていたじゃない」
「へぇ? あぁ、うん」
予想外の話し始めにすっとんきょうな声を上げてしまう秀樹であったが、ギリギリ持ち直す。
「そこで紹介されてた『火炎豚』が、テレビの専門家が言うには倒すと纏っている火炎が消えちゃうのよね?」
「え、あ、うん。そうだね。自身の魔力で炎を纏ってるから、倒されたら消えるよ。それが?」
「焼いたお肉が冷えちゃったら美味しくないじゃない」
「あ、うん? えぇ…」
折角持ち直した秀樹は、話の行方が不明となってしまったため、完全に脱力状態になってしまう。
しかし優梨花は話を続ける。
「私、思うのよ。秀樹さんがダンジョンで狩ってきてくれるモンスターたちは、あれはあれで美味しいのよ。でも鮮度が命のモンスターもいるんじゃないかしらって」
「…だからダンジョンに行きたいの?あんな危険なダンジョンに? 料理をしたいから?」
「そうね。折角なら秀樹さんに美味しい料理を食べて貰いたいもの」
「それは嬉しいけど」
秀樹は葛藤する。妻に危険な仕事をやって欲しくないという気持ちは多少あるが、優梨花の望む事は思う存分やって欲しいとも思う。
しかも秀樹が幼い頃から探索者たちを見てきた経験と自分が探索者として活動してきた経験から、探索者として大成するタイプは、優梨花のようにぶっ飛んだ個性があるタイプである。
そういう意味では優梨花は探索者としてもやっていけるかもしれない。
「と、取り敢えず探索者講習とか諸々を受けてみる? それ受けてみて気持ちが変わらなければ一緒にダンジョン行こうか」
「分かったわ」
取り敢えず秀樹の提案で、優梨花は探索者講習を受ける事になった。
◆◆◆
探索者協会の支部では定期的に探索者講習を開催している。座学と実技の講習があり、それらを受ければ探索者資格が交付される。
危険な職業の資格としてはかなり簡単に取得できてしまうが、それだけ各国が探索者の成り手を募集しているという事なのであった。
そんな講習会場では座学の講習が終わり、受講者たちが実技講習へ移動した後、職員たちが後片付けをしていた。
「うわ、見ろよ最後のミニテスト。殆んど白紙じゃないか」
「こっちは書いてあるが殆んど間違ってるよ」
「…最近こういう人増えたよな。戦闘力が高ければ良いって座学を疎かにするの」
確かに探索者に戦闘力は必要である。しかしそれだけしか無いのでは困るのだ。探索者は討伐したモンスターを解体したり、必要なら部位のみ採取し持って帰る事なども求められる。
そのため座学でモンスターの特徴などを把握するのは大切なことである。
しかし最近ではダンジョン探索の配信などが流行し、それに憧れて探索者になろうとする者も多く、それ故にダンジョンやモンスターについて勉強不足のまま講習を受けに来る者が多くなってきていた。
「うわっ! これは…」
「また、酷い答案があったか?」
「い、いえ、逆というか、ある意味酷いというか」
「どんな回答だ?」
「なんか、モンスターの特徴欄に、そのモンスターの味やら調理する際に気を付ける点などをびっしり書き連ねてまして」
「はぁ?」
「あ、裏面に『瑞々鳥』のバンバンジーのレシピまで…うまそうですね」
「ど、どれ見せてみろ」
「あ、ずるいですよ!」
その答案はその支部で伝説となった。余談だが、その日から数日間、その支部では『瑞々鳥』の肉が買取強化されるのであった。
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