穢れの多い者たちは

@whatareyoudoing

第1話

平日の昼間にコンビニで待ち合わせ、先輩の車で出車して五分。

信号待ちでウィンカーの音しか聞こえなくなった。

二人きりでお互い無言だったからか山里先輩が話し始めた。

「川田さエタって知ってる?」

「干支ですか?馬鹿にしてます?」

「馬鹿にしてない。違う”穢れが多い”の穢多。」

「知らないです。」

「歴史の授業でエタヒニンって出て来たでしょ?」

「出てきてても忘れてますよ。」

「覚えとけよ。まいいや。めっちゃ昔に天皇とかが鷹とかペット飼ってたんだよ。

それで偉い人間が飼ってるペットの餌を取るのを生業にしてた人がいたのね。

「餌を取る」と書いてえとりって呼ばれてたんやけど。

江戸時代に入ると仏教の考え方で動物を殺して

その死体で色々やってるのが穢れてると考えられて差別を受けたという話。

当時は死んだ牛とか解体してたらしいから。」

「なんでその話を?」

「お仕事の話です。私らの仕事は雇い主からの情報で人を殺すこと。

主に裏切り者の警察官。相手は私らからしたら穢多なわけですよ。」

「あーなるほど。犯罪に加担するなんて人のやる事じゃない!

あいつらは穢れている!ってことすか。」

「まあそういうことです。そして私は人間の価値観と行動が

昔と大して変わっていないことを言っています。」

「というと?」

「あいつは我々の価値観では穢れていておかしい奴だ!

あいつはおかしいから攻撃してもいいんだ!ってなってるじゃん。

大して変わってないよ人間は。

だから初めて長期間こういう仕事する君には気負わないで欲しいし、

重く捉えないで欲しい。そして我々を裏切らないで欲しい。」

「先輩めっちゃ優しいっすね。」

「お前は裏切んじゃねえぞって話だよ。」

こっちがへらへらしていたからか急に語気が強くなった。

先輩は続けた。

「君は警察官だった。そして犯罪に加担した。

上にはばれなかったが今の雇い主にはばれて脅されて今ここにいる。」

全く目も合わせずに淡々と話されている。

いくとこまでいったからここに来たのかもしれない。

「我々は社会の中でかなり穢れているほうだ。

そしてもっと穢れている奴を消す仕事を仰せつかった。

ここは奈落の一歩手前ってところだ。

君が来る前私には相棒がいたが三か月前音沙汰もなく消えた。」

丁度目的地に着いた。

エンジンを切ったあとで目を合わせて言われた。

「君とは長く仕事が出来ることを願ってるよ。」

はいと答えるしかなかった。

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