第6話



 (凄ぇ!辺りが見えなくなるくらい霧が覆ってる筈なのに、俺にはくっきりと周りが見える。)


 母親が発動した魔法にレガロは内心で感動していた。

 止められていなければ大きな声で称賛したかも知れないほどに興奮していた。


 しかし、興奮している彼を他所に事態は刻一刻と変化しており、腰に下げていた武器を抜き女が居た方へと、視界を霧に邪魔されながらも兎に角あたりを付けて得物を振るう男達の姿を見て、レガロは少し冷静になった。


 (コイツら、判断が早いな。奴隷達の損害よりも優先で敵の排除にすぐ移ってる。)


 ミスを犯したとは言えど、優秀な傭兵である彼らは即座に対応しつつある事に、まだ幼い彼は自身の命に迫る刃にも関わらず、ひどく美しい物を見た時のように動きが止まっていた。


 だが、それ以上に凄いものを彼は見ることになる。



「ぐぁあああ!」


 先程まで武器を持ってなかった母親が、見事な動きで敵から武器を奪い取り、そのまま躊躇なく斬り付けて倒して行くのだ。そして、


「【小炎爆】」


 魔法を舞うように敵を斬り刻みながら発動させて、自分よりも体格の良い男達を蹴散らして行く。


 ボンっと威力の割には大きな音が鳴る魔法を何度か発動させて目立つように動いている彼女であったが、意外にも男達に囲まれる事はなかった。


 (なるほど、この為にさっきの霧を出す魔法を使ったんだな。)


 敵も優秀で見事ではあったものの、相手を翻弄する己の母親を見ると、何故かは分からないがレガロは嬉しい気持ちになった。



 そうして、暫く敵の内部を荒らしていると、流石に上手く立ち回っていても徐々に囲まれる始めてきている雰囲気をなんとなく感じてはいたのだが、魔法を連発する彼女もその息子である幼児も焦る事なく淡々としている様は傭兵達には不気味に映え始めた、そんな時。

 商人や護衛達にとって、本当の苦難が迫る。


 始まりは魔法であり、多種多様なやつが一つ一つの威力としては人体を消しとばす程ではないのだが、それでも大量に降って来ると女を囲みつつあった傭兵達は堪らずにといった様子で吹き飛ばされて行く。

 そしてそれに続いて、



「うぉぉぉおおおおおお!!!!」



 近づいてくる戦士達の裂帛の絶叫。

 男達の気迫により地面が振動する。



「来たようだね」


 結論から言うと、作戦は見事に成功した。


「待たせたな!それじゃあ、暴れるぜぇぇぇ!!!!」



 魔法攻撃隊の一斉掃射を前菜とするように、メインというか主役が戦場に到着する。

 一振りで付近の傭兵を鎧ごとひしゃげさせながらぶっ飛ばす怪力を持つ男とそれに率いられる盗賊団の本隊と言うべき無法者の集団が、護衛として雇われた屈強な男達を次々と蹂躙して行く。


 その様はまるで、数の差が3倍程度あるとは思えない程に盗賊達という大きな魔物が護衛達を喰らって行くようだった。



 (この世界の盗賊って、こんなにも強いものなのか?襲われてる方の人達もそんなに弱そうな感じはしなかったのに…)


 屈強な傭兵達は、確かに一人一人が粒揃いであり、本来ならば盗賊程度に負けるような事などあり得ない。なぜなら、仮にそれが成立してしまうならば、護衛などなんの役にも立たず、商人は気休め程度に不要な金をばら撒いてる事になるからだ。当然、利益に敏感な商人達がそんな事を知っているなら、一銭たりともそこに費やす筈がないのだ。


 ましてや、今回のような商隊となると、各々が金を負担して出来るだけ上等な戦士達を雇い入れる筈なので、普通の盗賊や弱い魔物達が襲って来る事は通常あり得ない。


 ただし、例外はある。


 一例として、頭領の影響力が大き過ぎる盗賊達の集団では、稀に得られる大きな利益を狙い、護衛が整っている商隊や高貴な存在に襲い掛かる事もある。

 彼らは、自分達の損害と得られる利益との釣り合いを度外視して襲う愚か者であり、最低限の法すら守れないような不埒者達が自らを慮る事など難しく、そこに自己防衛の枷が嵌って損害を抑えようなんて事を考えようとはしない。

 なんなら数をわざと減らす為に部下を強者に突っ込ませる頭目も存在していて、やはりどんな護衛を側に侍らせていても、全くリスクが無い状態で森に足を踏み入れることは不可能だった。


 そして二例目。

 これはもはや小さく局所的な自然災害の一種とも言える魔物という人間よりも平均して協力な化け物達に遭遇する危険性。

 強力な魔物の個体数はそれ程多くないが、遭遇時の絶望感は半端なく、魔物の意思次第で遭遇した可哀想な存在のその後は決まる。


 さらに、遭遇することなど滅多に無い強い魔物でなく、弱い魔物といっても襲って来る事は珍しくなく、知能が足りない群れるタイプが護衛を沢山雇っている商人を襲って来る事はよくあることであり、遭遇回数も頻繁であるが故に、どちらかと言うと、弱い魔物の露払いに護衛を雇って行く感覚を持っている商人の方が多数派であった。




 さて、果たして今起きてる小さな戦場はどうであろうか?



 魔物ではなく、盗賊であるから勿論前者であるのだが、割と少人数な盗賊達が数人集まって一人ずつ着実に護衛達を削っている様子を見ると、どこか不気味だった。


 (くそ!この盗賊共、戦闘に慣れ過ぎている。)


 護衛隊の責任者は部下に指示を大声で出しながらも、辺りを支配する白い霧により視界が限られる状況ではどうすることも出来ない歯痒さを感じ、内心焦っていた。


 (今回の護衛は中々の粒揃いだった筈だ!それなのに何故だ!なぜこんなにも仲間がやられて行くのが早い?)


 仲間が次々とやられるのを肌で感知しながら、敵の不気味さに若干の恐怖を与えられるて背中に冷たい汗が流れて行く。

 そこへ、指揮系統を潰す為か複数の盗賊達が攻撃を仕掛けて来る。


 キン!っという金属がぶつかり合う音が複数回鳴り響き、火花を散らした後に盗賊達は責任者から離れて行く。


 (これだ!さっきから何度も私に攻撃して来ては、押し切れないと判断すると、無理をせずに撤退するその姿勢。指揮系統と練度がしっかりし過ぎている!これは、本当に盗賊の襲撃なのか?)


 指揮か敵の殲滅に専念したいというのに、絶妙なタイミングで邪魔をして来る相手にイライラとしながら、盗賊達の襲撃を何度も凌ぐ。

 

 

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盗賊になったし、もう後戻りは出来ないから流れに身を任せよう 描き手 @kakite

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