蓮内鈴は忙しい 万事屋編

あみねここ

初依頼編

第1話 頑張ってんだよ!

日本の小田舎にある小さな神社、そこがあたしの家。

あたしは神社の巫女をしている、蓮内鈴れんないすず。16歳、なんの出会いもなく16年間を生きてきた。

あたしの1日は早朝5時半から始まる。朝はお腹空くけど、そんな気持ちをふりきって神社の周りを10周走る。走ったあとは呼吸を整えて座禅を組む。

そうこうしてたら、6時半ぐらいになるからそこから朝ごはんにする。いつも朝ごはんは白ご飯に漬物、前日に作ったお味噌汁を食べている。

朝ごはんを食べ終えたら、霊験あらたかな札を作る修行をする。札を作る時は集中するから、近くにはたい焼きやらどら焼きやらを置いて修行をする。


今日も修行をする。

「んー!甘〜♡」

今日のおやつはたい焼き、あたしは頭から食べる派やっぱり頭が良くなりたいからね。糖分も入った事だし、やるか!

「あ、鈴、まーたそんなことやってる。」

声をした方を見ると宙を舞う妖怪がいる。

「はあ?!そんなこととはなんだ!!雪!!」

声の主は狐の、自称この神社の守護神の小さな妖怪、名前は雪。

雪はくすくすと笑いながら私の方へふわふわと降りてきた。

「鈴には霊力なんてほとんどないのにやるだけ無駄だっての。」

「でも、札には霊力あるでしょ?」

「うーん、まあ俺ほどのは祓えないけど、雑魚な妖怪ならたまーに祓えることがあるかもしれないね。」

なによその言い方!!ムカつく!

「うるっさいなあ!!あんたなんかあ!!」

怒りに任せて、あたしは鳥居近くにある狐の像に足をかけた。これが雪の本体らしい。

「わああ!待って待ってぇ!!鈴〜!」

雪は情けない声を出して、あたしのそばに飛んでこようとしていた。

「止まらぬわぁ!!ふんっっ!!ぬぬぬぬ!!」

狐の石像は重たくて、びくともしない。

「…ぷっ、あははははは!!鈴の弱い力じゃ無理だよ、あははは!」

雪は笑い転げた。

あたしは笑い転げる雪を横目に、霊験あらたかな札づくりに勤しむことにした。

「ふー…はぁぁぁぁ…」

「へったくそ、霊力の込め方が違うんだよ。こうするの。」

そう言って、雪はあたしの横に座って、手を取って・・・。

「はあっ、はあっ、はあっ・・・」

「助けてぇっ!!!」

神社のそとから、誰かの声が聞こえた。雪も驚いたようであたしの手を離した。

あたしは声の主を見るため社務所から飛び出した。

「いったいどうしたの?!」

声の主は小さな女の子で、うさぎのような大きな耳を持った着物を着ている。

「ちいさい…」

雪は女の子を見てそう呟いた。

「…ぁ…はぁっ…はっ…」

女の子に気を取られていると後ろから誰かがいることに気が付かなった。

「ゥナ…っまって…はっ…ぁ…」

「きゃああ!?」

顔面蒼白でもう一人女の子がやってきた。あまりに化け物じみた姿に思わず驚いた。

「お前、なにもの?」

雪は驚きもせず、女の子に尋ねた。そしたらうさぎの耳の少女が答えた。

「りんが呪われちゃったあ!!」

答えにもならない答えにさすがの雪も戸惑った。あたしは抜かした腰を立て直し、

「あの、とりあえず座ってください。お茶出しますから。」

彼女たちをとりあえず、縁側に座らせた。


「ふはー!ありがとう。生き返る〜。」

「生き返る〜。」

彼女がいった言葉をうさ耳の少女は繰り返した。このこカワイイ!

「あの…何があったんですか?」

「はむっ、これ美味しいね鈴。」

「あっ、ちょっと雪!勝手にお茶菓子食べないでよ!あたしが食べようと…じゃなくて、お客さん用のやつなのに!」

あたしが雪を咎めると、彼女が吹き出して

「あっはは、いいよぉ。もっとたべな、雪くん。」

「お前いいやつだね、俺お前好きだよ。」

都合の良い奴め…。あたしが雪を睨んでいると、彼女がこちらを見て、

「あー、名前言ってなかったね。私は間久凛まくりんよろしくね。」

「ほら、ウナも。」

そういって凛ちゃんはうさ耳の女の子の背中を小突いた。

「ウナはウナっていうの。よろしく。」

あどけない仕草で自己紹介をしたウナちゃんは可愛くて、思わず悶えそうになった。

「…ぐ、えっと…あたしは…」

あたしも流れ的に名前を言おうとしたら、前に雪が滑り込んできて…

「俺はね、雪!よろしくな、人間!あと式のやつ!」

「まっ、失礼しちゃうわね!ウナには名前があるのに!」

出会ってそうそう喧嘩…!?

「仲良くしてよねぇ…雪…。ウナちゃんごめんね…。」

「ごめんごめん、えっとぉ…」

凛ちゃんも謝ってくれたけど、あたしの名前を知らなくて口ごもった。

「あ、あたしは蓮内鈴。ごめんさっきは雪に遮られて言えなかったの。」

「俺のせい?鈴のイジワル!」

さっきまで上機嫌だった雪が突然拗ねだした、でもいまはどうでもいいや。

「それで…えと、凛、さん。どのような件でこちらに…?」

「えっとね、さっきもウナが叫んでたけど、呪われたんだよねぇ…。」

凛ちゃんはほほをかきながら眉をひそめて言った。かと思うと何かを思い出したかのように表情を変えて、こちらの方に身を乗り出して、

「鈴ちゃんって何歳?」

「…え、なんですか急に…。」

「や、もしかしたら同い年かなと思ってさ、私は16だよ。」

え…

「鈴ちゃんは?」

「あたしも16…。」

呪われたのに余裕の貫禄、あたしは凛ちゃんは20代かと思ってたのに…

「な、なんでそんな余裕なの…?」

「なんでって、だって慌てたり怖がったりしたって呪いは人の心なんてないんだから、勝手に呪いが解けるはずなんてないでしょ?だからなの。」

「……」

ごもっともな意見にあたしが呆気にとられてると、雪がまた割り込んできて、

「お前肝座ってんな、鈴とは大違いだよ。」

「んなっ!?」

確かにそのとおりだ、でも何もあたしがいるところで言うのは違くない!?

「ふふっ、あははっ、面白いとこ来ちゃったなぁ。ね、ウナ?」

「ウナあいつ嫌い。」

ウナちゃんは雪の発言にまだご立腹みたいだ。

「雪くんすごいね、ひと目見ただけでウナのこと見破るなんてさー。普通はただの

妖力持って生まれたうさぎだと思われるのに。」

「それもあって、ウナびっくりして拗ねてるんだよ。雪くんは何も悪くないよ。」

そういって凛ちゃんは雪の頭を撫でた。雪もまんざらではなさそう…いやむしろあたしが撫でるより気持ちよさそうまである。初めてあったばかりなのに嫉妬心が生まれてしまうなんて思ってもみなかったな。なんていう劣等感にも似た気持ちに思考を飲み込まれていると、凛ちゃんの声が耳に入った。

「同い年ってことはさ、呼び捨てでもいいよね?あ、距離近すぎ?」

「う、ううん!いいよ!」

「ありがと、じゃあ…鈴。」

少し照れたように表情をして凛ちゃんは名前を読んだ。あたしも返さなきゃ。

「り、凛、ちゃん…」

まだ呼び捨ては慣れなくて、ちゃんが付いた。恐る恐る、凛ちゃんの顔色を見ると爽やかな笑顔で、

「はぁい」

返事をしてくれた。その流れで呪いについて聞こう。

「凛ちゃん、呪われたってどういうことなの?」

「あーえっとね、山の麓の…町の外れにある洞窟あるじゃん?そこにいったらね、体が急に重たくなって、ウナが呪われてるって言ったんだ。」

「…なんで、洞窟なんかに行ったの?」

「それは、おばあちゃんに言われて…」

一度凛ちゃんは口をつぐんだけど、直ぐに口を開いて

「おばあちゃんね、私のこと嫌いなんだ。それで、私を呪ってもらおうとして、あの洞窟に行かなきゃウナを殺すって…」

「うぅっ…!!」

ウナちゃんは涙目で凛ちゃんに抱きついた。

「ウナ…大丈夫。ウナは小さいから抵抗力もあんまりないし、私の式の付与能力もあんまり強くないからおばあちゃんでも簡単に…できるんだ。」

「そっ、か…」

「あたしがなんとかする!凛ちゃん、大丈夫だから!」

「鈴…。」

かくして、あたしはこれがきっかけで、凛ちゃんの呪いを解く依頼を受けた。

一旦凛ちゃんたちは帰らせた。その夜…

「ねー鈴ー。そんな簡単に請け負っちゃっていいの?鈴には…」

あたしの怒りに怖気付いたのか雪は言葉を飲み込んだけどもう止まれない。

「うっさいなぁ!解決できるように今ぁ…」

「頑張ってんだよ!」

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